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53.仮面の裏に

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「まさか……でも……」

 私の頭に浮かんできたのは、とある人物だった。
 しかし、私はすぐにそれを否定する。なぜなら、その人物がこの国に、この町にいるはずがないからだ。

「まずは、その厄介な剣から破壊させてもらうぜ」
「くそっ!」
「それは、さっき見たんだよ!」

 辻斬りは、再びドルギアさんに向かって触手を伸ばしてきた。
 だが、屈強な騎士は、それをものともしない。ドルギアさんは、触手をその剣で切り裂いたのだ。
 よくわからないが、あの触手は一本ずつしか出せないようである。複数出せるのなら、もっと簡単にドルギアさんを拘束できるだろうし、そういうことなのだろう。

「おりゃあ!」
「くっ……!」

 ドルギアさんの一撃が、辻斬りの右手の剣を破壊した。力を込めたその剣に、あの義手の剣は耐え切れなかったようだ。
 これで、彼にはもうあの触手以外、武器はない。それは、先程のようにドルギアさんが切り裂くだけなので、辻斬りに対抗手段はもうないだろう。

「さて、どうする? まだ、やるか?」
「ちくしょう……」

 ドルギアさんは、辻斬りに対して、その切っ先を向ける。少しでも動けば、切るとそう示しているのだろう。
 それに、男は動きを止める。形だけなら、降参しているように見えなくもない。
 だが、私はなんとなく、彼が諦めていないように思った。その体には、まだ力が入っているように見えるのだ。

「何故、僕がこんなことを……」
「何?」
「ちくしょう、ちくしょう……ちくしょう!」
「なっ……!」

 次の瞬間、辻斬りの体に変化が起こった。彼の体が、膨れ上がったのだ。
 その体積が大きくなっていく。大柄なドルギアさんの倍程の体格まで、彼はその体を変化させたのだ。
 その光景には、私もドルギアさんも茫然とするしかない。こんな現象は、今まで見たことがないからだ。

「おごっ……」

 大きくなった男は、自らの仮面に左手をかけた。
 なんだか、彼は少し苦しそうだ。先程の言葉からも考えられるが、この状態になることは望んでいなかったということなのかもしれない。

「があっ!」

 獣のような声をあげながら、辻斬りはその仮面をはぎ取った。その素顔が露わになる。その顔は、見覚えがあるものだ。

「グーゼス、様……」
「はあ、はあ……」

 苦悶の表情を浮かべるその顔は、間違いなくグーゼス様の顔だった。
 ズウェール王国の第三王子が、私があり得ないと思っていた人物が、このアルヴェルド王国のグランゼンにいたのである。
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