彼にはみえない

橘 弥久莉

文字の大きさ
147 / 173
episodeFinal 永遠のワンスモア

147

しおりを挟む
「この間の公園行こうか。あそこなら、ゆっくり話せるだろうし」

嵐はつばさの返事を待たずに、くるりと踵を返した。

えっ、と、つばさは、瞬時に困った顔をして、あわあわと言葉を探す。



-----嵐だから気を付けてほしかった。



そう口にした斗哉の顔が、脳裏にチラつかないわけがない。

「待って!あの公園は……ちょっと…その…不味いというか」

頬を赤くしながらそう言ったつばさに嵐は振り返ると、ああ、と

目を細めた。まだ夕方とは言え、辺りは薄暗い。

「大丈夫。もう何にもしないよ。約束する。それなら構わないだろう?

ここじゃ人目を引くし、落ち着かないからさ」

いつもの顔で、いつもの眼差しで、そう言って嵐がつばさの返事を待つ。

つばさは、数秒迷ってから、わかった、と頷いた。






公園内に、やはり人影はなかった。

犬の散歩に来ていたらしい男性がひとり。ベンチに腰掛けていたが、

つばさたちの姿を認めるなり席を譲るように去っていって、誰もいない。

つばさは空いたばかりのベンチに嵐と座った。ひんやりと、

冷たい木の感触がスカート越しに伝わって、寒さから肩を震わせる。

2人の間に沈黙が流れた。フェンスの外に目をやっても、通りを

歩く人は見当たらない。あの時と同じ、この空間に嵐と自分だけだ。

つばさは、先に話を切り出される前に自分から口を開いた。




「あのね、嵐」

「……ん?」

「七海さんのとこ、もう、行ってきたの?」

つばさは嵐の顔を覗き込んだ。2人のことと同じくらい、ずっと気に

なっていたことだ。七海の魂は俺が救うと、嵐は言ってくれた。ならば

もう、彼女はこの世を彷徨っていないだろうか?犯人を、呪い殺したり

なんかしていないだろうか?じぃ、と隣から真剣な眼差しを向ける

つばさに、嵐は笑って頷いた。

「ああ、昨日行ってきたよ。実はその報告もしたくて、つばさを待ってたんだ。

ずいぶん気にしてたからさ。彼女はもう大丈夫だって、早く伝えたくて……」

その言葉を聞いて、つばさは目を輝かせた。無意識に頬が弛んで、

思わずいつものテンションに戻ってしまう。

「そっか!良かった、本当に。悪霊になったまま、ずっと天国にいけなかったら

どうしようって……心配してたんだ。犯人のことは赦せないけど、やっぱり、

七海さんに誰かを呪い殺すなんてこと、して欲しくなかったし……加賀見さんに

とっても、絶対にその方がいいと思うし……ありがとう、嵐。やっぱり嵐は凄いね。

本当に、カッコイイし尊敬しちゃう」

思うままに称賛の言葉を並べ立てるつばさに、嵐は眩しそうに目を細めた。

その笑みにどきりとして、つばさは表情を止める。さわ、と冷たい風が嵐の

長い前髪を揺らしている。

「やっと、笑ってくれたな。ここ数日、つばさのそういう顔見られなかったから。

それだけで、辛かった」

2人の間の、空気が変わった。そのことに気付いて、つばさは唇を噛んだ。

もう、逃げることはできない。自分は、伝えなければならないのだ。

彼を……嵐を、選べないのだということを。



いったい、どんなことから口にすればいいのだろう?



つばさは、俯いて少し考えると、嵐を向いた。

「嵐、私ね……嵐のことが大事なんだ。とっても」

凛とした声でそう言ったつばさに、嵐は頷くことも返事をすることもなく、

ただ、じっとつばさを見つめていた。

「だからね、嵐に嫌われるのは恐いし、嵐が私から離れてしまったら……

きっと、すごく悲しいと思う。それでも、斗哉か、嵐か、どちらかを選んでって

言われたら……私は斗哉を選ぶよ。自分と同じものが見えなくても、

怖いことから、守ってもらえなかったとしても、やっぱり、私にとって、

斗哉は特別だから」

嵐の瞳の中の、自分が歪む。



自分が口にした言葉で、苦しいほど胸が痛むなんて……

こんな風に、嵐を傷付けなければならない日がくるなんて……

出会った頃は思いもしなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...