彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode4 帰れない道

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「すみませんでした」

まさか、こんな大ごとになると思っていなかったとはいえ、黒住刑事の言って

いることに間違いはない。つばさは姿勢を正すと、3人を代表するような心持で

頭をさげた。

「そう怖い顔をしないでやってください。藤守さんも、不可解な現象に悩んで

行動に及んだわけですし、別荘の持ち主だって、あの廃墟を持て余していた

んです。確かに、我々に庇いきれないこともありますが、彼らのような能力を

活かせるような体制も、警察には必要ですよ」

「それはまあ、そうなんですが……」

やんわりと、門田刑事に宥められて黒住刑事が言葉を詰まらせる。

年齢的な面からいって、門田刑事の方が先輩にあたるのかもしれない。

細面ほそおもてで、少し神経質な印象を受ける黒住刑事は30代前半に見えた。つばさは、

2人の刑事のやりとりを、斗哉と嵐の真ん中で、肩をすぼめて見守っていた。

「黒住刑事のおっしゃりたいことは、わかります。実際、捜査協力をした

霊能力者が、犯人に狙われたというケースもありますし。だから、うちも

安易に事件には関わらないようにしてるんです」

不意に、彼らのやり取りに口を挟んだのは、嵐だった。つばさは驚いて嵐の

顔を見る。そういえば、この部屋に入った時、嵐は門田刑事と名刺の

交換をしていた。ちら、と見えた内容は「 ××教○○宗 総本山 △△市

 6代目当主」と記されていて、嵐が自他共に認める霊能力者なのだと、

今さらながら実感してしまう。

「でも……」

そこで一度言葉を途切って、嵐は門田刑事の顔を見た。

「警察の方の体制が整うなら、うちは出来る限り協力したいと思っています。

俺たちの霊力を活かしてくれる人がいて、それで誰かが救われるなら、

この霊力を持って生まれた意味があると、思っているので」

嵐の言葉は、つばさの胸に重く響いた。


-----この霊力を持って生まれた意味。


それは、つばさがいつも考えていることだ。隣から嵐をじっと見つめる。

やはり、嵐に出会えたことは自分にとって幸運で、嵐の存在はとても

大きなものなのだと感じられる。つばさの視線に気付いた嵐が、ふわりと笑う。

その笑みにつられて頬を緩めたつばさを、斗哉が複雑な顔で見つめていたことに、

つばさは気付かなかった。

そうして、形ばかりの事情聴取を終えて家に帰ると、つばさは

すぐに自宅のベッドに躰を沈めた。それでも、嵐の言葉がぐるぐると

頭の中を廻って、なかなか寝付くことができなかった。






「ごめん。まだ、寝てたんだ」

翌日。寝ぼけ眼で着信を告げる電話に出ると、斗哉の声が耳に飛び

込んできた。ごろん、と寝返りを打って、壁の時計に目をやる。

霞む目で時刻を見れば、もうすぐ正午だ。今日が日曜で良かった。

「うん……寝てた」

つばさは寝ぼけた声でそう言うと、あふ、と欠伸をひとつした。

「そろそろ起きてこっち来ないか?昨日、母親が買ってきたフランチェスカ

のチーズタルトあるし、お前が買ってくれたゲームでもやりながら……」

「行くっ!!」

つばさは、斗哉の言葉を遮ると、がば、とベッドから飛び起きた。

フランチェスカのチーズタルトはとっても濃厚で美味しい。つばさの大好物だ。

つばさのその反応に、電話の向こうでくすくす笑うと「そのままでいいから、

早く来いよ」と言って斗哉は電話を切った。
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