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episodeFinal 永遠のワンスモア
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「そっ、そういえば斗哉、検察官になったんだね。黒沢検事、なんて呼ばれ
ててびっくりしちゃった。すごくカッコいいし、なんかドラマの主人公みたい」
思わず、自分の置かれている状況も忘れ、さっそうと検察庁の建物に入って
行く斗哉に羨望の眼差しを向ける。スーツの襟元には菊を模ったような
バッジが輝いていて、それが法務省に属する行政官であることを示している。
けれど、斗哉は複雑な顔をして目を細めた。
「お陰様で、順調にこの仕事には就けたけど、ドラマみたいに上手くいくこと
ばかりじゃないよ。俺の判断ひとつで、被疑者の人生も、その家族の未来も
大きく変わってしまうんだ。真実を突き詰めるにも時間には限りがあるし、
正直、責任の重さから逃げたくなる時もある」
斗哉らしからぬ弱音を口にしながら、肩を竦める。つばさはどう言葉をかければ
良いかわからずに、口を噤んだ。きっと、どんな夢も叶ってしまえばおしまい、
という訳にはいかないのだ。夢を叶えた後も、人生は続いていく。もしかしたら、
斗哉は夢と現実のはざまで苦しんでいるのかもしれない。
斗哉はエレベーターのボタンを押して乗り込んだ。どうやら、地下2階へ行く
つもりらしい。
「ごめんな。17歳のお前につまらない愚痴なんか聞かせて。とりあえず、いったん
俺の家で服を着替えようか?車で送るにしても、その帯じゃしんどいだろうし」
「車で送るって……斗哉は私がどこから飛ばされ来て、どこに行けば帰れるか
知ってるの!?」
つばさは、2人きりのエレベーターの中で思わず声をひっくり返した。
当たり前だろう?とでも言いたげに、斗哉が苦笑いする。
「知ってるよ。澄子さんから予めヒントをもらってるし、俺は戻って
きたお前から話を訊いてるからさ」
「あっ……そっか。そうだよね、未来の斗哉は知ってるんだよね。
何だか、ややこしくて混乱しちゃうね」
へへっと肩を竦めながら、つばさは頭の中で時間を一本の線にして考えた。
要するに、このあと自分は無事に17歳の斗哉の元に戻り、ここでの出来事を
彼に話すのだ。だから、10年後の斗哉はあの場所で自分を見つけても驚か
なった。人気のない駐車場を進み、一台の乗用車の前で斗哉が立ち止まる。
ピッ、とキーレスで車のロックを解除して、助手席のドアを開けた。
シートを倒して座りやすく調節すると、乗って、とつばさに声をかける。
「あ、ありがと」
つばさは助手席に座ってシートベルトを締めた。帯が邪魔で寄りかかることは
できないが、座っていて苦しいことはない。斗哉も運転席に乗り込んだ。
何げなく隣を見れば、いつの間にかノンフレームの眼鏡をかけている。
つばさはどきりと鼓動が鳴って、前を向いた。斗哉の眼鏡姿を見るのは
たぶん初めてだ。ただでさえ大人の色気でくらくらしているのに、知的な
雰囲気まで醸し出されれば、緊張でどうにも居心地が悪い。そんなつばさ
の心の内には気付いていない様子で、車を発進させると斗哉はさらりと
衝撃的な単語を口にしてくれた。
「ここからマンションまでは10分ちょっとなんだ。着いたら、嫁さんの服を
借りてすぐに家を出よう。澄子さんの家の庭から来たんだろう?同じ場所
から元の世界に戻れるから、何も心配ないよ」
「えっ!?」
自分を安心させるようにそう言った斗哉を、つばさは思わず二度見した。
確かいま、セリフの中に嫁さんという単語が入っていなかったか?
