「みえない僕と、きこえない君と」

橘 弥久莉

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第四章:やさしい時間

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 「そうかなぁ……」

 素直に喜んでいいものかわからず、微妙な
笑みを浮かべたまま目の前に座っている町田
さんに、ちらりと目を向ける。
 すると、町田さんはほんの一瞬だけ複雑な
表情を覗かせたかと思うと、次の瞬間には、
いつものように、シシ、と、笑って白い歯を
見せた。

 「確かに、似てるかもな。俺も羽柴くんも
イケメンだし」

 得意げにそう言って、さらりと前髪を掻き
あげる。僕は彼らしいその口ぶりに苦笑い
しながらも、何となくこの話題から離れた
方がいい気がして、レジャーシートの真ん
中に残っていたメープルチーズケーキに
手を伸ばした。

 「そろそろ、デザートにしようか?これ、
みんなで食べていいんだよね?このまま一人
ずつ食べて、回せばいいかな」

 小ぶりのホールケーキの上には、プラス
チックのフォークが4本、セロテープで止めて
ある。そして、透明のケースの中を見れば、
ケーキは4つにカットされていた。

 ぴたりとフォークのビニールに張り付いた
セロテープを剥していると、弥凪がケーキを
両手で持って支えてくれた。

 (先に、食べる?)

 弥凪の顔を覗き込みながら、そう、唇を
動かすと、笑いながらふるふると首を振った
ので、言い出しっぺの僕が一番に食べる
こととなった。

 「うわ、あまっ!」

 二等辺三角形の先端にフォークを刺し込み、
ほろほろと崩れ落ちそうなチーズケーキを
口に運ぶと、その味は想像以上に濃厚で甘かっ
た。蓋を開けた瞬間にふわ、と甘ったるい香り
がしたから、覚悟はしていたけれど……

 その濃厚チーズケーキを順番に食べながら、
町田さんが買ってきたカルピスを飲みながら、
僕たちはやはり、取り留めのない話で盛り
上がった。

 「カルピスってさ、子供のころから好き
なんだけど、いまは色んな種類があるのな。
ラフランスとか、マンゴーとか、プレミアム
とか」

 コップに注がれたカルピスを飲みながら、
町田さんが言う。

 「グレープとパインは昔から原液でありま
したよね。僕、子供のころはグレープ味を
濃いめで飲むのが好きでした」

 僕がそう言うと、弥凪が嬉しそうに頷いた。

 (わたしも、グレープが好き。それか、
炭酸で割って飲むの)

 咲さんの手話通訳を間に挟み、僕たちの
カルピス談話はさらに続いていく。

 「でも、カルピスって子供のころは夏の
定番って感じだったけど、いまは一年中
どこでも売ってるからあまり特別な感じは
ないですよね。それより、わたしは自販機
で“アンバサ”を見つけた時の方が嬉しかっ
たかも」

 開いた両手を、胸の前で上下に動かし
ながら“嬉しい”と、表現した咲さんに、
町田さんがキラキラと目を輝かせた。
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