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ep2

非日常へ

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アクアとシェリーは、ムルムルの街近辺のダンジョンをルーティンで回ったり、時には低ランクの依頼を受けたりして、日々を過ごしていた。

魔物との戦いは、もっぱらシェリーが余裕で片づけてしまう。
アクアは水のベールに乗って見ているだけで、事が済んでいった。



ミルドとロキシーと分かれて一年ほどがたったある日、アクアたちはランチに『かあちゃんの店』を訪れていた。


「よう 久しぶり。
アクアじゃないか。元気にしてるか?」

アサリが声をかけてきた。
アサリは、少し背が伸びたみたいで少し逞しく思えた。

「元気よ、ほら」

アクアは、冒険者カードをチラつかせた。

「Sランクかよ、初めて見たよ、さすが天女だな。
それがなんで、こんな田舎町でウロウロしているんだ。」

「別にどこに居ようと、私の勝手でしょう。
ここが好きなのよ。」

「へぇー、こんな田舎のどこがいいのかねぇ~
俺なら都会に行くなぁ」

「アサリ、あなたはまだ冒険者にならないの」

「それこそ俺の勝手だろ。
まぁ今は漁師が楽しいからな。
アクアが教えてくれた素潜り漁でそこそこ儲けもあるしな。」

そこへジンベエさんがやって来て

「おおー アクア様にシェリーさん久しぶりでございます。
オラたち親子、アクア様のお蔭で暮らしが楽になりました。
ありがとうございます。」

「ジンベエさん、そんな大したことしてないわよ。わたし。」

「とにかく、今日はわしらに飯を奢らせてください。
わしらが獲ったもんを出してもらいますから。」

ジンベエが女将のマーサに頼んでくれたお蔭で、思いもよらない贅沢なランチとなった。


「アクア、ランチだけど、お酒飲んでもいいかなぁ。
こんな贅沢なおかずを前にして、お酒抜きは、蛇の生殺しよ」

「どうぞどうぞ、今日は、ここに泊めてもらいましょうか?」

「やった~ 腰据えて呑みましょう。ねっジンベエさん。」

「シェリーさん、酒豪じゃな。
わしもキャロラインとよく飲んだんだ。
あ~~キャロライン。なんで早死にしたんだよ~~」

どうやら、ジンベエさんは、泣き上戸のようだ。

料理は、シンプルだがどれも美味しかった。
さすが高級食材だ。
ウニにアワビに伊勢海老、鯛は塩焼きにしゃぶしゃぶだ~

ヨッパライの二人をよそに、アクアは、アサリと話をしていた。

「アサリ、あなた、冒険者にならないなら、宿屋をやれば」

「なにを突拍子も無いことを言い出すんだよ。」

「だって、この美味しい魚や貝で、喜ばない人はいないわ。
あなたの所に行けば、これが格安で食べられるとなれば、お客さん呼べるんじゃない」

「誰が客の相手をするんだ
親父と俺は漁に出てるんだぞ。」

「私とシェリーが居るわ。
軌道に乗ったら、人を雇うか奴隷を買えばいいんじゃない。」

「そんな、アクアの勝手でシェリーを巻き込んだら悪いだろう。」

「どうかな。シェリーとあなたのお父さん、いい感じよ」



「だからね、ジンベエさん
魔法は、イメージなのよ
アクアのお蔭で、私スキル『解析』が手に入って、それでわかったのよ。
『ファイアーランス』ってどういう風に撃つのかとかがね。
そしたらイメージがちゃんとできることが大事だってわかったのよ。
イメージさえできたら、属性に関係無くできるのよ」

「なるほどのう。わしもイメージしとるぞ。
今魚がエサに食いつこうとしてるとかな。
ちょっとした感覚なんだがな。
それで誘うようにしてやるんだ。
すると一瞬パクッて食い付いてすぐ離すやつもいるんだ。
そこで合わすと、逃げて行っちまうんだ。
魚が、もう一度食い付くのをイメージして待つんだ。
すると、今度は、強めのアタリがくるってわけよ。
だけどな、軽いアタリだけで逃げてくやつもいるんだ。
だから、どんなやつがわしのエサに来てるのか、イメージするのが大切なんだ」