その疑問を解決するべく、ハンドルを握る左手に目をやれば、きらりと
指輪が輝いている。表面に葉のような、ツタのような柄が掘り込まれた、
エレガントなマリッジリングだ。いまこの瞬間まで、気付かなかった。
ててびっくりしちゃった。すごくカッコいいし、なんかドラマの主人公みたい」
思わず、自分の置かれている状況も忘れ、さっそうと検察庁の建物に入って
行く斗哉に羨望の眼差しを向ける。スーツの襟元には菊を模ったような
バッジが輝いていて、それが法務省に属する行政官であることを示している。
けれど、斗哉は複雑な顔をして目を細めた。
「お陰様で、順調にこの仕事には就けたけど、ドラマみたいに上手くいくこと
ばかりじゃないよ。俺の判断ひとつで、被疑者の人生も、その家族の未来も
大きく変わってしまうんだ。真実を突き詰めるにも時間には限りがあるし、
正直、責任の重さから逃げたくなる時もある」
斗哉らしからぬ弱音を口にしながら、肩を竦める。つばさはどう言葉をかければ
良いかわからずに、口を噤んだ。きっと、どんな夢も叶ってしまえばおしまい、
という訳にはいかないのだ。夢を叶えた後も、人生は続いていく。もしかしたら、
斗哉は夢と現実のはざまで苦しんでいるのかもしれない。
斗哉はエレベーターのボタンを押して乗り込んだ。どうやら、地下2階へ行く
つもりらしい。
「ごめんな。17歳のお前につまらない愚痴なんか聞かせて。とりあえず、いったん
俺の家で服を着替えようか?車で送るにしても、その帯じゃしんどいだろうし」
「車で送るって……斗哉は私がどこから飛ばされ来て、どこに行けば帰れるか
知ってるの!?」
つばさは、2人きりのエレベーターの中で思わず声をひっくり返した。
当たり前だろう?とでも言いたげに、斗哉が苦笑いする。
「知ってるよ。澄子さんから予めヒントをもらってるし、俺は戻って
きたお前から話を訊いてるからさ」
「あっ……そっか。そうだよね、未来の斗哉は知ってるんだよね。
何だか、ややこしくて混乱しちゃうね」
へへっと肩を竦めながら、つばさは頭の中で時間を一本の線にして考えた。
要するに、このあと自分は無事に17歳の斗哉の元に戻り、ここでの出来事を
彼に話すのだ。だから、10年後の斗哉はあの場所で自分を見つけても驚か
なった。人気のない駐車場を進み、一台の乗用車の前で斗哉が立ち止まる。
ピッ、とキーレスで車のロックを解除して、助手席のドアを開けた。
シートを倒して座りやすく調節すると、乗って、とつばさに声をかける。
「あ、ありがと」
つばさは助手席に座ってシートベルトを締めた。帯が邪魔で寄りかかることは
できないが、座っていて苦しいことはない。斗哉も運転席に乗り込んだ。
何げなく隣を見れば、いつの間にかノンフレームの眼鏡をかけている。
つばさはどきりと鼓動が鳴って、前を向いた。斗哉の眼鏡姿を見るのは
たぶん初めてだ。ただでさえ大人の色気でくらくらしているのに、知的な
雰囲気まで醸し出されれば、緊張でどうにも居心地が悪い。そんなつばさ
の心の内には気付いていない様子で、車を発進させると斗哉はさらりと
衝撃的な単語を口にしてくれた。
「ここからマンションまでは10分ちょっとなんだ。着いたら、嫁さんの服を
借りてすぐに家を出よう。澄子さんの家の庭から来たんだろう?同じ場所
から元の世界に戻れるから、何も心配ないよ」
「えっ!?」
自分を安心させるようにそう言った斗哉を、つばさは思わず二度見した。
確かいま、セリフの中に嫁さんという単語が入っていなかったか?
その疑問を解決するべく、ハンドルを握る左手に目をやれば、きらりと
指輪が輝いている。表面に葉のような、ツタのような柄が掘り込まれた、
エレガントなマリッジリングだ。いまこの瞬間まで、気付かなかった。
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