水の申し子は無双したい訳じゃない

烏帽子 博

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ep2

やっぱり

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この日アクアたちは、ムルムルの街で一番高級な宿「いで湯の舘、龍姫の湯」に泊まることにした。

部屋に入って少しくつろいだタイミングで女将のタツさんが来て、とうとうと、宿の由来を語ってくれた。

「龍の娘が、人間に興味を持って人に変身して、人里に降りてきたそうよ。
身寄りがない娘は、村人からしばらくよそ者として敬遠されていたの。
それでも娘は、それにめげずに、大変な働き者だったのよ。
水汲みや、開墾など他の女が嫌がってやらない力仕事も厭わずやっていたのよ。
娘の変身は、完璧じゃあなくて、頬に数枚のウロコも残っていたの。
村娘たちは、よく働く女を『ウロコ女』と毛嫌いしてバカにしていたの。
それでも村の男たちは、よく働く娘を嫁にしたいと言いだす者が多かったの。
村娘たちは、娘に焼きもちを焼いて、娘を毒殺しようとしたの。
娘は龍なだけに、死ぬことは無かったけど、苦しみながら何日も伏せっていたの。
娘の快癒を願って、一人の若者が毎日龍神の祠に通っていた。
そんなある日の夜、若者の夢に龍神が現れて、祠の裏山に連れて行かれたの、すると湯がこんこんと湧き出る所について『この湯を龍姫に飲ませよ、さすれはじきに元気になろう』と告げたそうよ。
若者は早速祠の裏山に行くと、夢で見た通りの場所に、湯が、湧き出ているのを見つけたのよ。
若者は、この湯を竹筒に入れて持ち帰り娘に飲ませたの。
娘はたちどころに元気になったけど、そのまま姿を消して、それ以来若者の前には表れなかったそうよ。
若者は裏山から湯をひいて、湯治場を作ったの。
これが龍姫の湯の由来よ」

「女将さん、何で龍姫は若者に会いに来なかったの」

アクアが真剣な眼差しで、女将に聞いた
すると女将は

「あなたは、なぜ会いに来なかっんだと思うの。
答えは本人の龍姫にしか言えないわ。
龍姫に会えたら聞いてみたら。」

「わかった、龍姫に会いに行くわ」

シェリーは「龍姫伝説」は、女将の作り話だとわかっていたが、アクアにそれを言うのをためらった。

翌日案の定「龍姫を探しに行く」と言ってアクアがきかないので、ミルドとロキシーとは、別行動となった。

まず旅館の風呂の温泉成分をシェリーは、解析した。
そして、次に祠を探しに二人で行った。

アクアと二人で入念に祠を調べた。
アクアは、祠に残る魔力の後を探し、シェリーは解析を行った。

次に源泉の湧き出てくる場所に向かった。
源泉の成分は、ほぼ宿の風呂と同じだった。
アクアは、源泉からは魔力を感じ無いと言った。

水のベールで裏山を飛び回りながら探知を使って調べたが、アクアのセンサーにかかるような魔力反応は無かった。

二人が、帰ろうとした時に年配の男性が祠へとやって来た。
男性が、祠の掃除を始めようとしてる所に

「おじいさ~~ん」

空からアクアとシェリーが舞い降りた。

「あわわわわ 天女様
お願いじゃ。わしゃもう少しでええから現世に居させてもらえんかのう。」

「お爺さん、大丈夫よ。天からのお迎えじゃないわ。
空も飛べるスキルを持った冒険者なの。おどかせてごめんなさい。」
シェリーに続いてアクアも頭を下げた。

「お爺さんは、いつもここのお掃除をしているの」

「天女のお嬢さんは、本当に美しいのう。
そうじゃよ、湯が枯れたりせんよう、お客さんの旅の無事を願って掃除をして、祀るのじゃよ。
あんたらうちの、龍姫の湯のお客さんじゃろ。
時々居るんじゃ、龍姫伝説を聞いてここに来られる方がな。」

「龍姫は、何で二度と若者に会いに来なかったの。」

「ああ、それかぁ
本当のことは夢の無い話になるがの
姉さん、この娘に話してもええじゃろか」

「はい、私も聞きたいです」

シェリーがそう答えると、お爺さんは、掃除の手を止めて、そばの切株に座って、ぽつりぽつりと話し始めた。

「わしの名は炭五郎と言ってな、わしの四代前、つまりわしのひいひい爺さんの炭一郎が、龍姫伝説に出てくる若者なんじゃ。
顔にウロコがある龍姫と言うのは嘘じゃ。本当は素性のわからん流れ者で顔に傷のある女だったんじゃ。
じゃが、その女が働き者だったのは本当じゃ
真面目に一生懸命働く女の姿に炭一郎はほだされたんじゃろう。
二人は次第に仲良くなったんじゃ。
ところが炭一郎の幼馴染のミツコは、女がやって来る前から炭一郎に惚れておったんじゃ。
たまたま女が風邪をひいて寝込んだ時に、ミツコの方から夜這いに行ったんじゃ。
炭一郎は、若かった。欲するままにミツコを抱いたんじゃ
するとミツコは、『炭一郎は私の初めてを奪った人、私を嫁にしてくれなかったら、私は死ぬ』と炭一郎を脅したんじゃ。
病気が治って、炭一郎が結婚することを聞いた女は、どこかに姿を消したんじゃ。
これがことの真相じゃよ
ハッハッハ。」

