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episode5 朔風に消える
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ふむ、と腕を組んで黒住刑事が顔を顰める。犯人が歪んだ恋愛感情を七海に
抱いていたことは、間違いない。そのことに、七海自身が気付いていなくても、
犯人は少し離れた場所から彼女を想っていたのではないだろうか?
「そこまで面識がなくても、誰かに想いを寄せるってことありますよね?
例えば、通勤電車で毎日見かけるとか、カフェの客として店に来てた、とか」
そう言うと、嵐は加賀見の後ろにいる七海に目を向けた。思えば、事件現場を
霊視してから、まだ一度も七海から話を聴いていない。
「七海さん。日常生活の中で、犯人の顔を見た記憶はありませんか?
顔を見た覚えがなくても、特徴的に……例えば、リストカットの痕とか」
七海の表情が固まったのが、つばさにも見てとれた。嵐と顔を見合わせる。
やはり、彼女はどこかであの傷痕を見ているのだ。
「あの痕を、見た覚えがあるんですね。どこですか?」
嵐が七海の顔を覗く。七海の姿が見えていない筈の加賀見も、緊張した面持ち
で、自分の背後を振り返っていた。
「リストカットの痕を、見たわけじゃないの。でも、右手に黒いリストバンドを
してたお客さんなら……何度か見た覚えがある。夏なのに熱そうだな、って思った
記憶があって」
「黒の、リストバンドか……」
そう呟いた嵐に、黒住刑事が食い入るような眼差しを向ける。無理もない。
七海の声はつばさと嵐にしか聴こえない。嵐は彼女が言ったことを反芻した。
「そういうことなら、あの店の防犯カメラをチェックすれば、一発で見つかるで
しょう。リストバンドの男の顔がこの似顔絵と一致すれば、そいつが犯人である
可能性は高い。令状を取ってDNA鑑定をすれば……」
そこで言葉を途ぎると、黒住刑事は居ても立っても居られない様子で席を立った。
犯人に繋がる手がかりが、十分揃った。すぐにでも捜査に乗り出したいと
いった顔だ。
「あなた方のお陰で、捜査に必要な情報が揃いました。この情報を足掛かりに、
すぐに捜査にあたります。まずは早急に、カフェの防犯ビデオを確認しに行き
ますが……あなた方はどうされますか?ここから先は警察の捜査になるので、
ご同行いただかなくても大丈夫です」
つまり、これで用は済んだから、帰るなら送りますよ、というニュアンスだろう。
つばさは、嵐と斗哉の顔を見た。もちろん、家まで送ってもらえるならありがた
いが、すぐにでも捜査を再開したそうな黒住刑事に甘えるのも心苦しい。
きっと2人は、自分たちで帰るから大丈夫だ、と言うだろう。その方が、帰り道に
気兼ねなく話せることもあるだろうし……
そう思ってつばさが口を開きかけた時だった。あの、と遠慮がちに加賀見が
声を発した。
「これで彼らの用が済んだなら、僕が車で送っていきますよ。
できれば、もう少し七海の話を聴かせてほしいというのもありますし……
あ、君たちの時間が大丈夫なら、だけど」
そう言って、加賀見は3人の顔を見た。つばさも、嵐に目をやる。
きっと、嵐はこう答えるに違いない。別に構いませんよ、と。
数秒もしないうちに、予想通りの言葉が聴こえてきた。
「俺は別に構いませんよ。今日は一日予定を空けてありますし。加賀見さんが
迷惑じゃないなら、もう少しここでお話させていただきます」
「や、迷惑なんてとんでもない。お2人の霊視のお陰で、捜査が進展してくれた
んです。せめて自宅へ送り届けるくらい、僕にさせてください」
顔の前でひらひらと手を振りながら、加賀見が首を振る。つばさは大して役に
たってないのに、お2人のお陰でなんて言われて、恥ずかしくなってしまった。
抱いていたことは、間違いない。そのことに、七海自身が気付いていなくても、
犯人は少し離れた場所から彼女を想っていたのではないだろうか?
「そこまで面識がなくても、誰かに想いを寄せるってことありますよね?
例えば、通勤電車で毎日見かけるとか、カフェの客として店に来てた、とか」
そう言うと、嵐は加賀見の後ろにいる七海に目を向けた。思えば、事件現場を
霊視してから、まだ一度も七海から話を聴いていない。
「七海さん。日常生活の中で、犯人の顔を見た記憶はありませんか?
顔を見た覚えがなくても、特徴的に……例えば、リストカットの痕とか」
七海の表情が固まったのが、つばさにも見てとれた。嵐と顔を見合わせる。
やはり、彼女はどこかであの傷痕を見ているのだ。
「あの痕を、見た覚えがあるんですね。どこですか?」
嵐が七海の顔を覗く。七海の姿が見えていない筈の加賀見も、緊張した面持ち
で、自分の背後を振り返っていた。
「リストカットの痕を、見たわけじゃないの。でも、右手に黒いリストバンドを
してたお客さんなら……何度か見た覚えがある。夏なのに熱そうだな、って思った
記憶があって」
「黒の、リストバンドか……」
そう呟いた嵐に、黒住刑事が食い入るような眼差しを向ける。無理もない。
七海の声はつばさと嵐にしか聴こえない。嵐は彼女が言ったことを反芻した。
「そういうことなら、あの店の防犯カメラをチェックすれば、一発で見つかるで
しょう。リストバンドの男の顔がこの似顔絵と一致すれば、そいつが犯人である
可能性は高い。令状を取ってDNA鑑定をすれば……」
そこで言葉を途ぎると、黒住刑事は居ても立っても居られない様子で席を立った。
犯人に繋がる手がかりが、十分揃った。すぐにでも捜査に乗り出したいと
いった顔だ。
「あなた方のお陰で、捜査に必要な情報が揃いました。この情報を足掛かりに、
すぐに捜査にあたります。まずは早急に、カフェの防犯ビデオを確認しに行き
ますが……あなた方はどうされますか?ここから先は警察の捜査になるので、
ご同行いただかなくても大丈夫です」
つまり、これで用は済んだから、帰るなら送りますよ、というニュアンスだろう。
つばさは、嵐と斗哉の顔を見た。もちろん、家まで送ってもらえるならありがた
いが、すぐにでも捜査を再開したそうな黒住刑事に甘えるのも心苦しい。
きっと2人は、自分たちで帰るから大丈夫だ、と言うだろう。その方が、帰り道に
気兼ねなく話せることもあるだろうし……
そう思ってつばさが口を開きかけた時だった。あの、と遠慮がちに加賀見が
声を発した。
「これで彼らの用が済んだなら、僕が車で送っていきますよ。
できれば、もう少し七海の話を聴かせてほしいというのもありますし……
あ、君たちの時間が大丈夫なら、だけど」
そう言って、加賀見は3人の顔を見た。つばさも、嵐に目をやる。
きっと、嵐はこう答えるに違いない。別に構いませんよ、と。
数秒もしないうちに、予想通りの言葉が聴こえてきた。
「俺は別に構いませんよ。今日は一日予定を空けてありますし。加賀見さんが
迷惑じゃないなら、もう少しここでお話させていただきます」
「や、迷惑なんてとんでもない。お2人の霊視のお陰で、捜査が進展してくれた
んです。せめて自宅へ送り届けるくらい、僕にさせてください」
顔の前でひらひらと手を振りながら、加賀見が首を振る。つばさは大して役に
たってないのに、お2人のお陰でなんて言われて、恥ずかしくなってしまった。
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