彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode4 帰れない道

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「つばさが言うんなら、そうなんだろうな。俺には男の子にしか見えないけど」

嵐が、ぷっ、と吹き出しそうになりながら、横目でつばさを見る。

つばさは、嵐の物言いに口を尖らせながら、隣に立つ斗哉を見上げた。

斗哉も苦笑いをしているが、どうやら斗哉には子供の姿が見えていないようだ。

斗哉の視線は子供の動きを追っていない。

「つばさは中学に上がってスカート履くまで、よく男子に間違えられて

たからな。言葉遣いも男みたいだったし」

わざわざ要らない情報まで付け足して、斗哉が嵐に同調する。

確かに、あの頃のつばさは、女の子らしくすることが自分には似合わない

と思い込んでいた。女の子扱いされることも恥ずかしくて、だから、男子に

混ざって、遊んでばかりいたのだ。どうしてそう思ったのかは、

自分でもわからないのだけど……



「ねぇ、こっち来て!!つばさちゃん」



不意に、あの男の子の声が聴こえて、つばさははっと顔を上げた。

嵐と目が合う。声が聴こえたのは、ログハウスの裏側だ。

3人は、男の子の声が聴こえた建物の裏手に向かった。

すぐ目の前を、子供時代のつばさが横切る。どうやら、こちらの

姿は見えていないらしい。子供が好みそうな狭い塀と植木の間を

すり抜けて、つばさが裏手に回っていく。その背中を追ってくぐり

抜けると、広い裏庭に出た。そうして、こちらを振り返る男の子

の姿を見つける。つばさは、息を呑んだ。


「これみて!ほら、トノサマバッタ!!」


思い切り夏の日差しを浴びた、元気な男の子が笑いかけている。

青いTシャツはびっしょり汗に濡れて、その濡れたTシャツの袖で、

また汗を拭っていた。

「思い出した。あの子、ハルキ君だ!!」

捕まえたバッタを手に、楽しそうに走り回る子供たちを見て、

つばさは思わず声を上げた。その時だった。

ごう、と強い風が吹き荒れて、周りの木々がザワザワと音をさせた。

「きゃっ!!」

舞い上がる埃が目に入りそうになって、つばさは顔を覆う。

「!!!!」

側にいた斗哉が庇うようにつばさの肩を抱き、嵐がつばさの腕を掴んだ。



そうして、一瞬の静寂。



風が止んで再び目を開けると、目の前の景色は、自宅へと続く

あの細い裏路地に変わっていた。




「っクシュ!!」

突然、ひんやりした空気に辺りを包まれて、斗哉が鼻をすする。

脱いでいたコートに、腕を通すと安堵したように言った。

「何とか、帰って来られたみたいだな」

「ああ。つばさが思い出したことで、あそこに留めておく必要が

なくなったんだろうな。たぶん」

ばさ、と嵐もコートを羽織りながら、空を見上げる。この場所から、

過去に飛ばされている間の時間は止まっていたようで、夜の闇は

そこまで深くない。つばさは、邪魔にならないよう、道路の端に

身を寄せると、徐に口を開いた。

「たった一度、遊んだだけなんだよ、ハルキ君とは。だから、苗字までは

思い出せないの。私たちが泊まってた別荘の、近所に遊びに来てた子で……

それで、声を聴いても、思い出せなかったんだと思う」

つばさは、暗い顔をして言った。その、たった一度遊んだだけの思い出を

大切にしてくれたハルキ君は、もう、この空の下にはいないのだ。

どうして、今になって自分にこんなメッセージを送ってきたのか?

ハルキ君が、何を望んでいるのか?まだ、知りたいことは沢山ある。
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