彼にはみえない

橘 弥久莉

文字の大きさ
15 / 173
episode1 私、みえるんです

15

しおりを挟む
翌日。

相変わらず降り続く雨の中を、つばさは斗哉と二人、

傘をさして歩いた。交差点の信号で立ち止まる。

この場所は、昨日、つばさが梨花を見つけた場所だ。

「ここの信号を渡ってすぐ、あそこが彼のお店なの」

つばさの隣にいる梨花が、すっと斜め向こうを

指差した。

「なるほどね。だから、ここから彼を見てたんだ」

つばさは、梨花の指差す方向を見ながら呟いた。

斗哉はそんなつばさを、複雑な顔で見ている。

独り言なのか、梨花に話しかけているのか、

それとも自分に話しているのか、ややこしい。

信号を渡り花屋の前に立つと、黒いエプロンに

セルフフレームの眼鏡をかけた男性が見えた。

ひょろっと背が高くて、温厚そうな感じだ。

つばさが、じっと、と店内を覗いていると、

梨花の彼、早川が出てきた。

「なにか、お決まりですか?」

にこやかな笑顔を、つばさに向ける。

さて、何と切り出そうか……つばさは、一度

肩越しに梨花の顔を見て、唇を舐めた。

そうして、鞄から学校のIDカードを取り出した。

「あの、私、青山中央高校の、藤守つばさ

と言います」

突然、証明写真付きの身分証を見せられた

早川は、戸惑ったように頷く。斗哉は微妙な顔を

しながら、見守っていた。

「あぁ、あそこの、学生さんだね。知ってますよ。

それで、今日はどんなお花を探しているのかな?」

「えっと……お花は要らないんです。実は、お兄さん

に用があって……」

そこまで言って、言葉に窮してしまったつばさを見て、

斗哉が間に入った。

「お仕事中に、突然、こんなことを訊ねて失礼ですが、

舘林梨花という女性をご存知ですか?」

斗哉が梨花の名前を口した途端、早川の顔色が

変わった。その表情を確認した斗哉にも、緊張が走る。

つばさは、ごくりと唾を呑んだ。

「はい。知っていますが……彼女がなにか?」

早川の口調が、硬いものに変わる。斗哉は、じっと

彼の目を見つめると、事実のみを口にした。

「彼女は先週、交通事故にあわれて、

南台協立病院に入院しているんです」

「えっ!?梨花が、ですか?まさか……」

動揺を隠せないまま、早川が斗哉に詰め寄った。

当然だ。突然、現れた見知らぬ学生の口から、

別れた恋人の事故を告げられたのだ。

まず、混乱するだろう。つばさは、自分の肩越しに

彼を見守る梨花を見た。梨花の眼差しは、潤んでいる。


「幸い、命に別状はありません。でも、どういうわけか

彼女の意識が戻らないんです。そのことについて、

早川さんに何か心当たりがあればと思って、こうして

訪ねてきたんです」

まだ、本人が名乗ってすらいない名前を口にしながら、

斗哉は彼を制した。余程、動揺しているのか、早川は

その事に気付いていない。つばさは、居ても立っても

居られなくなって、口を挟んだ。

「梨花さん、あなたに連絡できなくて、ずっと

病院で待っているんです。だから、早く会いに

行ってあげてください。お願いします!!」

にわかには信じがたいのだろう。目の前で頭を下げる

つばさをじっと見つめ、早川は答えに窮している。

つばさは体を二つに折ったまま、彼の返事を待った。

「君たちは、梨花とどういった関係なのかな?僕は

梨花の口から、君たちの話を聞いたことがなくてね」

早川が探るように二人を見る。ぱっと、頭を上げた

つばさを、斗哉が止めようとしたが、遅かった。

「実は私、見えるたちなんです。昨日、偶然、体から

離れてしまっている梨花さんの霊体に会って、助けて

欲しいって頼まれて、だから……」

隣りで斗哉がため息をつく。案の定、早川は眉間の皺を

深くして、つばさを睨んでいる。つばさは、その顔を見て、

不味かった、と悟った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

【完結】指先が触れる距離

山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。 必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。 「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。 手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。 近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。

処理中です...