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ep3

ダイヤとイザベラ

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部屋に戻ってみると、パール、シンディ、アイの3人の妻がパックを待ち構えていた。

ドアを開けると目の前にパールが仁王立ちで立っていた。

「夜中にどちらへいらしたのかしら。旦那様」

なぜかアイが泣いていて、シンディが寄り添っている。
シンディが、パックを睨んで

「どこに居たのかは、魔力を辿ってわかってます。
素直に白状して下さい。」

状況が飲み込めずパックは、あたふたしてしまった。
これじゃあまるで、朝帰りの旦那を問い詰める妻の絵図?それも3人の妻。

「3人共、少し冷静になろうよ。アイは泣かないでくれよ」

「だってパックが他の女と…ふぇ~ん」

「な それは誤解だよ。ダイヤとは何も無いって」

「白状したわね。信じたく無いけどまさかダイヤとだなんて。
確かにあなたがダイヤを落とせば、色々と丸く収まるかもしれないけど、私たちの気持ちは、どうなるか考えたの。」

「いや、だから誤解だって。
ダイヤの体には、手を付けて無いよ。
記憶を探って暗殺者との関係があるかを調べに行ったんだよ」

「上手い言い逃れね。だったらなんで、魔力を消したりしたのよ
私たちがわからないようにしたんでしょ」

「えっ それってさ、常に君たちはぼくの所在をチェックしてるってことなの」

「当然よ」「当然です」「あたりまえ」

パックは、背筋が寒くなった。自分は、一生この監視網からは逃れられないと悟った瞬間だった。

〈それじゃあ、3人と魔力を同調するから、ぼくの記憶を好きなだけ探ってくれ。〉

パックは開き直って、全てをさらけ出す覚悟をして、三人に念話を送った。

シンディが
〈本当に調べに行っただけなんだ〉

アイは
〈そこまでしといて交尾しなかったのね〉

そう念話を返してきた。

ふとパックがパールを見ると
パールは目に涙を溜めていた。

こんどはなんなんだろう。
またまた女の涙に困惑するパックだった。

「パール、ぼくが悪かったのなら謝るから、泣かないでよ」

「ううん、パックのせいじゃないの。疑ってごめんなさい。」

「じゃあどうして」

「幼い頃を思い出したのよ。
ダイヤのことを大好きだった頃のことをね。
ダイヤの記憶の中にも、小さかった頃私と一緒に遊んだことが残っていると思ったら、涙が出てきちゃった。」

「お互いに、許し合いたいと思いながら、反目しているんだね。」

「あ~あ なんか疲れちゃった。部屋に戻って寝るわ。」

パールは、それ以上何も言わずに部屋から出て行った。

〈気疲れしたのは、ぼくの方だよ〉
パックは、その言葉を飲み込んでパールを見送った。

「私たちも自分の部屋に戻るわよ」

シンディがアイに声をかけると

「交尾がまだ終わってないのに」

アイは抗議する目で、シンディを見た。

「アイ、ゴメンよ、ぼくも今日は疲れてるから。」

「『タマゴ』食べれば、パック元気になる」

「うっ そうだけど、精神的疲労は、『タマゴ』じゃ取れないんだよ。だから今日は、お休みね。」

「アイ、今夜は諦めましょうね」

アイはシンディに引っ張られて部屋から出て行った。

ようやく静かになった部屋だったが、パックはなかなか寝付けなかった。

パールの涙を見て、二人が仲直りする方法が何か無いかとあれこれ考えを巡らせていた。








〈パック まだ起きてる〉

パールが念話で話しかけてきた。

〈ああ うん起きてるよ。疲れてるのに、なかなか寝付けなくてね〉

〈今日は、ゴメンね疑って〉

〈ああ、もういいよ、気にしなくて。
ぼくが先にダイヤを調べに行くって伝えておけばよかったんだよ。〉

〈これからのことなんだけど、イザベラの記憶も探ってくれないかしら〉

〈そうだね。ダイヤへの疑いが晴れた以上、次に黒幕の可能性が高いのはイザベラ妃だよね。〉


こうして次のターゲットが決まり二人の念話も終了して、パックは眠りについた。





翌日朝食後に、作戦会議でパックの部屋に集まることにした。
但しパールだけは、戴冠式に向けての準備に追われて、念話での参加となった。

前回同様、部屋に防音を施し会議が始まった。

「パック、またお前一人で行くつもりなのか。
少しは俺たちにも頼れよ。」

「でも『隠密』持ってるの、ぼくだけだし」

「あの『天の黒刃』のもやの首領がガードしてるかも知れないわ。シンディはどう思う。」

「私も一人で行かせるのは心配。ダイヤだって何かされたのは気付いてるでしょ。
イザベラ妃の警戒が強まったと考えるのが自然よ。」

その時部屋の入口からドスンと振動が伝わってきた。

部屋の防音を解いてドアに行くと、何かがドアを塞ぐように置いてあってドアが開かない。

「わたしに任せて」

アイがドアの下の隙間に鉄糸を送り込んで、ソレをどかした。

ドアを開けて目に入ってきたのは

「夜鴉!」

夜鴉は既に脈も無くその遺体には、「イザベラ妃には手を出すな」と貼り紙があった。

「一体誰がこんなことを」

「私たちのでかたは、お見通しだと言いたいんでしょ」

「誰に殺られたんだろう」

「アイ 夜鴉食べれば、夜鴉の記憶アイのものになる。脳が傷んで無ければ詳しく見れる。」

「アイ やってくれ。
今大事な手がかりは、夜鴉の記憶だけだから。
でも、ぼくらは、ちょっと人を食べる様を見るのは抵抗があるから、一度繭玉に包んでからにしてくれるかい」

「わかった」

アイは夜鴉を繭玉に包んで、部屋の中に入れて食べ始めた。

メーリールーが廊下の血痕をクリーン魔法で綺麗にした。

パックは、アイが食べ終わる間にそこまでの会議の経緯をパールに念話で送った。

アイが読み取った夜鴉の記憶では、夜鴉を殺したのはきりの首領だった。
パールの監視役の失敗と、パックの眷属になったことは、やはり許されることでは無かったようだ。

〈イザベラの調査はまた後にして、霧の首領に会おう。
誰がこの貼り紙を書いて、ぼくの部屋の前に夜鴉を運んだのかを調べるのが先だよね〉

アイによって、霧の首領の顔や魔力の波長は、掴めた。
どうやって夜鴉を仕留めたのかも大体理解できた。
その時の状況はこうだ。
夜鴉の目の前に居たはずの首領が気付いた時には、背後に居て背中から刺されたのだった。

「こりゃ、避けられないな。強敵だよ。」
ミューラーは、後ろを振り返るアクションをしている。

「私はこの一瞬で背後に移動したのは、パールの『瞬足』とも違う能力の気がするわ」

メーリールーが、見解を言うとシンディが同調した。

「たぶん、高速で移動したんじゃ無くて、一瞬で別の場所に移動する『転移』じゃないかな。」

するといつもは話の蚊帳の外のアイが珍しく発言した。

「あの程度の魔力もあまり乗ってない突き。ぼくの皮膚を傷つけるのが精いっぱい。
自分の背中にトラップ仕掛ければ捕まえるのも簡単」

やはりアイは、魔人なんだなぁ
~とパックは改めて感じた。
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