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11(アルシーナ視点)
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ケナ島から帰ってきた後のクラールの行動は、目を見張るものがあった。
グラッカを流通させるための手配を迅速に進めて、結果的に彼の事業は成功することになったのである。
もちろん、私は彼にそういう行動を取らせたくて、ケナ島へと連れて行った。なので、この結果には満足するべきであるだろう。
だが、あまりにもいい結果が得られて、私は困惑していた。正直言って、ここまで成功することになるなんて、思ってもいなかったのである。
「流石ですね……」
「いえ、全てはあなたのおかげです」
私が彼の手腕を称賛すると、彼はそのような言葉を返してきた。
その言葉を素直に受け取ることはできない。なぜなら、私はほとんど何もしていないからである。
「いえ、全てはあなたの手腕によるものです。私は、そのきっかけに少しだけ関わったに過ぎません」
「そのきっかけが、何よりも大切なのです。あなたがケナ島に連れて行ってくれなかったら、私はこの部屋で未だに頭を悩ませていたでしょう。あなたの助けは、私にとって何よりもありがたいものだったのです」
「そんなことは……」
「あなたをここに連れてきた自分の判断が、間違っていなかったと私は改めて思いました。あなたのような優秀な人材を得られたことこそが、私の一番の成功といえるでしょう」
クラールは、私のことを称賛してきた。その言葉は、確かに嬉しいと思える。
だが、何故か私はその言葉に満足できなかった。私をこれ程に褒めてくれているはずなのに、なんだか物足りないような気分になってしまったのだ。
私は贅沢である。これ以上の賞賛などあるはずはない。一体、私は何を求めているのだろうか。
「父上も、私の成功を喜んでくれました。あなたの認識も改めてもらえました。優秀な人材を見つけてきたと、父上も言ってくれたのです」
「そうですか……」
「父上は、これでいつ自分が退いても問題ないと思ったそうです。これからは、私を中心として事業を進めてもいいと言ってくれました。これ以上の賞賛の言葉などないでしょう」
「ええ、そう思います」
彼は、とても喜んでいた。
事業が成功して、父親に認められて、今の彼は人生の頂点にいるのかもしれない。
その喜びをともに分かち合えないでいる自分が、なんだか嫌だった。私は何を思っているのだろうか。それが、自分でもわからない。
「あなたには、これからも私の秘書を続けてもらいたいと思っています。それで、構いませんか?」
「……」
「……どうかしましたか?」
クラールの言葉に、私はすぐに返事をすることができなかった。
喉の奥の方で、言葉が詰まってしまったのだ。
「……それだけですか?」
「え?」
「あっ……」
代わりに出てきたのは、意味がわからない言葉だった。
私は何を言っているのだろうか。すぐにその言葉を取り消さなければならない。
「本当に、それだけなのでしょうか……?」
そう思ったのに、私の口から出たのは先程と同じような言葉だった。
どうしてそんな言葉が出てくるのか。私は混乱する。
いや、そうではない。本当はわかっている。どうして自分が、そんな言葉を口走ったのか。私は、既に理解している。
でも、それを今言うべきではないとも理解していたはずだ。それなのに、どうして私は止まれないのだろうか。
「……それ以上を求めても、構わないのですね?」
「え?」
「そんなことを言ったのですから、そう解釈しても構いませんよね?」
「そ、それは……」
そんなことを思っている私の耳に聞こえてきたのは、震えたクラールの声だった。
彼はゆっくりと、そして優しく私を引き寄せて来る。逆らわなかったため、私はそのまま彼に抱きしめられる。
「私の傍にいていただけますか? 秘書としてだけではなく、妻として……」
「……いいんですか? 私のような面倒な立場の女で……」
「もちろん。あなた以外など考えられませんよ」
「……そうですか」
ずっと聞きたかった言葉を受けて、私は彼にその身を預けた。
なんだか、肩の荷が落ちた気がする。色々と背負っていたものが、一気になくなったかのような開放感に、私は晒されていた。
背負っていたのは、きっと私の過去だ。ずっと引きずってきたあの過去に、私は心の中で別れを告げた。
私は、彼と一緒に幸せになるのだ。だから、さようなら、私の辛かった過去。
「これから、どうかよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ……」
私達は、ゆっくりとその唇を重ねた。
