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5・行き先は決まりました
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「コリンナ、おじいさん。たくさんごちそうしてくださって、本当にありがとうございます」
おじいさんが用意してくれたホットココアをいただきながら、私は受付の隣にある小さな休憩室を借りていた。
お腹を空かせた私のために、コリンナは塩パンや穴あきチーズ、こんもりと盛られたブドウに甘く香ばしいバタークッキーを持ってきてくれる。
私は彼女の好きな食べ物に囲まれながら、人目を気にせずゆっくり食事をとれた。
「やさしいお嬢さんが孫に付き合ってくださるだけで、本当にありがたいお話です」
食事代を渡したかったけれど、おじいさんから丁重に断られてしまう。
「コリンナの母親は二年前に流行り病で……。ワシと息子、男だけで育てているせいか、コリンナは年上の女の人を見ると気になって仕方がないようです」
コリンナはお腹が空いていないと言って、私が食べるところをおもしろそうに見ている。
「おんなのこ、おうちどこ?」
「これから決めるところなの。コリンナはどんなところに住んだらいいと思う?」
「ごはん、おいしーのね!」
「やっぱりそうだよね。おじいさん、食べ物の種類が豊富でおいしい国や地域を知っていますか?」
「それなら間違いなく、ラグガレド帝国ですなぁ」
その名なら、ほとんど聖堂暮らしの私ですら聞き覚えがあった。
「ワシも色々な品を見る機会はあるが、ラグガレド帝国は食べ物だけでなく、日用品や武器や薬や魔術書、どれをとっても質と量は世界一だろう。ただあそこは、世界で一番物騒な国でもあるがのう」
ラグガレド帝国の先代の皇帝は侵略をくり返して領土を広げ、彼の後に即位した現皇帝はさらに恐ろしいという意味を込めて、魔帝の異名で呼ばれている。
残忍な魔帝が皇帝の座を退かない限り、周辺国が束になって楯突いても勝てる見込みのない巨大帝国だ。
「じゃあそこに行ってみようかな」
私が最後のパンを食べ終えて言うと、おじいさんは目を剥いて驚いている。
「ひえっ!? お嬢さん、本気かい?」
「はい。噂によると、帝国の軍事力は増しているようですが、最近は争いごとに関して聞いたことがないんです。周辺国も恐れて帝国に歯向かう様子もないので、逆に平和かもしれません」
「帝国が平和……? そんな風にとらえる人に会ったのは、お嬢さんがはじめてだが……大丈夫かね?」
「魔帝に会いに行くわけでもありませんから。大丈夫でなければ、別の場所へ行きます」
「身軽だのう。たまげるわい」
「おんなのこ、かっこいー!」
「ふふ、そう?」
みんなで和やかに笑っていると、不意に店の扉が鳴った。
訪問客を確認して、おじいさんとコリンナが声をあげる。
「ケヴィン!」
「おとしゃん!」
入ってきたのはコリンナと同じ茶色い髪の、おじいさんに似た顔立ちをした男性だ。
おそらくコリンナのお父さん、おじいさんの息子さんらしきケヴィンさんは、自分の肩を貸すように黒髪の青年を支えている。
「おとしゃん! いっしょ、だーれ?」
「コリンナ、おじいさん。たくさんごちそうしてくださって、本当にありがとうございます」
おじいさんが用意してくれたホットココアをいただきながら、私は受付の隣にある小さな休憩室を借りていた。
お腹を空かせた私のために、コリンナは塩パンや穴あきチーズ、こんもりと盛られたブドウに甘く香ばしいバタークッキーを持ってきてくれる。
私は彼女の好きな食べ物に囲まれながら、人目を気にせずゆっくり食事をとれた。
「やさしいお嬢さんが孫に付き合ってくださるだけで、本当にありがたいお話です」
食事代を渡したかったけれど、おじいさんから丁重に断られてしまう。
「コリンナの母親は二年前に流行り病で……。ワシと息子、男だけで育てているせいか、コリンナは年上の女の人を見ると気になって仕方がないようです」
コリンナはお腹が空いていないと言って、私が食べるところをおもしろそうに見ている。
「おんなのこ、おうちどこ?」
「これから決めるところなの。コリンナはどんなところに住んだらいいと思う?」
「ごはん、おいしーのね!」
「やっぱりそうだよね。おじいさん、食べ物の種類が豊富でおいしい国や地域を知っていますか?」
「それなら間違いなく、ラグガレド帝国ですなぁ」
その名なら、ほとんど聖堂暮らしの私ですら聞き覚えがあった。
「ワシも色々な品を見る機会はあるが、ラグガレド帝国は食べ物だけでなく、日用品や武器や薬や魔術書、どれをとっても質と量は世界一だろう。ただあそこは、世界で一番物騒な国でもあるがのう」
ラグガレド帝国の先代の皇帝は侵略をくり返して領土を広げ、彼の後に即位した現皇帝はさらに恐ろしいという意味を込めて、魔帝の異名で呼ばれている。
残忍な魔帝が皇帝の座を退かない限り、周辺国が束になって楯突いても勝てる見込みのない巨大帝国だ。
「じゃあそこに行ってみようかな」
私が最後のパンを食べ終えて言うと、おじいさんは目を剥いて驚いている。
「ひえっ!? お嬢さん、本気かい?」
「はい。噂によると、帝国の軍事力は増しているようですが、最近は争いごとに関して聞いたことがないんです。周辺国も恐れて帝国に歯向かう様子もないので、逆に平和かもしれません」
「帝国が平和……? そんな風にとらえる人に会ったのは、お嬢さんがはじめてだが……大丈夫かね?」
「魔帝に会いに行くわけでもありませんから。大丈夫でなければ、別の場所へ行きます」
「身軽だのう。たまげるわい」
「おんなのこ、かっこいー!」
「ふふ、そう?」
みんなで和やかに笑っていると、不意に店の扉が鳴った。
訪問客を確認して、おじいさんとコリンナが声をあげる。
「ケヴィン!」
「おとしゃん!」
入ってきたのはコリンナと同じ茶色い髪の、おじいさんに似た顔立ちをした男性だ。
おそらくコリンナのお父さん、おじいさんの息子さんらしきケヴィンさんは、自分の肩を貸すように黒髪の青年を支えている。
「おとしゃん! いっしょ、だーれ?」
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