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episode3 転入生 神崎 嵐
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「だってさ。倉科さんに悪意があったわけじゃないのに、このまま
彼女が学校に居られなくなっちゃうっていうのも……変だよね」
門田刑事からの糸引きがあったのか、疑わしきは罰せずという
学校側の配慮なのか、倉科絵里奈の処罰は特に何もなかった。
それでも、校内を覆いつくす空気というものは、拭えないのだ。
SNSなんかでも、倉科絵里奈だけでなく、つばさもバッシングの
標的となっていて……女子の妬みというものは、本当に怖い。
「確かにそうだけど。でも、彼女にまったく思い当たる節がない、
って言うのも、違う気がするんだよね」
真理の思いもよらぬ言葉に、つばさは表情を止めた。
「だって倉科さんは、悪霊に憑りつかれちゃうくらいには、黒沢に
未練があって、あんたのことを妬んでいた訳でしょう?
誰かを妬んでも、羨んでも、良いことは起こらないってこと
なんじゃないかな?」
食べ終わったお弁当を膝にのせたまま、真理がじっと一点を
見つめている。つばさは、そういうものなのかな、と少し暗い声で
言った。人の気持ちは、どうしたって可視化することはできない。
倉科さんの心が、どれほど黒いもので埋め尽くされていたのかは、
本人にしかわからないのだ。だから、人を恨んだり、妬んだりしない
ように、つばさも無意識に気を付けている節がある。
小学校の頃から幾度か嫌なことはあったけれど……その度に、
誰かを恨んでいたら、心がどんどん黒くなってしまう気がするのだ。
「まあさ。あれだけ黒沢に愛されちゃってたら、やっかまれても
仕方ない気もするけど。命の危険も顧みず……だからね」
ふふ、と真理が笑ってつばさの肩を小突く。
つばさは、ええっ?と誤魔化すように笑いながら、首を捻りながら、
斗哉の顔を思い出した。
階段を突き落されたあの時、つばさが感じたのは斗哉の腕の強さ
ばかりで、だから、この程度の怪我で済んだのだ。
なのに、つばさは「ごめんなさい」とは口にしていても、
まだ「ありがとう」とは言えていない。いつ伝えよう?
つばさは、そのタイミングを考えながら、左手の包帯を眺めた。
「つばさ」
終業式を終え、悲惨な通知表を鞄に詰めて教室を出たつばさは、
すっかり聴き慣れた声に振り返った。周囲の女子の視線に目もくれず、
爽やかな笑顔をこちらに向けていたのは、嵐だ。
つばさは、隣に並んだ嵐を見上げ、小声で言った。
「この間はありがと。突然、刑事さんから電話あって、驚いたでしょ?」
「ああ、門田さんね。詳しい話を聞かせて欲しいって言われて、
びっくりしたよ。警察にも、ああいう理解のある人がいるんだな」
下駄箱に向かう生徒の波を交わしながら、嵐は怪我を庇うように
つばさの左側を歩いた。
「うん。しかもね、何かあったらいつでも相談しなさい、って
名刺までくれたんだ」
つばさは、得意そうに財布の中から名刺を取り出して見せる。
名刺には門田刑事の名前の横に、西警察署 少年課という
文字があり、その裏には乱筆だがボールペンで携帯番号が
記してあった。
「そっか。事件も内々に処理してくれたみたいだし、
これから困った時に頼りになりそうだな」
嵐は、ぺら、と裏の携帯番号を見て、つばさに名刺を返した。
「うん。いい刑事さんに出会えてよかった」
つばさは、門田刑事の顔を思い出して、満面の笑みを浮かべた。
彼女が学校に居られなくなっちゃうっていうのも……変だよね」
門田刑事からの糸引きがあったのか、疑わしきは罰せずという
学校側の配慮なのか、倉科絵里奈の処罰は特に何もなかった。
それでも、校内を覆いつくす空気というものは、拭えないのだ。
SNSなんかでも、倉科絵里奈だけでなく、つばさもバッシングの
標的となっていて……女子の妬みというものは、本当に怖い。
「確かにそうだけど。でも、彼女にまったく思い当たる節がない、
って言うのも、違う気がするんだよね」
真理の思いもよらぬ言葉に、つばさは表情を止めた。
「だって倉科さんは、悪霊に憑りつかれちゃうくらいには、黒沢に
未練があって、あんたのことを妬んでいた訳でしょう?
誰かを妬んでも、羨んでも、良いことは起こらないってこと
なんじゃないかな?」
食べ終わったお弁当を膝にのせたまま、真理がじっと一点を
見つめている。つばさは、そういうものなのかな、と少し暗い声で
言った。人の気持ちは、どうしたって可視化することはできない。
倉科さんの心が、どれほど黒いもので埋め尽くされていたのかは、
本人にしかわからないのだ。だから、人を恨んだり、妬んだりしない
ように、つばさも無意識に気を付けている節がある。
小学校の頃から幾度か嫌なことはあったけれど……その度に、
誰かを恨んでいたら、心がどんどん黒くなってしまう気がするのだ。
「まあさ。あれだけ黒沢に愛されちゃってたら、やっかまれても
仕方ない気もするけど。命の危険も顧みず……だからね」
ふふ、と真理が笑ってつばさの肩を小突く。
つばさは、ええっ?と誤魔化すように笑いながら、首を捻りながら、
斗哉の顔を思い出した。
階段を突き落されたあの時、つばさが感じたのは斗哉の腕の強さ
ばかりで、だから、この程度の怪我で済んだのだ。
なのに、つばさは「ごめんなさい」とは口にしていても、
まだ「ありがとう」とは言えていない。いつ伝えよう?
つばさは、そのタイミングを考えながら、左手の包帯を眺めた。
「つばさ」
終業式を終え、悲惨な通知表を鞄に詰めて教室を出たつばさは、
すっかり聴き慣れた声に振り返った。周囲の女子の視線に目もくれず、
爽やかな笑顔をこちらに向けていたのは、嵐だ。
つばさは、隣に並んだ嵐を見上げ、小声で言った。
「この間はありがと。突然、刑事さんから電話あって、驚いたでしょ?」
「ああ、門田さんね。詳しい話を聞かせて欲しいって言われて、
びっくりしたよ。警察にも、ああいう理解のある人がいるんだな」
下駄箱に向かう生徒の波を交わしながら、嵐は怪我を庇うように
つばさの左側を歩いた。
「うん。しかもね、何かあったらいつでも相談しなさい、って
名刺までくれたんだ」
つばさは、得意そうに財布の中から名刺を取り出して見せる。
名刺には門田刑事の名前の横に、西警察署 少年課という
文字があり、その裏には乱筆だがボールペンで携帯番号が
記してあった。
「そっか。事件も内々に処理してくれたみたいだし、
これから困った時に頼りになりそうだな」
嵐は、ぺら、と裏の携帯番号を見て、つばさに名刺を返した。
「うん。いい刑事さんに出会えてよかった」
つばさは、門田刑事の顔を思い出して、満面の笑みを浮かべた。
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