「それじゃあ、龍神の夢や温泉を見つける話は?」

「ひいひい婆さんは、やり手でのう、炭一郎の嫁になったのもそうじゃが、商売もうまかったんじゃよ。
ミツコは、たまたまタケノコを採りに入った山で温泉を見つけたんじゃ
それで、先ず炭一郎にこの祠を作らせてから、露天風呂をこしらえたんじゃ。
最初の頃は、病に効くとふれこんでお客を集めたんじゃ。
二代目の炭治郎の嫁のマサミがこれまたやり手でのう、わしの曾祖母さんじゃが、女の客を呼ぶには恋の話がいいと思ったそうじゃ。
炭一郎と顔に傷のある女の話を盛りに盛って『龍姫伝説』を作りあげたんじゃ。
おかげて、宿は繁盛して、街一番の宿になったのじゃよ。」

「へー 作り話だったんだ。
龍姫探して、いっぱい飛び回ったのに~」

「アクア、抑えて。怒らないのよ。本当のことが知れてよかったじゃない。
炭五郎さんに感謝しなきゃね」

こうして二人は、宿に戻り事の顛末をミルドとロキシーに話した。

「まぁよくある話よね。」
「そうだな、伝説とか恋物語は、大体作り話だな」


後に「龍姫伝説」に天女の話が追加されたのは、この時はまだ誰も知らない。







「ちょっと相談したいことがあるんだけど、今いいかしら」

ロキシーが切り出した。

「ミルドとも話したんだけど、ムルムルの街近辺のダンジョンは、もう全部クリアしたわよね。
それで、このままじゃあ進歩が無い気がするし、モチベーションが下がってると思うの。
それで、拠点を王都に移して、もっとハイレベルな所を攻略したいと思うの。
どうかな。シェリーとアクアも一緒に王都へ行かない」

「アクア、あなたはどうしたいの?」

「私がここに居たいって言ったらシェリーも残ってくれる。」

「ええ、そうよ。心配しなくていいわ。私はアクアと一緒よ。」

「もし、私がいなかったら、王都に行ってた?」

シェリーは、アクアを抱き寄せて

「アクア、こどもが余計な心配はしないのよ。
もし、アクアと会ってなかったら、今も冒険者ギルドで受付の仕事をしてたでしょうね。」

アクアは、ロキシーたちの方に向き直り

「ロキシー・ミルド誘ってくれてありがとう。
でも、私はやっぱり王都には今はまだ行かないわ。」

「『今は』ってことは、いつか来るのよね。その時を楽しみに待ってるわ」

「そうだよ、アクアもシェリーも離れててもあたしたち仲間だからな。」

ミルドが握手を求めて手を出したが、アクアは、その胸に飛び込んでいった。
ロキシーもシェリーもそこに加わり4人でしばらく抱き合った。







翌朝早くに、ロキシーとミルドは、王都へと旅立って行った。


「ねぇアクア、どうして王都には行きたくなかったの?
よかったら教えてくれない」

「なんでみんなランクやレベルを上げたがるの。
どうして、強い魔物と戦いたがるの。
ここのダンジョンだって、『龍姫の湯』に泊まれるし、美味しいご飯だって食べれるわ。」

「私たちは『冒険者』よね。
魔物を狩って、お金を稼ぐだけなら『魔物ハンター』って言えばいいでしょ。
より強い相手やダンジョンの奥に眠る宝箱を求めて生きる人だから『冒険者』と呼ばれるんだと思うわ。」

「でも、ムルムルの街の冒険者ギルドでも、自分より弱い魔物としか戦わない冒険者もいるわよね。」

「そうね、そんな人でも、戦っていくうちに、だんだんとレベルアップするのよ。
そしたら、もう少し上のレベルと戦いだすのよ。
その方が実入りも良くなるからね。
私はそういう人でも、冒険者だと思うわ。
彼らだって、怪我をすることも有れば、死の危険もあるのよ。
冒険者に絶対の安全は無いの。」

「シェリー
私 前世のこと 久しぶりに思いだしたわ。」

「えっ どういうこと?」

「私会社に入って事務の仕事してたの。毎日同じ時間に起きて、同じ電車に乗って、同じ仕事をするのよ。月末にちょっと残業することもあったけど、それ以外は毎日同じ繰り返し。
ちゃんとお給料ももらえたから、衣食住に困ることはなかっわ。
私このまま1人で、おばあちゃんになるのかと思ったら、急に怖くなったの。
たまたまネットで見つけた豪華客船の仕事が、凄く魅力的に思えて、勢いで応募したの。
私にとって生まれて初めての冒険にワクワクしたのよ。
でも、結局シェリーに前に話した通り、呆気なく死んじゃったわ。どうすれば、よかったのかなぁって。」

「アクア いやマリかしら
人生2択と思い込んでない。
事務員か豪華客船かなんて、どっちもやめちゃえばよかったんじゃない。
あなたの前世の世界でも、女性ができる仕事は他にも沢山あったんじゃない。
その沢山の選択肢に気づかなかったのが、前世のあなたよ。」



「あ~~~ そうよ。


シェリーの言う通りね。
私は気づかなかったわ。


あの時の私には2択しかなかったの。
今となっては遅いけどね。



それでも、ありがとうシェリー
胸のつかえが取れたわ



これでマリから卒業出来そうよ。」


アクアは、ぽつ ぽつ っと
途切れ途切れに確認しながら話をした。

シェリーは、アクアが王都行に踏め出せない理由が何となくわかった気がした。

〈第三の選択肢が有るといいねアクア〉


♧♢♡♤♧♢♡♤

変わらないことも、変わることも勇気が入りますね。
この先アクアにはダラダラとした日常が………ではありませんので、この先もお楽しみに。

皆様の応援に感謝してます。
これからもよろしくお願いします。
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