彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode3 転入生  神崎 嵐

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手の平の感触があったか?と聞かれれば、答えはイエスだ。

首がのけ反るほど、強く押されたのを覚えている。けれど、

間違えて肩があたってしまった、と答えれば彼女の処罰が軽く

なるのだろうか?数秒考えて、つばさは思いとどまった。

目撃した生徒がいる以上、やはり嘘はつけない。

「手の平で、背中を押された感触がありました」

正直にそう答えたつばさに、門田刑事はなるほど、と口を

真一文字に噤んだ。


「お2人の話は、現場を目撃した生徒と同じですね。

あなたたちの少し後ろを歩いていた倉科絵里奈さんが、突然、

藤守さんの背中を押した。これは間違いない。しかし、困った

ことに、彼女はその記憶がないと言っているんです。まったくね。

私が見たところ、彼女が嘘を言っているようにも見えない。

けれど、他の生徒からの証言によると、あなたと倉科絵里奈さん

には交際歴がある。動機としては、嫉妬ということで説明が

つくんですが……」

そこまで詳細を語った門田刑事に、斗哉が訊いた。

「あの」

「はい、何でしょう」

「幸い、怪我の方も軽症で済みましたし、今回の件は被害届を

出さずに、示談で収めたいと考えているんですけど……こちらが

そのつもりでも、倉科さんは逮捕されてしまうんでしょうか?」

という言葉を耳にして、つばさは動揺した。そんなことに

なれば、彼女の人生は大きく変わってしまう。つばさは、祈るような

眼差しで門田刑事を見た。

「そうですね。今のところ、取り調べには素直に応じてますし、

彼女が逃亡する様子もない。こちらとしても、出来る限り穏便に

済ませたいと考えてはいますが……本人に記憶がないとなると、

心神喪失、もしくは、心神耗弱しんしんこうじゃくという形で

通常よりも軽い処罰ということになるかもしれません」



つまり、このまま倉科さんが素直に罪を認めないこと、

軽くても処罰を受けることになる、ということだ。

つばさは、俯いたまましばらく考えて、そうして顔を上げた。

「あのう……」

不意に声を発したつばさに、門田刑事と斗哉の視線が向いた。

つばさは、ごくりと唾を呑む。

「こんなこと、たぶん、信じてもらえないと思うんですけど……

聞いてもらえますか?」

門田刑事の顔色を伺いながら、そう口にしたつばさに、

斗哉が青ざめた顔をして、小さく首を振った。その斗哉の様子を

横目で見た門田刑事が、目を細める。そうして、つばさに先を

促すように手を差し出した。

「どうぞ。小さなことでも構いません。何でも話してください」

その言葉に、いくらか安堵して、つばさは口を開いた。

「実は私、霊感がとても強くて……普通の人には見えないものが

見えてしまうんです」

「ふむ。普通の人が見えないもの。と言うと、それは“幽霊”が見える、

という意味でしょうか?そのことが今回の一件に、どう関係している

んです?」


てっきり、「ふざけるな!」とか「警察を馬鹿にするな!」といった

怒号が飛んでくるだろうと思っていたつばさは、意外な門田刑事の

反応に斗哉と顔を見合わせた。
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