こうして、私はファルテリナ・ロガルサという過去と決別して、アルシーナ・ウォングレイとなったのである。
グラッカを流通させるための手配を迅速に進めて、結果的に彼の事業は成功することになったのである。
もちろん、私は彼にそういう行動を取らせたくて、ケナ島へと連れて行った。なので、この結果には満足するべきであるだろう。
だが、あまりにもいい結果が得られて、私は困惑していた。正直言って、ここまで成功することになるなんて、思ってもいなかったのである。
「流石ですね……」
「いえ、全てはあなたのおかげです」
私が彼の手腕を称賛すると、彼はそのような言葉を返してきた。
その言葉を素直に受け取ることはできない。なぜなら、私はほとんど何もしていないからである。
「いえ、全てはあなたの手腕によるものです。私は、そのきっかけに少しだけ関わったに過ぎません」
「そのきっかけが、何よりも大切なのです。あなたがケナ島に連れて行ってくれなかったら、私はこの部屋で未だに頭を悩ませていたでしょう。あなたの助けは、私にとって何よりもありがたいものだったのです」
「そんなことは……」
「あなたをここに連れてきた自分の判断が、間違っていなかったと私は改めて思いました。あなたのような優秀な人材を得られたことこそが、私の一番の成功といえるでしょう」
クラールは、私のことを称賛してきた。その言葉は、確かに嬉しいと思える。
だが、何故か私はその言葉に満足できなかった。私をこれ程に褒めてくれているはずなのに、なんだか物足りないような気分になってしまったのだ。
私は贅沢である。これ以上の賞賛などあるはずはない。一体、私は何を求めているのだろうか。
「父上も、私の成功を喜んでくれました。あなたの認識も改めてもらえました。優秀な人材を見つけてきたと、父上も言ってくれたのです」
「そうですか……」
「父上は、これでいつ自分が退いても問題ないと思ったそうです。これからは、私を中心として事業を進めてもいいと言ってくれました。これ以上の賞賛の言葉などないでしょう」
「ええ、そう思います」
彼は、とても喜んでいた。
事業が成功して、父親に認められて、今の彼は人生の頂点にいるのかもしれない。
その喜びをともに分かち合えないでいる自分が、なんだか嫌だった。私は何を思っているのだろうか。それが、自分でもわからない。
「あなたには、これからも私の秘書を続けてもらいたいと思っています。それで、構いませんか?」
「……」
「……どうかしましたか?」
クラールの言葉に、私はすぐに返事をすることができなかった。
喉の奥の方で、言葉が詰まってしまったのだ。
「……それだけですか?」
「え?」
「あっ……」
代わりに出てきたのは、意味がわからない言葉だった。
私は何を言っているのだろうか。すぐにその言葉を取り消さなければならない。
「本当に、それだけなのでしょうか……?」
そう思ったのに、私の口から出たのは先程と同じような言葉だった。
どうしてそんな言葉が出てくるのか。私は混乱する。
いや、そうではない。本当はわかっている。どうして自分が、そんな言葉を口走ったのか。私は、既に理解している。
でも、それを今言うべきではないとも理解していたはずだ。それなのに、どうして私は止まれないのだろうか。
「……それ以上を求めても、構わないのですね?」
「え?」
「そんなことを言ったのですから、そう解釈しても構いませんよね?」
「そ、それは……」
そんなことを思っている私の耳に聞こえてきたのは、震えたクラールの声だった。
彼はゆっくりと、そして優しく私を引き寄せて来る。逆らわなかったため、私はそのまま彼に抱きしめられる。
「私の傍にいていただけますか? 秘書としてだけではなく、妻として……」
「……いいんですか? 私のような面倒な立場の女で……」
「もちろん。あなた以外など考えられませんよ」
「……そうですか」
ずっと聞きたかった言葉を受けて、私は彼にその身を預けた。
なんだか、肩の荷が落ちた気がする。色々と背負っていたものが、一気になくなったかのような開放感に、私は晒されていた。
背負っていたのは、きっと私の過去だ。ずっと引きずってきたあの過去に、私は心の中で別れを告げた。
私は、彼と一緒に幸せになるのだ。だから、さようなら、私の辛かった過去。
「これから、どうかよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ……」
私達は、ゆっくりとその唇を重ねた。
こうして、私はファルテリナ・ロガルサという過去と決別して、アルシーナ・ウォングレイとなったのである。
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