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ep3

イカヅチの槍

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朝一番に起きたパックが朝食の準備をしていると、ミューラーがテントから出てきた。

「なぁ パック キスってどんな感じだった」

「プニっと ふわっとかな」

「ああ~ メーリールーの唇どんなかなぁ~」

「朝からそんなことばかり考えてるのかいミューラーは。
いっくら想像しても分かるはずないよ。
体験あるのみさ。」

「あ~ パックに先越された~いいなぁ~」

「無理やりはやめなよ」

「そんなに飢えてねぇよ」

「どうだかな ここにメーリールーが居たら襲いそうに見えるけど」

「俺は紳士として、彼女と付き合うんだ。
それよりパック、シンディとのキスシーン見せつけておいて、パールとはどうするんだよ」

「結婚することになるんだろうね」

「二人ともか」

「多分ね」

「本当はどっちが好きなんだよ」




「それって、どっちか選ばないといけないのか」


「お前さぁ パスタとパンみたいに考えてるのか」


「アハハ どっちも捨てがたいな」


「おはよう ミューラー パック」

「おはよう メーリールー」

「おはよう」

「ねぇ 二人で何の話してたの」

「ミューラーがメーリールーにキスしたいんだってさ」

「おい パック」

「いいわよ」

「えっ いいの」

「私たち、付き合ってるのよね。私はあなたの婚約者よね。
いつキスしてくれるのかと私待ってたんだけど
ミューラーのいくじなし」

その時、シンディとパールもやってきた。

「おはよう」
シンディは、パックをチラッと見て視線を外して恥ずかしそうだ

「おはよう みんな
 あれれ 何か変な雰囲気
 何かあったのかな
 パック、どうしたの」


「ミューラーがいくじなしで
中々メーリールーにキスしないって。メーリールーは、待ってたんだって。
ミューラーもメーリールーとキスしたいって、ぼくには打ち明けてたんだけどね。」


「おいパック ちょっと
そんなあけすけに」

するとパールが

「いいじゃない。
お互い好き同士ってみんな知ってるわ。ここでキスすれば。
あとパックも私にキスしてよ、
それでみんな仲良し元通りよ。
シンディは、昨日済ませたから今日は見届人でお願い」

