彼にはみえない

橘 弥久莉

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episodeFinal 永遠のワンスモア

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それからしばらくは、奇妙な日々が続いた。

朝、学校に行って斗哉を見かけると、慌てて背を向ける。

遠巻きに嵐を見つけては、隠れるように逃げる。の繰り返しで……

そこかしこから2人の視線を感じつつも、つばさは逃亡者のように

校舎の中を逃げ回っていた。結局、月子からああ言われたものの、

いざ、話を切り出そうとするとどうしても足が竦んでしまうのだ。思えば、

誰かに告白されたのも、と喧嘩をするのも初めてで、どんな顔を

すればいいのかわからない。そして、自分が決めたことで、また2人を

傷付けてしまうことがわかっている以上……話がある、と声をかける

勇気が、どうしても持てなかった。そんなわけで、事態は膠着状態こうちゃくじょうたい

のまま、ついに明日はバレンタインデーだ。

「どうすんのよ?つばさ。チョコ用意するの?しないの?」

月子と同じく、事の顛末を知っている真理が、つばさの顔を覗き込む。

今は放課後で、下校途中だ。隣を歩く真理が、じれったそうに、ばさ、

と髪をはらった。

「うーん。用意……した方がいいよねぇ」

「そりゃそうよ。だって、別れるわけじゃないんだから。ごめんね、って

謝った後に渡せばいいじゃない。あいつ、喜ぶと思うよ?」

「でもさ。そういう雰囲気になるかなぁ?……」

つばさは、斗哉の顔を思い出して俯いた。黒いローファーの先を見て、

ため息をつく。斗哉とはもう何日も話していない。校内ではもちろん、

帰宅した後もだ。あれから、つばさは斗哉の部屋へ一歩も入っていな

かった。そして、つばさが部屋に来ないことを気にかける斗哉からの

連絡も、ない。だからどうしても、想像できないのだ。

甘いバレンタインデーを過ごしている、2人の姿が……。

「なるかなぁ?じゃなくて、そういう雰囲気にするの!チョコ渡して、

あんたの気持ち伝えた方が、あいつも絶対安心するって。だから、

今から買いに行こう。私が付き合うからさ」

下を向いたまま歩いているつばさの手を握って、真理が大股で

歩き出した。その時だった。あ、と声を発して真理が立ち止まったので、

つばさは不思議に思って顔をあげた。そうして、息を呑む。

数メートル先の電柱のところから、嵐がこちらを見つめていた。





「……嵐」

嵐は薄い笑みを浮かべている。自分を待っていたのだということは、

訊くまでもない。目を見開いたまま立ち尽くしているつばさに、嵐は

淡く笑んだままで、つばさに歩み寄った。

「待ち伏せして、ごめん。でも、こうでもしないと、つばさを捕まえ

られないと思ったから」

ぎこちなく笑んで見せる嵐に、真理が繋いでいた手をぱっと離す。

つばさは嵐に頷くと、自分の手を離した真理を向いた。

「あの、真理……」

「わかってる。私、先に帰るから。ちゃんと神崎と話しなさい」

言葉を詰まらせてしまったつばさと嵐の顔を交互に見やると、

真理はにっこり笑って、また明日!とその場を去っていった。

「彼女、山岸さんだっけ。いい友達だな」

あっという間に小さくなってしまった真理の背中を見送りながら、

嵐が呟く。つばさはその言葉に頷くと、嵐を見上げた。

「ごめんね、嵐。ずっと、その……避けたりして」

正直に、逃げていたことを認めたつばさに、小さく息を吐いて嵐が

首を振る。彼の表情から笑みは消えていない。

「正直、つばさに避けられるのは辛かったけど、俺も返事聞くのが

恐かったからさ。だから、俺も近づけなかったんだ……つばさに」

コートのポケットに両手を突っ込んで、嵐が下を向く。

つばさはその言葉に胸を苦しくしながら、また、ごめん、と言った。

嵐が顔をあげる。そして、周囲の視線から庇うようにつばさの隣に

立った。雰囲気から意味深な話をしているのがわかるのか、

2人の横を通り過ぎる生徒がちらちらと好奇の眼差しを向けている。

このままここで話を続ければ、翌日にはあることないこと噂されて

しまいそうだ。
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