彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode1 私、みえるんです

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「梨花の霊体が見えるだって?そんないい加減な話、

誰が信じるって言うんだ!!からかってるなら、帰って

くれ。僕は忙しいんだ」

怒りを露わにした早川が、店の奥に戻ろうとする。

待って、と、つばさは、その背中に声をかけた。

「あなたが初めて書いた小説、“眠らない恋人”

ですよね?その次の“黒神塚”っていうお話は、

出版はできなかったけど、予選は通過したって。

梨花さん嬉しそうに話していました」

つばさは、昨日の夜、梨花から聞いていた話を

口にした。これは、梨花と早川しか知らない話だ。

梨花は早川の、一番の読者だった。

「どうして、そのことを知って……

本当なのか?梨花が事故にあったって話は」

ピタリと足を止め振り返ると、早川は呟いた。

つばさは首を縦に振る。出来るものなら、

つばさの肩越しに早川を見つめている梨花を見せて

やりたいが、それは叶わない。


「梨花さんの意識は、もう1週間以上も戻って

いないんです。この状況が、彼女にとって

いいわけがありません。もしかしたら、あなたが、

彼女が意識を取り戻すきっかけになるかも

しれないんです」

いまだ、信じきれないように表情を止めている早川に、

斗哉が言った。

「南台、協立病院にいるんだね」

斗哉が頷く。

「すぐに行けますか?」

斗哉が訊ねると、早川は壁の時計を見た。

時刻は7時を過ぎようとしている。

「店長に話してきます。待っててください」

「俺たちも、同行して構いませんか?」

「もちろん」

早川はエプロンを外すと、緊張した面持ちで

店の奥に入っていった。



病院までは、タクシーで数分だった。

早川と三人で入院病棟の窓口に向かう。

事務員の女性に、舘林梨花の名前を告げると、

バッチと共に「西館の1007号室です」と案内された。

コの字型に分かれた廊下の西側に進む。

と、個室の入り口に舘林 梨花の名前があった。

早川の顔が強張る。つばさの言った通り、梨花は入院

していたのだ。このドアの向こうに、彼女がいる。

隣りに立つ斗哉までもが、全身の肌を粟立たせていた。

早川がゆっくり扉を開けると、明るい病室の奥、

窓側にカーテンが敷かれたベッドがあった。

幸い、家族の付き添いも、看護婦の姿もない。

その事に安堵しながら、つばさは、自分の背後に

いる筈の、梨花を向いた。

あれ?いない。どこ行っちゃったんだろう?

そう言えば、タクシーに乗っていた時から、彼女の

気配がなかったような………

つばさは、つんつん、と斗哉のブレザーを

引っ張った。

「ねぇ。梨花さんがいなくなっちゃった」

ヒソヒソ声で言う。

「何言ってんだよ。目の前にいるだろ?」

斗哉がベッドに横たわる梨花に目を向けた。

実物の梨花は、病院の着衣を身に付けていて、

やや青白い顔をしていたが、綺麗だった。

「綺麗な人だな」

ボソリとそう言った斗哉に、つばさは、違うの!

と続ける。

「いなくなったのは霊体のほう!さっきから、

いないんだって!!」

「ああ、見えないのか?どこにいるんだろう?」

斗哉が病室内を見渡す。

って、あんたには見えないでしょーが!!

そんな二人のヒソヒソ話をよそに、早川はベッドの

脇にある丸椅子に座り、梨花さんの手を握った。

そうして、その手に額をあてた。

「梨花……ごめん。君を傷つけたりして……

本当に、ごめん」

泣きそうな声でそう言って、唇を噛んでいる。

つばさは、胸が苦しくなりながらも、その背中に

問いかけた。

「どうして、別れちゃったんですか?梨花さんと」

父親に反対されたことは知っている。留学が

決まってしまったことも。だけど、本当に好きなら、

そんなことは、どうにでもなるような気がしたのだ。
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