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episode5 朔風に消える
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「では、彼らのことは加賀見さんにお任せしましょうか。我々は、このまま捜査に
戻るということで。もちろん、今後の進捗状況は、またこちらから
報告させていただきますよ」
少し冷めた紅茶を飲み干してそう言うと、門田刑事も立ち上がる。そうして、
じゃあ我々はこれで、と、そそくさとこの場を去ろうとする黒住刑事の背を追い
ながら、ふと、思い出したように振り返った。
「あ、それと、これは念のため言っておきますが、今回の件で何か思い至ることが
あっても、自分たちの判断で安易な行動はしないように気を付けてください。
犯人はすでに人一人殺しているんです。あなた方を危険に晒さないためにも、
こういった捜査は慎重に行った方が賢明なんです。いいですか?何かあったら、
すぐ、私に連絡してくださいね」
そう言って、門田刑事はつばさの顔を覗き込んだ。要するに、この中で一番、
つばさがそういう行動を取りそうに見える、ということだろう。そうして、
その推測は見事に的中している。つばさは、素直にはい、と肩を竦めた。
「こんな物しかないけど」
黒住刑事たちが加賀見の自宅から去っていくと、加賀見はハムとチーズを
挟んだホットサンドと温かなコーヒーを用意してくれた。気が付けば、時刻は
昼の2時を回っている。つばさは、きゅるる、と小さな音を立てたお腹を
擦りながら、いただきます、とホットサンドにかぶりついた。3層のチーズが
とろりと溶け出して、口の中いっぱいに広がる。
「美味しい!」
満面の笑みでパクパクと食べ始めたつばさに目を細めると、斗哉と嵐も
ホットサンドに手を伸ばした。加賀見が3人の向かい側に座る。その隣には
七海が佇んでいる。まだ、顔を直視することはできないが、その表情は笑んで
いるように見えた。
「犯人が捕まれば……七海は浮かばれるんでしょうか」
不意に、加賀見がコーヒーカップを手に呟いた。ぼんやりと、テーブルを
眺めたままそう言った加賀見に、嵐はコーヒーを口に運ぶ手をとめた。
「それは、彼女が成仏できるか、ということですか?」
はっとしたように顔をあげて、加賀見がぎこちなく頷く。嵐は、加賀見の隣に
いる七海に目を向けると、手にしていたカップをソーサーに戻して言った。
「大丈夫ですよ。彼女のことは、俺が責任を持って還るべき場所へ送ります」
加賀見が微妙な表情を向ける。どうやら、加賀見の言わんとしていることは、
もっと別の所にあるらしい。嵐の言い方だと、七海が浮かばれようが、
浮かばれまいが、自分が天国へ送り届けるという感じだ。つばさは、七海の
顔を覗き見た。犯人を捕まえてほしい、とそう言った時の彼女は、真実、そう
思っているように見えた。なのに、いまは加賀見と同じことを考えているように
見える。そのことに、つばさは何となく胸の中がざわついて、飲み込もうとした
ホットサンドを喉に詰まらせてしまった。
「むぐっ……!!」
どんどん、と胸を叩きながらコーヒーに手を伸ばす。何やってんだよ、と言い
ながら、斗哉がつばさの背中を擦った。ぐぐぐ、と無理矢理喉を通過したホット
サンドが胃の中に無事に落ちる。何となく張り詰めていた空気が、ふっ、と軽く
なって、その場にいる全員が頬を緩めた。そのタイミングを待っていたように、
あの、と、斗哉が口を開く。背中を擦る手は、そのままつばさの背中にあて
られている。
戻るということで。もちろん、今後の進捗状況は、またこちらから
報告させていただきますよ」
少し冷めた紅茶を飲み干してそう言うと、門田刑事も立ち上がる。そうして、
じゃあ我々はこれで、と、そそくさとこの場を去ろうとする黒住刑事の背を追い
ながら、ふと、思い出したように振り返った。
「あ、それと、これは念のため言っておきますが、今回の件で何か思い至ることが
あっても、自分たちの判断で安易な行動はしないように気を付けてください。
犯人はすでに人一人殺しているんです。あなた方を危険に晒さないためにも、
こういった捜査は慎重に行った方が賢明なんです。いいですか?何かあったら、
すぐ、私に連絡してくださいね」
そう言って、門田刑事はつばさの顔を覗き込んだ。要するに、この中で一番、
つばさがそういう行動を取りそうに見える、ということだろう。そうして、
その推測は見事に的中している。つばさは、素直にはい、と肩を竦めた。
「こんな物しかないけど」
黒住刑事たちが加賀見の自宅から去っていくと、加賀見はハムとチーズを
挟んだホットサンドと温かなコーヒーを用意してくれた。気が付けば、時刻は
昼の2時を回っている。つばさは、きゅるる、と小さな音を立てたお腹を
擦りながら、いただきます、とホットサンドにかぶりついた。3層のチーズが
とろりと溶け出して、口の中いっぱいに広がる。
「美味しい!」
満面の笑みでパクパクと食べ始めたつばさに目を細めると、斗哉と嵐も
ホットサンドに手を伸ばした。加賀見が3人の向かい側に座る。その隣には
七海が佇んでいる。まだ、顔を直視することはできないが、その表情は笑んで
いるように見えた。
「犯人が捕まれば……七海は浮かばれるんでしょうか」
不意に、加賀見がコーヒーカップを手に呟いた。ぼんやりと、テーブルを
眺めたままそう言った加賀見に、嵐はコーヒーを口に運ぶ手をとめた。
「それは、彼女が成仏できるか、ということですか?」
はっとしたように顔をあげて、加賀見がぎこちなく頷く。嵐は、加賀見の隣に
いる七海に目を向けると、手にしていたカップをソーサーに戻して言った。
「大丈夫ですよ。彼女のことは、俺が責任を持って還るべき場所へ送ります」
加賀見が微妙な表情を向ける。どうやら、加賀見の言わんとしていることは、
もっと別の所にあるらしい。嵐の言い方だと、七海が浮かばれようが、
浮かばれまいが、自分が天国へ送り届けるという感じだ。つばさは、七海の
顔を覗き見た。犯人を捕まえてほしい、とそう言った時の彼女は、真実、そう
思っているように見えた。なのに、いまは加賀見と同じことを考えているように
見える。そのことに、つばさは何となく胸の中がざわついて、飲み込もうとした
ホットサンドを喉に詰まらせてしまった。
「むぐっ……!!」
どんどん、と胸を叩きながらコーヒーに手を伸ばす。何やってんだよ、と言い
ながら、斗哉がつばさの背中を擦った。ぐぐぐ、と無理矢理喉を通過したホット
サンドが胃の中に無事に落ちる。何となく張り詰めていた空気が、ふっ、と軽く
なって、その場にいる全員が頬を緩めた。そのタイミングを待っていたように、
あの、と、斗哉が口を開く。背中を擦る手は、そのままつばさの背中にあて
られている。
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