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15(クラール視点)
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私は、アルシーナと分かれて行動した。
こちらが訪れているのは、ウェンシィ王国のタルギス侯爵の元である。
以前から、侯爵かれは会談の誘いがあった。彼は、貿易に関する仕事をしており、私達ウォングレイ商会とそのことについて話したいという申し出があったのだ。
「それでは、そのように手配しておきます」
「ええ、よろしくお願いします」
タルギス侯爵は、とても柔和な人物だった。
貴族としての覇気というものは、それ程ないように思える。
だが、その人の懐に入るのが上手い部分は、交渉においてどれ程有利に働くのだろうか。私がそんなことを思う程に、彼という人物は親しみやすい人物なのだ。
「タルギス侯爵、一つよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
「非常に個人的な話ですから、もし侯爵が興味のない話であるというなら、聞き流してください」
「そう言われると気になってしまうのが、人の性ですよ?」
「……確かに、そうかもしれませんね」
私の言葉に、侯爵は笑みを浮かべた。
その人の良さそうな笑みを見ていると、この人は本当に純粋ないい人なのではないかと思えてくる。
もっとも、彼がそんな単純な人間でないことは今までのやり取りわかっている。胸の内では、色々と思惑を抱えているのは、まず間違いない。
つまり、タルギス侯爵のこの笑みは演技である。そういう演技ができることは、私にとってとても羨ましいことだ。私も、もう少し上手く笑えるように練習した方がいいのかもしれない。
「ロガルサ公爵家のことをご存知ですか?」
「その質問に、この国の貴族で頷かないものはいませんよ。今や、あの一家は有名すぎる程に有名です」
「そのロガルサ公爵家の長女であるファルテリナ嬢のことも、ご存知でしょうか?」
「ファルテリナ嬢……ええ、もちろん知っていますよ。彼女は、家を勘当されて、それから行方知れずになっているはずです」
私がファルテリナ嬢のことを口にすると、タルギス侯爵は表情を変えた。
どうやら、彼にとって、その名前は興味を引くに充分なものであるようだ。
「もし、私が彼女の行方を知っているとしたら、あなたはどう思いますか?」
「……ほう」
タルギス侯爵の声が、少し低くなった。その視線も、少し鋭くなっている。私の言葉を、精査しているのだろう。
「彼女の事件……伯爵令嬢への暴行事件ですが、あれは冤罪事件です。その真実を解き明かし、今のロガルサ公爵を壊滅させることはそれ程難しいことではありません」
「……それで、あなたは私にどうしろといいたいのでしょうか?」
「……協力することによって、得られる利益というものはあります。もし冤罪が証明された場合、公爵家の権利は彼女の元に返ってくるでしょう。その権利によって、あなたは多大な資産を得られるはずです」
「なるほど……」
私の言葉に、タルギス侯爵が少し口の端を歪めた。
その笑みは、今までの穏やかな笑みと比べると、少しだけ野望が滲んでいるように見える。しかし、それでも普通の人よりも遥かに人が良さそうに見えるのは、最早才能の領域なのかもしれない。
「私にできることがあるというならば、その力を貸しましょう。ただ、口約束だけで協力をするなんて、私とあなたの仕事を考えれば、あり得ないことです」
「もちろん、わかっています。そのために、妻ももうすぐこちらに来るはずです」
「……妻?」
私の放ったとある単語に、タルギス侯爵は目を丸めていた。
そして、次に私を信じられないという目で見つめてくる。恐らく、彼の中で話が繋がったのだろう。
こちらが訪れているのは、ウェンシィ王国のタルギス侯爵の元である。
以前から、侯爵かれは会談の誘いがあった。彼は、貿易に関する仕事をしており、私達ウォングレイ商会とそのことについて話したいという申し出があったのだ。
「それでは、そのように手配しておきます」
「ええ、よろしくお願いします」
タルギス侯爵は、とても柔和な人物だった。
貴族としての覇気というものは、それ程ないように思える。
だが、その人の懐に入るのが上手い部分は、交渉においてどれ程有利に働くのだろうか。私がそんなことを思う程に、彼という人物は親しみやすい人物なのだ。
「タルギス侯爵、一つよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
「非常に個人的な話ですから、もし侯爵が興味のない話であるというなら、聞き流してください」
「そう言われると気になってしまうのが、人の性ですよ?」
「……確かに、そうかもしれませんね」
私の言葉に、侯爵は笑みを浮かべた。
その人の良さそうな笑みを見ていると、この人は本当に純粋ないい人なのではないかと思えてくる。
もっとも、彼がそんな単純な人間でないことは今までのやり取りわかっている。胸の内では、色々と思惑を抱えているのは、まず間違いない。
つまり、タルギス侯爵のこの笑みは演技である。そういう演技ができることは、私にとってとても羨ましいことだ。私も、もう少し上手く笑えるように練習した方がいいのかもしれない。
「ロガルサ公爵家のことをご存知ですか?」
「その質問に、この国の貴族で頷かないものはいませんよ。今や、あの一家は有名すぎる程に有名です」
「そのロガルサ公爵家の長女であるファルテリナ嬢のことも、ご存知でしょうか?」
「ファルテリナ嬢……ええ、もちろん知っていますよ。彼女は、家を勘当されて、それから行方知れずになっているはずです」
私がファルテリナ嬢のことを口にすると、タルギス侯爵は表情を変えた。
どうやら、彼にとって、その名前は興味を引くに充分なものであるようだ。
「もし、私が彼女の行方を知っているとしたら、あなたはどう思いますか?」
「……ほう」
タルギス侯爵の声が、少し低くなった。その視線も、少し鋭くなっている。私の言葉を、精査しているのだろう。
「彼女の事件……伯爵令嬢への暴行事件ですが、あれは冤罪事件です。その真実を解き明かし、今のロガルサ公爵を壊滅させることはそれ程難しいことではありません」
「……それで、あなたは私にどうしろといいたいのでしょうか?」
「……協力することによって、得られる利益というものはあります。もし冤罪が証明された場合、公爵家の権利は彼女の元に返ってくるでしょう。その権利によって、あなたは多大な資産を得られるはずです」
「なるほど……」
私の言葉に、タルギス侯爵が少し口の端を歪めた。
その笑みは、今までの穏やかな笑みと比べると、少しだけ野望が滲んでいるように見える。しかし、それでも普通の人よりも遥かに人が良さそうに見えるのは、最早才能の領域なのかもしれない。
「私にできることがあるというならば、その力を貸しましょう。ただ、口約束だけで協力をするなんて、私とあなたの仕事を考えれば、あり得ないことです」
「もちろん、わかっています。そのために、妻ももうすぐこちらに来るはずです」
「……妻?」
私の放ったとある単語に、タルギス侯爵は目を丸めていた。
そして、次に私を信じられないという目で見つめてくる。恐らく、彼の中で話が繋がったのだろう。
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