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2章

15・なるほど、その発想はありませんでした

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「近々散歩に行こう。付き合ってくれないか?」

「お散歩……!?」

 はじめてのお誘いに、エレファナはぴくりと反応した。

「お散歩、してみたいです!」

(そのためには、もっと元気にならなければいけませんよね。セルディさまとのお散歩のために、一刻も早く体力を取り戻さなくては!)

 エレファナは先ほどまでのセルディを追うような食べ方ではなく、自ら意欲的に食事を取り始める。

(ポリーに教えてもらった通り、よく噛みます。セルディさまのように色々な種類を食べます!)

 はた目から見ても伝わる情熱的な食べっぷりに、セルディもつられるように、エレファナが食べているものと同じヨーグルトを口元に運んだ。

「……無理をしていないか?」

 エレファナははっとしたように、目をぱちぱちさせる。

「セルディさま、よく気づきましたね。言われてみると、そろそろお腹がきつくなってきました」

「食べ過ぎにも気を付けなくてはいけないが。エレファナ、俺は君が家族を切望していたと知っている。しかし俺の……夫の役に立とうと、がんばりすぎているように思えるのだが」

「がんばっているのかはわかりませんが、私は今まで帝国のお役に立つためだけに生きてきました。役に立たない者はどこかへ連れていかれて、そのまま会えなくなります。私はセルディさまに会えなくなるのは嫌です。たくさんお役に立ちたいです!」

 はきはきと答え、再び食べ始めたエレファナだったが、ふと部屋に満ちる静けさに気づいて辺りを見回す。

(あら? うつむいたポリーの目元が潤んで赤くなっています。埃でも入ったのでしょうか? バートはハンカチで目頭を押さえながら鼻をすすって……突然風邪を引くなんて初めて知りました。セルディさまは……どうしたのでしょう、とても悲しそうに見えます。もしかして、嫌いな食べ物でも残っているのでしょうか)

「セルディさま、それです! その苺を残さず食べてみてください、本当においしいですよ!」

「これは避けているわけではない。最後の楽しみだ」

「……! なるほど、その発想はありませんでした!」

(では私もひとつだけ、最後の楽しみとして取っておいてみます!!)

 エレファナはわくわくしながら、とっておきの苺以外を食べ始めた。

 その様子を見つめていたセルディは、自然と食事の手が止まっている。

 気配に気づき、視線を上げたエレファナは真剣な眼差しとぶつかった。

 怒りにも苦しみにも思えるなにかが、彼の硬質な瞳に浮かんでいる。

 しかしセルディはそれをエレファナへ向ける代わりに、ゆっくりと穏やかに語りかけた。

「君は帝国が憎くないのか?」

「そうですね……よくわかりません。研究所の人たちも『心を作るのが一番難しい』と言っていたので、ちょっとうまくいかなかったのだと思います。育っていく途中で心の調子が狂う魔女もいました。やっぱりそのまま会えなくなりました」

「そうなのか」

「はい」

「……なぁ、エレファナ。君は今、長い間の疲労と精霊を抱えていることで魔力が枯渇している。君さえ迷惑でなければ、しばらくは事情がない限り人の前に出ずに、この城の周辺で身体を休めてくれないか」

「ありがとうございます! そうすればきっと、私の助けたい精霊も元気になってくれるはずです。それに精霊の加護がこの土地にも影響すれば、人を襲う魔獣が少なくなるのですよね? セルディさまも他の人たちも、魔獣に襲われる危険が減ります。いいことしかないと思います!」

「そうだな。しかし……」

 セルディがどこかためらうような表情で見つめてくる。

 エレファナはどきりとして、思わず手で腹部を押さえた。

「す、すみません。お腹が苦しくなってきたのについ、食べ続けてしまっているのがバレていたとは……」

「そうではない。いや、それもそうなのだが。俺は例え精霊の加護が得られないとしても、今はただ君に健やかでいて欲しい。それだけでいいと伝えたかっただけだ」

「……?」

「君と過ごしているうちに、俺がそうあって欲しいと願うようになった。もちろんエレファナのために俺にできることがあれば、厭うつもりはない。君のことを守りたいと思っている」

 その言葉からためらいは消え、今は決意を秘めているかのような真摯さが伝わってくる。

 エレファナはそれを不思議な気持ちで聞きながら、気づけばセルディと見つめ合っていた。

(どういうことでしょうか。もしかすると……)



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