彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode4 帰れない道

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「お邪魔しまーす」

いつものように、インターホンを押してドアを開ける。けれど、奥から斗哉の

母親が出て来る気配はない。出かけてるのかな?日曜だし。つばさは、

特に気に留めるでもなく、とんとん、と軽い足取りで階段をあがった。

そのままでいい、と斗哉には言われたが、顔を洗って、服も着替えて、

今日はしっかりとブラも付けている。これでまた、隙だらけだ、と斗哉に

怒られることもないだろう。つばさは、斗哉の部屋の前に立って一呼吸すると、

ドアを開けた。が、部屋の中が不自然に暗いことに気付いて、つばさは

その場に立ち止まった。




「……斗哉?」

部屋の中を見渡す。カーテンは閉じられ、部屋の照明は消えている。

なのに、部屋の中は温かい。暖房はついているようだ。そうして、その

薄暗い部屋の中に、斗哉の姿はなかった。下にタルトでも取りに行って

いるのだろうか?それにしても、なんでカーテンが閉められているのだろう?

つばさは、首を傾げながら部屋の中に足を踏み入れた。テーブルの上に

目をやる。クリスマスに斗哉と買いに行った、ゲームが置いてある。

まだ、ビニールに入ったままだ。つばさは、そのビニールに手を伸ばそうとした。

その時だった。

「…ゃっ…!?」

不意に、背後から抱きすくめられて、つばさは声にならない悲鳴をあげた。

バタンとドアが閉まる。その音に、またびくりと肩を震わせれば、くす、と

耳元で笑う気配があった。他の誰がいるわけもない。斗哉だ。

「もう!びっくりした。何やってんのっ」

心臓をばくばく鳴らしながら、頬を膨らませる。抱きしめる腕の力が強くて、

躰が自由にならない。つばさは身動きが取れないまま、斗哉の腕を握り

しめた。斗哉の温かな息が、耳にかかる。ちゅ、と、音がして耳たぶに唇が

触れた。つばさは思わず、あ、と声を漏らした。何も言わずに、斗哉が服の

上からつばさの胸をまさぐっている。胸の膨らみを確かめるように優しく

揉んで、親指でその頂きを押した。

「今日は……付けてきたんだ」

吐息交じりに、斗哉が言った。その声に頷いていいのか、わからなかった。

低く囁くような声が、いつもの斗哉のものではないことは、わかる。

つばさは躰を硬くしたまま、斗哉の指の動きと、頬を滑る唇の温もりを

感じていた。

「しよう。今から……あの日の続き」

「……続き、って」

つばさは、カラカラに渇いてしまった喉から、声を絞り出した。

「最後まで、してなかっただろ?……あの時」

服の上から触れていた斗哉の手が、パーカーをたくし上げて直接肌に触れる。

ブラの中に指が侵入してきて、つばさはびくりと肩を震わせた。

「やっ……待ってってば。そんなの、急に言われてもっ」

心の準備がない、どころではない。自分はチーズタルトを食べに来たのだ。

ブラは付けてきたが、下着は上下ばらばらだし、パンツは色気も何もない

ドットの綿パンだ。だいいち、今はまっ昼間で、一階に親がいるのではないか?

そう考えている間にも、斗哉の指が胸の頂きを擦って刺激する。

つばさは、頬を熱くしながら、混乱する頭で首を振った。

「ダメだって!下におじさんいるでしょ?パンツだって……」

そこまで言ったつばさを、斗哉はくるりと振り向かせた。つばさは斗哉の

顔を見上げて、ぎくりとする。斗哉の眼差しが、想像していたものとは、

違っていたからだ。怒っている、というよりも、傷付いているような眼差しで、

とても言葉を続けられない。
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