聖女の代わりなんていないのに見栄を張って私をクビにしたのですか?

木山楽斗

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8.意見の相違

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「本気ですか、姉上……」
「ええ、もちろん私は本気よ」
「しかし、フェルリアさんはまだこの国に来たばかりなのですよ?」
「あら? 下らないことを気にするのね。私は優れた者ならば、事情なんて気にしないわ。もちろん、信頼できるという前提があってのことだけれど」
「フェルリアさんが信頼できないと言っている訳ではありません」

 ウォルファン殿下は、イルファナ姫の判断に動揺しているようだった。
 それは普通の反応だ。私だって混乱している。イルファナ姫の判断は、大胆過ぎる。

「イルファナ姫、お言葉ですが、私もその提案を受け入れるのは気が引けます。そもそも何を持って、信頼していただけているのかもわかりませんし……」
「あなたは見るからに人が良いもの。まあ、それは私の所感でしかないわね。そうね、理由をつけるならあなたの居場所がないことかしら?」
「居場所?」
「サルウィス王国から見捨てられたあなたは、アドラーク王国に縋るしかない。だから裏切りはしない。そう考えることもできるわ」

 イルファナ姫の言葉に、私は息を呑む。彼女の理論は、確かに納得できないものではなかったからだ。
 ただそれでも、早急な判断のように思えてしまう。それ程にアドラーク王国は、人材の確保に必死ということなのだろうか。

「姉上、そういった言い方はあまり良いものではありませんよ。それに、俺が言っているのはフェルリアさんへの負担です。今の状況で彼女に聖女を明け渡すなど、あまりにも重た過ぎるではありませんか?」
「もちろん、実際に聖女になってもらうのはもう少し後でもいいわ。でも、この話は早くにしておかなければならないでしょう? 彼女を手放したくはないもの」
「フェルリアさんが、アドラーク王国の一員となってくれるなら、それは俺も嬉しくは思います。しかし、まだ祖国に帰すということを諦めるべきではないでしょう」
「私は……正直な所、帰したくはないわね」

 ウォルファン殿下の言葉に、イルファナ姫は笑っていた。その笑みからは、多少の申し訳なさのようなものが読み取れる。だが彼女としては、今のが本音であることは間違いないようだ。
 それは私にとっては、心なしか嬉しいものであった。そこまで自身を求めてくれているという事実には、多少なりとも舞い上がってしまう。
 しかし一方で、ウォルファン殿下の言葉も身に染みていた。彼の優しさというものはとても温かく、同時に故郷への気持ちが自分の中に確かにあることを自覚させてくれた。

「……姉上の気持ちは理解しました。だけど俺は、サルウィス王国へ彼女を帰すことを諦めるつもりはありません」
「……まあ、私もそれを否定するつもりはないわ。とはいえ、現状それが難しいことは言うまでもないことね」
「それはわかっています」
「どちらにしても、とりあえずフェルリアさんがアドラーク王国に長い間滞在することは変わらないわね……そういうことなら、少し手を貸してもらえるかしら?」
「え? 手ですか?」

 そこでイルファナ姫は、先程よりも少し軽快な笑みを浮かべてこちらに話しかけてきた。
 それにウォルファン殿下は、頭を抱えている。優しい彼としては、姉のその提案もそれ程心地良いものではないのだろうか。

「聖女だとかなんだとか、それとは抜きで、あなたには働いてもらいたいのよね。もちろん、給料だって出すわよ。生活の面倒は見るつもりだけれど、それでも蓄えは欲しいでしょう?」
「えっと、お世話になるのですから、それはもちろんです。でもいいのですか? 他所者である私が……」
「それについては、先程言った通りだけれど……安心してくれていいわよ? アドラーク王国はあなたを歓迎できる国だもの」
「それについては、俺も保証します」

 姉弟は、ここに来て同じような視線を私に向けてきた。
 それはなんというか、親馬鹿のような自国びいきなのではないかとも思ったが、私はとりあえずイルファナ姫の提案を受け入れることにした。
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