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episode5 朔風に消える
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駅周辺の賑やかな街並みを抜けると、人通りはぐっと少なくなった。細い道路を
挟んで立ち並ぶ住宅の合間に、広い田畑が点在している。昼間で明るい今なら
危険は感じないが、夜ともなれば女性の一人歩きは物騒かもしれなかった。
嵐はずっと一点を見つめながら、細い道を歩いている。残念ながら、つばさには
七海さんの姿が見えないが、嵐は彼女の姿を必死に追っているのだろう。初めて
歩くはずの道を、どんどん進んでいく。その嵐の腕を突然、危ない!という声と
共に、斗哉がガシリと掴んだ。はっとして、嵐が立ち止まる。目の前は横断歩道で、
信号は点滅した青から赤に変わったところだった。
「ちゃんと前見て歩かないと、危ないだろ」
目の前を行き交い出した車を見ながら、斗哉が眉を顰める。嵐は狐につままれ
たような顔で頷くと、細く息を吐いた。
「悪い。ちょっと霊視に集中しすぎた」
そう言いながらも、嵐はもどかしそうに信号の向こうに目をやる。嵐の視界の中で、
事件当日の七海の背中が遠ざかっているのだろう。つばさも、どきどきしながら
信号が変わるのを、待った。その時だった。信号の向こうを見ていた嵐が、顔色
を変えた。傍から見ると、誰も人が歩いていない道を、険しい顔つきで睨んでいる。
道路の左側が畑で、その右側の民家は高い生垣で覆われている。つばさは、
何となくその理由を予測しながらも、おそるおそる訊ねた。
「ねぇ、嵐。何が見えるの?」
「あそこの、民家の角から男が出てきた。七海さんの……10メートルくらい後ろを
歩いてる。たぶん、あいつだ」
嵐がまっすぐ指をさして言った。つばさは、斗哉と顔を見合わせる。おそらく、
すぐそこが事件現場だ。早く駆けて行って、犯人の手がかりを掴みたい。もう、
七海を助けることができなくても、犯人が捕まることを彼女は強く願っている。
赤信号が点滅を始めた。そうして、青に変わった瞬間、嵐は走り出した。つばさと
斗哉もあとに続く。冷たい風が首筋を撫でていったが、緊張から額には汗が
滲んでいた。細い道を走り抜けた先に、雑木林が見えて嵐が足を止めた。
事件現場だ。雑木林の少し先に、黒住刑事たちの乗った車が止まっている。
嵐はゆっくり雑木林に向かって歩きながら、言った。
「何か、手に持ってる」
「えっ?」
つばさは嵐を見上げた。嵐は険しい顔のまま、一点を見つめている。
「黒い鞄から男が何かを取り出した。左手に……何だろう。丸い…灰皿か?」
そう言った瞬間、嵐はギリと唇を噛んだ。そうして、目に映る光景を、途切れ
途切れに口にする。
「いま、犯人が背後から七海さんを殴った。彼女を襲うために、あらかじめ
凶器を用意して、待ち伏せしてたんだ。倒れた七海さんを、引きずって……
雑木林に連れ込んでる。彼女が言った通り、黒いマスクをしていて顔はよく
見えないけど……若いな。10代かもしれない。背は俺たちより低い。
170前後か、それよりも下か……かなり細身だ。左手で殴ったということは、
左利きか?」
雑木林の前に辿り着いた嵐は、車から降りてきた黒住刑事たちを手で制した。
霊視の妨げになるからか、加賀見や七海の心情を察してか、嵐は車内で待つ
ように諭すと、雑木林に入っていく。つばさも、意を決して嵐の背中に続いた。
挟んで立ち並ぶ住宅の合間に、広い田畑が点在している。昼間で明るい今なら
危険は感じないが、夜ともなれば女性の一人歩きは物騒かもしれなかった。
嵐はずっと一点を見つめながら、細い道を歩いている。残念ながら、つばさには
七海さんの姿が見えないが、嵐は彼女の姿を必死に追っているのだろう。初めて
歩くはずの道を、どんどん進んでいく。その嵐の腕を突然、危ない!という声と
共に、斗哉がガシリと掴んだ。はっとして、嵐が立ち止まる。目の前は横断歩道で、
信号は点滅した青から赤に変わったところだった。
「ちゃんと前見て歩かないと、危ないだろ」
目の前を行き交い出した車を見ながら、斗哉が眉を顰める。嵐は狐につままれ
たような顔で頷くと、細く息を吐いた。
「悪い。ちょっと霊視に集中しすぎた」
そう言いながらも、嵐はもどかしそうに信号の向こうに目をやる。嵐の視界の中で、
事件当日の七海の背中が遠ざかっているのだろう。つばさも、どきどきしながら
信号が変わるのを、待った。その時だった。信号の向こうを見ていた嵐が、顔色
を変えた。傍から見ると、誰も人が歩いていない道を、険しい顔つきで睨んでいる。
道路の左側が畑で、その右側の民家は高い生垣で覆われている。つばさは、
何となくその理由を予測しながらも、おそるおそる訊ねた。
「ねぇ、嵐。何が見えるの?」
「あそこの、民家の角から男が出てきた。七海さんの……10メートルくらい後ろを
歩いてる。たぶん、あいつだ」
嵐がまっすぐ指をさして言った。つばさは、斗哉と顔を見合わせる。おそらく、
すぐそこが事件現場だ。早く駆けて行って、犯人の手がかりを掴みたい。もう、
七海を助けることができなくても、犯人が捕まることを彼女は強く願っている。
赤信号が点滅を始めた。そうして、青に変わった瞬間、嵐は走り出した。つばさと
斗哉もあとに続く。冷たい風が首筋を撫でていったが、緊張から額には汗が
滲んでいた。細い道を走り抜けた先に、雑木林が見えて嵐が足を止めた。
事件現場だ。雑木林の少し先に、黒住刑事たちの乗った車が止まっている。
嵐はゆっくり雑木林に向かって歩きながら、言った。
「何か、手に持ってる」
「えっ?」
つばさは嵐を見上げた。嵐は険しい顔のまま、一点を見つめている。
「黒い鞄から男が何かを取り出した。左手に……何だろう。丸い…灰皿か?」
そう言った瞬間、嵐はギリと唇を噛んだ。そうして、目に映る光景を、途切れ
途切れに口にする。
「いま、犯人が背後から七海さんを殴った。彼女を襲うために、あらかじめ
凶器を用意して、待ち伏せしてたんだ。倒れた七海さんを、引きずって……
雑木林に連れ込んでる。彼女が言った通り、黒いマスクをしていて顔はよく
見えないけど……若いな。10代かもしれない。背は俺たちより低い。
170前後か、それよりも下か……かなり細身だ。左手で殴ったということは、
左利きか?」
雑木林の前に辿り着いた嵐は、車から降りてきた黒住刑事たちを手で制した。
霊視の妨げになるからか、加賀見や七海の心情を察してか、嵐は車内で待つ
ように諭すと、雑木林に入っていく。つばさも、意を決して嵐の背中に続いた。
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