彼にはみえない

橘 弥久莉

文字の大きさ
89 / 173
episode4 帰れない道

89

しおりを挟む
「とにかく、これで現地に足を運べるだけの情報が揃ったわけだ。

後は向こうに行って相手の出方を待つしかないけど……どうする?」

嵐がコートのポケットに両手を突っ込んで、2人の顔を交互に見た。

その問いに答えたのは、斗哉だ。

「幸い明日は休みだし、すぐに行ってみよう。また、この場所から

過去に飛ばされない保証もないし、真相がわからないままじゃ

落ち着かない」

「じゃあ、決まりだな。明日の朝、9時に駅の改札で待ってる」

手短に明日の待ち合わせ時間を決めると、嵐は、くるりと踵を

返し、その場を後にした。





帰宅後。

熱いお風呂で躰を温めて部屋に戻ると、携帯が着信を告げていた。

液晶画面に目をやれば、そこには「斗哉」の2文字がある。

つばさは、何だろう?と首を傾げながら受話器を上げた。

「はい」

「そろそろ風呂から出るころだと思って。

そのままでいいから、今からこっち来ない?」

携帯の向こうで斗哉の笑う気配がして、つばさは顔を上げる。

カーテンを開けたままの窓に目をやれば、斗哉がベランダから

つばさに手を振っていた。つばさは、頭に巻き付けているタオルに

手をやって、照れたように笑った。無防備な姿を見られたのが、

何となく恥ずかしい。

「わかった。すぐ行くから待ってて」

「了解」

それだけ言うと、斗哉はプツリ、と電話を切った。





「 小寺 春樹こでら はるき  7歳」

部屋に入るなり、机に座っていた斗哉が振り返って言った。

「どうしてわかったの?名前」

ドアの前に立ったまま、目を丸くしているつばさを手招きする。

「別荘の住所を調べながら、春樹君の名前と適当なキーワードを

入れてみたら、ヒットしたんだ。事件とか、事故とかね。古いネット

の記事だけど……日付を見ると、11年も前に亡くなってる」

つばさは、斗哉のPCを覗き込んだ。



確かに、父親の別荘があるN県の新聞記事が載っている。

日付は20××年8月13日(金)って……

「13日の金曜日って、もしかして……ジェ…」

「つまらないダジャレはいいから。先読んでみろよ」

ぴしゃりと斗哉に釘を刺されて、つばさはぺろりと舌を出す。

斗哉に言われるまま、記事に目を走らせれば、記されている内容は

気が重くなるものだった。

「一家無理心中ってことは、あの別荘で?」

「いや、違う。亡くなった場所は近くの湖だ。車ごと突っ込んだらしい」

斗哉が別のページの記事に切り替えて、つばさに見せる。

そこには確かに、車ごと湖に入水自殺をはかったと記されていた。

「それと、11年も前に亡くなっているのに、どうして今になって

つばさをあの場所に呼び寄せたのか、そのことも気になって調べてみたんだ。

そうしたら……見つかってなかった」

「見つかってないって、何が?」

その先の言葉が予測できないわけじゃないのに、なぜか聞いてしまう。

斗哉は声のトーンを落として、答えを口にした。

「遺体が。春樹君の遺体だけが見つからないって、書いてある」

その部分の記事を指で差して、斗哉が眉を顰める。つばさは、

背筋が寒くなるような感覚を覚えながら、PCを覗き込んだ。

「この記事は古いものだから、その後の捜索で見つかってる可能性も

あるけど……今の状況を考えると、彼の遺体はまだ湖の底にある、

って考えた方がしっくりくるよな」

「うん。私もそう思う。そのことが、今回の出来事に関係してる気がする」

つばさは、斗哉の目を見て頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

処理中です...