パールはパックの手を取って立たせた。
メーリールーが立上がると、ミューラーも立ち上がった。

シンディが一つため息をついてから
「はい、二組共に抱き合って。
あとのタイミングは、お好きにどうぞ。」

シンディがもう一度ため息をつくのに合わせて、二組はキスをした。

パックの唇がパールから離れると

「どう 私の唇は」

「よかったよ」

「感想はそれだけ
私のファーストキスをあなたにあげたのよ」

パックはもう一度パールにキスして口を塞いだ。

再び唇が離れるとパックは

「言葉は要らない。感じるだけでいいとぼくは思うよ」


「ずるい。2回した。
2回もキスした。
パック、私にもキスしてよ。」

シンディがキスのおねだりをしてきた。

もちろんパックはそれにも応えた。

「はい、みんなラブラブタイムは終り。困ってる村を助けに急がないと。」

パールは腰に手を当てて仁王立ちしている。

タマゴサンドとコーンスープで朝食を済ませ、野営用具はパールのマジックバッグに片づけて、出発した。

夜の警備を終えた赤アリに代わり、昨日同様キラービーを偵察に放って、馬車は出発した。

昨日同様、☆五芒星メンバーは魔力を抑えている。
弱い魔物は勝手にキラービーが狩りながら馬車は進んでいった。

昼近くになって偵察のキラービーから連絡がはいった。


一匹のキラービーが、クモの巣に絡み取られているようだ。

〈他のキラービーは、近づき過ぎないこと〉

そう指示を出した最中に、もう一匹狩られた。
クモが糸を飛ばしたんだろうか?
蜂の複眼のボンヤリした映像では全くわからない。
蜂にとってクモは相性が悪いようだ

〈もっと距離を取るんだ、狩られるぞ〉


「この先で、ぼくのキラービーがクモに狩られてるんだ。
アイアンスパイダーかも知れないから、迂回しよう」

「鉄の糸を飛ばすって言われてるランクBのクモの魔物よね。
本当に鉄の糸なのかしら。
鉄並みに魔力で強化した糸じゃないの。」

「パール なんでクモの糸が鉄かどうか気になるの」

「鉄なら、私の雷が特効だからよ」

「殺るつもりなの。相手はランクBなのよ。危険じゃない。」

「いざとなったら、メーリールーの土壁でガードして、シンディの光弾で倒せるでしょ
それに他のメンバーも、オーガと戦った時より強くなってるでしょ」

「わかったよ。
でも危険と思ったら直ぐに応援するからね」

馬車を街道脇に置いて、パールを先頭にキラービーの誘導で進んで行くと大蜘蛛がキラービーを捕食している所だった。

「アイアンスパイダーで、間違いないわね。
アンタには悪いけど、私の新技の餌食になってもらうわよ。」

アイアンスパイダーは、パールを敵として認識した。
吐き出した糸を網のようにして、投げつけてきた。

パールは『瞬足』でそれを回避した。

先程迄パールのいた場所の木が網目状に切られて、ベトベトした糸がくっついている。

何か仕掛けようとしているパールが、突然よろめいて倒れた。

「パール」

パックが駆け寄るよりも早くシンディの『聖なる風』がパールを包んだ。

パックの太ももに細いクモの糸が突き刺さり貫通している。

「ちょうどいいわ。サンダーボルト」

アイアンスパイダーは、殺気を感じ取ったのかクモの糸を切り離していた。

視認しやすい網状の糸の後に、ピアノ線のように細くて見えにくい糸での攻撃は、なかなかに厄介だ。

「あたしだって、離れた所から攻撃できるわよ」

パールは『瞬足』でスピードを乗せて槍を放った。
そして、アイアンスパイダーに槍が当たる瞬間にタイミングを合わせてサンダーボルトを放った。

槍が避雷針のように、パールのサンダーボルトを吸い寄せて、アイアンスパイダーに当った。

「やったか」
「いや、まだみたいだ」

多少は効いてるみたいだが、パールの槍は地面に落ちている。
サンダーボルトはアイアンスパイダーの内部には届かずに外殻を通ってアースされたようだ。

アイアンスパイダーはまた細い糸で攻撃を始めた。

「所詮虫のオツムね、もうそんな攻撃当たらないわよ
それに槍もまだ有るわよ」

パールはアイテムボックスから槍を取り出し、アイアンスパイダーの放つ糸を弾く。

「ん
 少しは頭が働くのね」

打ち出してくる糸の中に、数本粘液が付いている物が混ざってる。

「ここでからめ捕られるのは、まずいわね。」

アイアンスパイダーは、パールを槍ごと引き寄せて、捕食しようとパックリ口を開けた。

「グッジョブ蜘蛛ちゃん」

パールの手には、魔力で具現化された槍が現れた。

「行け~ 『イカヅチの槍』」

パールの手から放たれた稲妻がアイアンスパイダーの口の中に突き刺さって行く。

「バチバチバチバチ」

アイアンスパイダーの口から煙が立ち昇った。
6本の足が力を失って、胴が地に着いた。

「フン 私の勝利ね。」

パールは、皆の方に振り向き、勝ち誇って、右手をグーで突き上げ勝利宣言をした

しかし、その瞬間
再びパールが力無く倒れた。

「えっ」

絶命したと思ったアイアンスパイダーが放った糸がパールの背中から胸へと突き抜けていた。


『岩石崩し』メーリールーの強烈な一発で、アイアンスパイダーはぐちゃぐちゃになって飛び散った。

シンディの『聖なる風』がパールの全身を包む。

パックが駆け寄りパールを抱き上げる。

「パール よく頑張った、もう終わったよ。」

パックは、パールを抱いて、口移しでプルプルプリンを流し込んだ


少しするとパールは目を開けて

「次に私にキスする時は、私の意識が有るときにしてよね」

と言って、微笑んだ。
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