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2章

16・最後の楽しみは、特別な味がします

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「私が元気になったら、精霊やセルディさまのため以外に、なにかお役に立てることがあるのでしょうか?」

「役に立つかもしれない。だけど、役に立たなくてもいい」

「それは……」

 エレファナからさっと表情が消えて、セルディは慌てて訂正する。

「もちろん俺と会えなくなるわけではない。エレファナがよく休むことで、精霊が元気になっているのも事実だ。しかしもう君を縛る帝国はない。役に立つかどうかはともかく、君のしたいことがあれば遠慮せずにして欲しいと思っている」

「私のしたいこと……?」

 エレファナはぱちぱと目をしばたかせた。

 そしてエレファナは初めて自分の意思で動いたのが、婚約破棄を受けてから魔導研究所へ向かい、命が尽きかけていた精霊を助けようとしたときだったと気づく。

「でも私、まだ自分の時間を使い始めたばかりだからでしょうか。なにをしたいのか、すぐに思いつきません」

「無理に急ぐようなことではないさ。そうだろう?」

「セルディさまが言うと、そんな気がしてきました」

「難しく考えることではないからな。ただ俺が、君の好きなように過ごして欲しいだけだ」

「そうなのですね。うまくできるかわかりませんが……セルディさまはいつも良いことを教えてくれますし、ぜひそうしてみたいと思います!」

 エレファナは決意を新たにすると、あとわずかになってきた美食を堪能し始める。

(トマトのスープはたくさんの味がします。多くの素材がこのひとつに凝縮されている……なんて贅沢な一品なのでしょうか)

 エレファナが心底おいしそうに食べるその様子を見つめながら、セルディはつられるように同じ品を口に運んでいた。

(そして、ついに……!)

 いよいよ最後の苺だけとなる。

 エレファナは自分の皿に取っておいたそれを、丁重に食べてみた。

(最後の楽しみ……これは!)

 苺にはしっかりとした甘みとほのかな酸味があり、果肉を噛むとみずみずしさが口の中に溢れる。

「こ……これは、特別な味です!!」

「ん、気に入ったのか?」

「はい、とても! セルディさまは苺を食べるときが、一番おいしそうな顔をしていますから!」

「それは……バートにも言われたことがあるな。幼いころは好き嫌いをポリーに指摘されて『ピーマンも苺の味になれば山盛り食べれるはずだ』と言い訳したこともあった」

「そこまでですか!」

 背後に控えるポリーとバートは、大きく頷いた。

「そのせいでしょうか。セルディさまが苺を食べているお顔を見ていたら、私はもっと苺が好きになりました。だからまた一緒に……あ、そうです。私のしたいことは、セルディさまと一緒に苺を食べることです! セルディさまとお話ししていたら、したいことがあっという間に見つかりました!!」

 エレファナの満足そうな微笑みに、セルディの硬質な銀色の眼差しも自然と柔らぐ。

「……俺も。エレファナと話をして、したいことが見つかった」

「! 気になります!!」

「そうだろう?」

「そうですよ、全くもってそうです!! 一体それはなんでしょうか!?」




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