「へぇー、イメージするのって大切ね。
どう、もう一杯」

「シェリーさんも、呑むじゃろ
トコトン付き合うぞ」

「ウフフ ジンベエさん面白~い」





「この分じゃ、二日酔いだな親父は」

「シェリーもそうよ。でもシェリーは『ヒール』が有るから、目が覚めさえすれば、復活するわ」

「二日酔いに回復魔法か。贅沢だなぁ」

「ジンベエさんにもシェリーは『ヒール』してあげると思うわよ。もちろん無償でね」




アクアが朝シェリーを起こすが、シェリーは中々起きない。

「アクア~~
気持ち悪いよ~ 頭痛いよ~
私の中のアルコール、抜いて~」

「シェリー 自分でヒールすればぁ。」

「ヒールじゃアルコールは消えないのよ。」

「手のかかる大人ね。
はい、これでOK やったわよ。」

「ヒール」

青白かったシェリーの顔色にみるみる血の気がさしてきた。

「アクア。ありがとね。
もう絶好調になったわ。」

「ジンベエさんは、まだ絶不調かもね」

二人が食堂に行くと、ジンベエ親子が既に席に着いていた。

「親父、少しはなんか食ったほうが、いいんじゃないか」

「いいんだ。水だ。水をくれ。」

「シェリー、やっぱり私たちの出番ね。私が先にアルコールを抜けばいいのよね。」

アクアは、そう言ってジンベエの肩をポンとたたいて。

「おはようございます。ジンベエさんアサリ」

「あっ あれっ アクア様シェリーさんおはようございます。」

アルコールが残っていて真っ赤だった顔色が普通になっている。

「おはようございます。ジンベエさん。昨日は楽しかったわ。
これは、お礼よ。『ヒール』」

「んあっ シェリーさん。済まない。
ああそう言えば昔キャロ…」

「親父待った!
もう思い出で朝っぱらから、ジメっぽくなるなよ。
シェリーさんありがとう。こんな親父で済まないな。」

「いえ、そんな。素敵なお父さんですよジンベエさんは。」

なぜか、シェリーの顔があかくなっていた。

「アクアとシェリーのお蔭で親父が正気に戻った所で、アクアから提案があるそうだ。
親父聞いてやってくれよ。」

「ん アクア様からの提案!
当然イエスだ。」

「おい親父! 話くらい聞けよ」

アクアは、先ずシェリーに向き合って
「シェリーに、先ず相談するべきことなんだけど、この際だからいいます。」

「ジンベエさんたちが海で獲ったお魚とかを、あのビーチサイドで出してくれる宿があったら、素晴らしいだろうと思ったの。
そうすれば、二人がわざわざムルムルの街迄くる必要が無くなるし、お客さんは、鮮度のいい魚が食べられる。
中間マージンもかからないから収入も増えるはずよ。
それで、私とシェリーが軌道に乗るまで手伝えば、実現可能だと思ったの」

「アクア、冒険者辞める気?」

「ううん、辞めるつもりは無いわ。軍資金集めもあるし、シェリーにスキル『解析』の力で手に入れて欲しい能力もあるしね。
それには、冒険者のままでいないとならないでしょ。
そうだ、シェリー。ロキシーの『クリメイション』はコピー出来てる?」

「えっ インディー迷宮のボスにやったあれ?」

「うんそうよ。2回目のときには見てたでしょ。」

「見てたけど、コピーは出来て無いわ。」


その時おずおずとジンベエが

「結局、宿の話はどうなったんでしょう。おらは何すればええでしょう。」

「宿、やりますよー」
「やるわ、面白そうじゃない」

「親父は、今まで通り漁師してりぁいいと思うぞ。」

「私たちも忙しくなるわね。」

「そうよアクア、やっぱり目標が有ると、やる気も違うわね。
最初は、宿の建築よね」

「ううん、それよりも先にやっておきたいことがあるの。」


♤♡♢♧♤♡♢♧

スポーツとかで、実力が余りにかけ離れてる相手とやるのは、楽しくないですよね。
ダンジョン攻略も、簡単になってしまったら、退屈かも。
目標やライバルそして新鮮な体験を求めたくなるのはどうしてでしょうね。


皆様 応援ありがとうございます。
感謝してます。

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