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9章

67・色々と気づいたので、お話ししたいです

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「なっ……!?」

 見えずとも気配でわかった。

 闇で塗りつぶされた目の前に、不快な息遣いで飢えを癒そうと口を開く、なにがかいる。

 それがフロリアンの見た最後の景色となった。




 *

 堅牢なはずの城が、震えるように足元から揺さぶられている。

 低震度にも思える揺らぎの中、エレファナはセルディに守られるように腕の中にいながらも、すでに起こったことに気づいていた。

「陛下がいらっしゃいました」

 エレファナの静かな声が、客間の一室に良く響く。

 アステリオンは控えていた護衛騎士に囲まれながら、揺れに耐えるため身を伏せたまま顔を上げた。

「私の父上は若者主体の夜会に興味がないし、今夜は隣国へ出向いているはずだよ」

「はい。いらしたのはこの国の王さまではなく、旧ドルフ帝国の皇帝陛下のようです」

 かつて傾国の魔女の加護を失い、新しく興ったこの王国によって滅ぼされた帝国皇帝を想像して、室内の気配がさっと緊張を帯びた。

(しかし……ドルフ皇帝は私のように二百年も経った時代に現れたからでしょうか? 魔力の気配が変質していて、まるで魔獣のようです)

 ようやく足元の揺れが引いてくると、扉の外から騒々しい気配が近づいてくる。

 ひとりの騎士が慌てた様子で部屋に通されると、アステリオンの前で膝をついた。

「アステリオン王太子殿下に火急の件を申し上げます。北の庭園方面からぞくぞくと魔獣が沸いております。ドルフ領で確認されることの多い大量発生に酷似しているとのことです。一刻も早い避難を……!」

 揺れが収まったことを確認しながら、アステリオンは落ち着いた振る舞いで立ち上がる。

「報告に感謝する。詳細を説明して欲しい」

「まだ事態が判明したばかりで、大まかな内容ではありますが。かつてのドルフ領のように、魔獣が突然大量発生して暴れ狂っている模様です。さらに……」

 青い顔の騎士は一瞬迷ったそぶりを見せたが、しかし続けた。

「話によりますと……物影から変形した影のような黒く異様なものが突き上げてきて、次々と人に近づこうとする現象が目撃されています。しかも空間を自由に移動できるのか城内も例外ではなく、複数回の出没が確認されています」

「被害が出たのか?」

「いえ、城内に聖域結界が張られているためか動きが鈍く、時間が経つと消えてしまうそうです。城外は調査中で状況はわかりません」

 アステリオンはセルディに目を向けた。

「このような場合、魔獣討伐の専門家ならどうするのかな?」

(あっ、そうです。セルディさまはドルフ領を下賜されてからずっと、魔獣討伐の団長として尽力されていたので、このような事態に詳しいはずです! そして私も色々と気づいたので、お話ししたいことがあります!)





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