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「姉のサッカー魂」
しおりを挟む隆司が姉・美咲として会社に行く準備を終えた後、美咲がふと思い出したように口を開いた。
「そうだ、言い忘れてたけど、今日の夕方に会社の女子サッカーチームの練習があるのよ。私、メンバーだから行かなきゃならないわ」
「えっ、サッカー!? 俺、サッカーなんて全然やったことないんだけど…」
驚いた隆司はすぐに反論したが、美咲は首を振りながら笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。私がちゃんと教えるから。それに、私は高校時代、ずっとサッカー部で鍛えられてたの。だから、その体にはしっかり筋肉がついてるし、走り方やキックの仕方も簡単に説明すればできるはずよ」
隆司は一瞬、言葉を失った。姉が昔、女子サッカー部で活躍していたのは知っていたが、そんなに本格的にやっていたとは思っていなかった。
「そ、そうなのか…でも、俺の体っていうか…姉ちゃんの体で動くのは、やっぱり慣れてないから不安だな…」
美咲は頷きながら、少し真剣な表情になった。
「確かにね。でも、サッカーは頭で考えすぎず、体で覚えるスポーツだから。まずは基本の動きを教えてあげるわ。ちょっと庭に出ましょう」
***
庭に出た隆司は、サッカーの練習なんて初めてのことに少し緊張しながらも、姉の指示に従ってウォーミングアップを始めた。美咲は自身の経験を生かしながら、優しくしかし的確に指導していく。
「まず、基本は走り方よ。足の筋肉をしっかり使って、力強く地面を蹴ること。体が勝手に動くように慣れてくるから。私の体はサッカーに適した筋肉がついてるから、ちゃんと使えば大丈夫!」
美咲は自分の体で軽くランニングをしながら、お手本を見せた。隆司も彼女の動きを真似して走り始めたが、初めて体験する美咲の体の軽やかさに驚かされた。
「うわ、軽いな…姉ちゃん、こんなに速く走れるんだ」
「そうよ! 私の体はスポーツ向きだから、しっかり活かしてね」
次に、美咲は基本的なパスの練習に移った。彼女はボールを足元に置き、優雅な動きでパスを出す。
「ボールを蹴るときは、インサイドキックを使って、しっかり足の内側でボールを押し出す感じ。力任せじゃなくて、コントロールが大事なの」
隆司も真似して蹴ってみたが、最初はボールが思った方向に飛ばず、何度も失敗してしまった。
「難しいな…」
「最初はそう感じるけど、慣れれば自然にできるようになるわ。ほら、もう一回!」
美咲の体で蹴る感覚に少しずつ慣れてきた隆司は、何度も練習を繰り返すうちに、次第にボールのコントロールが向上していくのを感じた。
「お、なんか少しできてきたかも!」
「いい感じよ! その調子で、今日の練習に挑めば問題ないわ」
***
夕方、隆司は会社の女子サッカーチームの練習に参加することになった。美咲として、見た目も完璧に仕上がった彼は、チームのメンバーに挨拶をしながらフィールドに立った。
「美咲、今日はいつもより調子よさそうね!」
チームメイトたちは、いつも頼れる美咲の姿を見て微笑んでいた。隆司は少し緊張していたが、姉の指導のおかげで何とかパス練習やシュート練習をこなすことができた。
練習が終わった後、チームメイトから「今日のプレー、なかなか良かったわね!」と褒められ、隆司は心の中でほっと胸をなでおろした。
「ふぅ…なんとかやり遂げた…」
家に帰ると、入れ替わったままの美咲が笑顔で出迎えた。
「やったじゃない! どうだった、私の体でサッカーするの?」
隆司は疲れた顔をしながらも、微笑んで答えた。
「思ったより楽しかったよ。姉ちゃん、すごいな。サッカーってこんなに難しいんだなって初めてわかったよ」
美咲は頷きながら、満足げな表情を浮かべた。
「そうでしょ? お互いの世界を少しずつ知っていくのも悪くないわね」
その言葉に、隆司は同意しながら、次こそは元の体に戻れることを願った。
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