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episode4 帰れない道
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「あなたが神崎君ですか。その節はどうも。私もね、黒沢君から連絡を
受けて、すぐにでも駆け付けたかったんですが、如何せん、
話の内容がこういうことだと、なかなか、組織を動かすのが難しくてね。
表向きの面倒な手配に、時間がかかってしまった、というわけです」
日に焼けた顔に深い皺を刻んで、門田刑事が頭を掻く。その顔を見て、
つばさは、あっ、と思った。いつか、脳裏に浮かんだ光景は、いま自分が
見ているものだ。やはりあれは、一種の予知みたいなものだったのだろう。
3人のやりとりをじっと見ていたつばさは、ひとり、納得して頷いた。
「俺たちの話を信じてくれる刑事さんがいるだけで、助かりますよ。
心霊的なことが絡んでる事件も意外に多いし、いざという時に頼れる
人が警察内にいてくれるのはありがたいです」
嵐がブルーシートで覆われた春樹君の遺体に目をやった。
別荘の風呂の底から湖に流されて、行方不明の遺体を発見したなんて、
そんな話を信じてくれる警察はなかなかいない。門田刑事の存在は、
これからもきっと大きな助けになるはずだ。門田刑事が、誇らしげに
笑って頷く。そうして、クルーザーの方へ手を差し出した。
「さて、遅くなってしまいましたが、一旦、我々と署に戻りましょう。
そのままじゃ帰れませんしね。服を用意しますので、熱いシャワーを
浴びたら、もう少し話を聞かせてください」
そう言うと、門田刑事は目の前を横切った春樹君の遺体に、
そっと手を合わせた。
結局、門田刑事に送られて、家に帰宅したのは深夜だった。
門田刑事の言葉通り、警察署内でシャワーを浴びて、躰を温めた
つばさたちに用意されていたのは、警察官が使用しているジャージだった。
下着までコンビニで調達してくれたので、至れり尽くせりだ。つばさも嵐も、
さっぱりした状態で、事情聴取を受ける部屋に案内された。
「では、こういう事にしておきましょうか。あなた方は、たまたまあの湖に
遊びに来て、誤って湖に落ちてしまったと。そして、偶然、小寺春樹君の
遺体を発見してしまった。春樹君と藤守さんの間に面識があったことは、
伏せておきましょう。別荘に侵入したことも、今回は伏せておきます。
あとは、遺体発見時刻と……」
ほぼ、門田刑事が決めた通りのシナリオで、事情聴取とは名ばかりの
内容が記されていく。つばさたちは、「かつ丼でいいかな?」というひと言
とともに振る舞われたそれを食べながら、ただ、門田刑事の話に相槌を
打っていた。
「まあ警察としては、あなた方の霊視とやらで事件が解決するのは有難い
ですが、あまり危険なことに首を突っ込むのは感心できませんね。
鍵が開いていたとはいえ、別荘に踏み込むのは住居不法侵入罪にもあたり
ますし、今後はくれぐれも行動を慎んでください」
眉間に皺を寄せてそう言ったのは、調書を記入している門田刑事ではなく、
その隣に腰掛けている黒住刑事だ。門田刑事は少年課の担当で、
今回の遺体発見は第二強行犯係の管轄になるらしく、黒住刑事もクルーザーに
同行していたのだった。当然、門田刑事からつばさたちの霊能力云々の話は
聞かされているが、その事に対する受け止め方は、門田刑事と若干異なる。
否定はしないが、手放しに肯定もしない。門田刑事の手前、信用はするけど、
信頼はしていない、というような、そんな感じだった。
受けて、すぐにでも駆け付けたかったんですが、如何せん、
話の内容がこういうことだと、なかなか、組織を動かすのが難しくてね。
表向きの面倒な手配に、時間がかかってしまった、というわけです」
日に焼けた顔に深い皺を刻んで、門田刑事が頭を掻く。その顔を見て、
つばさは、あっ、と思った。いつか、脳裏に浮かんだ光景は、いま自分が
見ているものだ。やはりあれは、一種の予知みたいなものだったのだろう。
3人のやりとりをじっと見ていたつばさは、ひとり、納得して頷いた。
「俺たちの話を信じてくれる刑事さんがいるだけで、助かりますよ。
心霊的なことが絡んでる事件も意外に多いし、いざという時に頼れる
人が警察内にいてくれるのはありがたいです」
嵐がブルーシートで覆われた春樹君の遺体に目をやった。
別荘の風呂の底から湖に流されて、行方不明の遺体を発見したなんて、
そんな話を信じてくれる警察はなかなかいない。門田刑事の存在は、
これからもきっと大きな助けになるはずだ。門田刑事が、誇らしげに
笑って頷く。そうして、クルーザーの方へ手を差し出した。
「さて、遅くなってしまいましたが、一旦、我々と署に戻りましょう。
そのままじゃ帰れませんしね。服を用意しますので、熱いシャワーを
浴びたら、もう少し話を聞かせてください」
そう言うと、門田刑事は目の前を横切った春樹君の遺体に、
そっと手を合わせた。
結局、門田刑事に送られて、家に帰宅したのは深夜だった。
門田刑事の言葉通り、警察署内でシャワーを浴びて、躰を温めた
つばさたちに用意されていたのは、警察官が使用しているジャージだった。
下着までコンビニで調達してくれたので、至れり尽くせりだ。つばさも嵐も、
さっぱりした状態で、事情聴取を受ける部屋に案内された。
「では、こういう事にしておきましょうか。あなた方は、たまたまあの湖に
遊びに来て、誤って湖に落ちてしまったと。そして、偶然、小寺春樹君の
遺体を発見してしまった。春樹君と藤守さんの間に面識があったことは、
伏せておきましょう。別荘に侵入したことも、今回は伏せておきます。
あとは、遺体発見時刻と……」
ほぼ、門田刑事が決めた通りのシナリオで、事情聴取とは名ばかりの
内容が記されていく。つばさたちは、「かつ丼でいいかな?」というひと言
とともに振る舞われたそれを食べながら、ただ、門田刑事の話に相槌を
打っていた。
「まあ警察としては、あなた方の霊視とやらで事件が解決するのは有難い
ですが、あまり危険なことに首を突っ込むのは感心できませんね。
鍵が開いていたとはいえ、別荘に踏み込むのは住居不法侵入罪にもあたり
ますし、今後はくれぐれも行動を慎んでください」
眉間に皺を寄せてそう言ったのは、調書を記入している門田刑事ではなく、
その隣に腰掛けている黒住刑事だ。門田刑事は少年課の担当で、
今回の遺体発見は第二強行犯係の管轄になるらしく、黒住刑事もクルーザーに
同行していたのだった。当然、門田刑事からつばさたちの霊能力云々の話は
聞かされているが、その事に対する受け止め方は、門田刑事と若干異なる。
否定はしないが、手放しに肯定もしない。門田刑事の手前、信用はするけど、
信頼はしていない、というような、そんな感じだった。
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