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ep3

初めてのチュー

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「抑えて 魔力を抑えて」

と言っても、その後のミューラーとメーリールーの魔力は、だだ漏れとなり、全く魔物は寄って来ないまま、日が沈む頃となった。

「今日は、この辺りでキャンプするわよ」

パールのマジックバッグから、野営用テントなどが次々と出された。
パックは、キラービーたちをスキル『キャッチ』『ポケット』で回収し、久しぶりに赤アリたちを出動させた。
赤アリたちには、テント周囲の偵察と警戒を任せる。

「赤アリさんたち、お出かけ前にこれを食べて行くんだよ」

『ポケット』から玉子焼きを出して与えた。
赤アリたちは、玉子焼きを平らげると、「カチカチカチ」とあごを鳴らしてよろこんでいる。

「さぁ 行っといで」

赤アリたちは、散り散りになった。

「パック 焚き火の用意が出来たぞ」

「ミューラー ありがとう。上手く着火出来たみたいだね」

「ああ 魔力を抑えているのがいい訓練になったようだよ。
火力調節が出来るようになったぜ」

ミューラーは、人差し指を上に向けてその上に小さな炎を出した。
ロウソクの炎のようにゆらゆらした炎だ。

「さあ これが」

だんだんと勢いを増して、青白いガスバーナーの炎のようになり「ゴー」っと燃焼音をたてている。

「上手になったね。
これならドライヤーもできるんじゃない」

「ドライヤーって」

「暖かい風を使って、髪の毛を乾かすやつだよ」

「ああ、あれか。よし、練習するよ。メーリールー喜ぶかな。」

「最後は冷風にしないと髪が傷むよ、覚えておいて」

「わかった、ちょっと練習してくる。」
ミューラーは、そう言い残して離れて行った。

入れ代わりにパールが、やってきた。
焚き火に照らされた横顔を見て「可愛い」とパックは言った。

「えっ なによ 急に」

「あっ 聞こえちゃった
ごめん 独り言だよ」

「謝ることないじゃない」

「そうだね ごめん」

「あっ また 謝った」

「ハハハ そうだね」

「フフフ
 さっきの『可愛い』は なぁに」

「焚き火に照らされたパールの橫顏が可愛く思えたんだよ」

「んあっ そ そうなんだ
またね パック」

パールは赤く照らされた顔をますます赤くして行ってしまった。

「なんかぼくに用があったんじゃないのかな」

パックは、そうつぶやくと料理を始めた。

「パック パールとなにかあったの」

今度はシンディがやってきた。

「別に なにもないよ」

「本当に。
パールったら両頬に手をあてて、なにかブツブツいいながら歩いてたわよ」

「そう言えば、横顔が可愛く思えたから、可愛いってつぶやいたのを聞かれたよ」

「ふぇ そんなこと言ったんだね。あ~ それでかぁ。
ねぇ パック
わたしは、どう」

「どうって なに」

「バカ 変なとこ鈍いんだから
可愛いのは、パールだけですか」

「シンディも可愛いよ」

「な~んか 嬉しくないわ」

「はぁ~ どうして欲しいの」

「ドキドキさせて欲しかったのよ。
でも、もういいわ。」

「シンディ」

「えっ なに」

「食事が出来たって、みんなを集めてくれないかな」

「もう バカ 期待しちゃったじゃない。」



食事の時は、大抵パックの両横にパールとシンディ、向かい合わせにがミューラーとメーリールーが座っている。

「なんかパールは、いいことでもあったのかな。」

ミューラーがパスタを食べながらパールに話しかけた。

「えっ うん そうよ
でも秘密」

「そっかぁ 秘密かぁ
それに引き換えシンディは、表情が硬いけど、どうした」

メーリールーが、フォークでミューラーを突き刺した。

「痛て なにすんだよ」

「黙って食べなさいよ」

「フォークで刺すこと無いだろ」

すると、シンディが何も言わずにフォークを置いて、立って行った。

「この朴念仁が、何かやらかしたのね。
早く行きなさいよ」

パールが肘でパックをつついた。

パックは、あと一口二口で食べ終るパスタを残念そうにチラッと見てからフォークを置き、シンディを追った。

「なに なんだよ なんで食事中に二人共行っちゃったんだ」

メーリールーが、フォークで丸めからめたパスタをミューラーの口に突っ込んだ。

「ちょっとその口を閉じてなさいよ」

「んがっ」





一人で星空を見上げているシンディがいた。

パックは、しばらく黙って寄り添った。







「シンディ 僕が悪かったのなら謝るから ごめんね。
さぁ みんなの所に戻ろうよ」



少し間があって

「謝らなくていいわ。
私、自分が嫌になったの」

「自分が嫌に」

「そうよ。
(シンディは一つ大きく息を吐いた)
パールにやきもち焼いてる自分が嫌になったの。」



「えっ でもぼくパールとは何も無いよ」

「知ってるわ」








「『可愛い』ってパックから言ったんでしょ。
わたしには、そうじゃ無かった。
私から『可愛い』って言ってもらえるよう仕向けた。
そしたら、『シンディも』って言われたわ」




「ごめん」



「謝らないでよ。みじめになる。」



「違うんだ」



「パールは王女で可愛くて一番よね。いいのよ私は2番で、それでもパックが好きだから。
嫌だって言ってもパックについて行くから。

あー 言いたいこと言ったら、またお腹すいた。
まだパスタ残ってるかな」


パックに背を向けてシンディが歩きだそうとする。

パックはシンディの手を掴み振り向かせ、そしてそのまま抱き寄せてキスをした。

パックがシンディを離すと
シンディはうつむいて、キスの感触を確かめるように自分の唇に手をあてた。

「これがぼくの答えだよ」

「ばか」

シンディは、パックに抱きついた。





「ヒューヒュー」
「やるなぁ パック」
「見せつけてくれるわね」

いつのまに来たのか、3人が茂みの裏から出てきた。

シンディは、慌ててパックから離れて、テントの方へと走り逃げて行った。
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