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姉の才能
しおりを挟む次の日の朝、再び入れ替わったままの二人はそれぞれの生活に戻る準備をしていた。美咲は弟・隆司の体にすっかり慣れてきた様子で、学校に行く準備をしながら少し楽しげに見えた。
「ねえ、隆司。今日は体育の授業でサッカーがあるんだけど、私が代わりにやっても問題ないでしょ?」
「えっ? サッカーか…俺、そんなに上手くないから、体育の授業ではいつも目立たないんだけど…」
隆司は少し不安げに言ったが、美咲は自信に満ちた表情で答えた。
「心配しないで。私、女子サッカー部でずっと鍛えてたから、任せておいて。今日はちょっと本気を出してみるわ!」
「え、ちょっと待ってよ…!」
そう言いながらも、隆司は姉が何か大きなことをやらかしそうだと感じながらも、彼女を止めることはできなかった。
***
美咲は高校のグラウンドに立ち、弟の体でサッカーの授業に参加する準備をしていた。男子生徒たちはすでにボールを蹴りながら遊んでおり、クラスメイトたちも和気あいあいとした雰囲気だった。
「今日はサッカーか。まあ、適当にやるか」
クラスメイトの一人がそう呟きながら、ボールを蹴りだした。だが、美咲は違った。彼女はサッカーに真剣だった。隆司の体は普段はそれほど運動していないが、美咲は自分のサッカー技術に絶対的な自信を持っていた。
「よし、ちょっと弟の体で試してみようかしら…」
試合が始まると、美咲は最初こそ様子を見ていたが、すぐにボールが回ってきた。その瞬間、彼女の中のサッカー魂が目を覚まし、一気にスピードを上げてボールを追いかけた。
「速い…!」
周りのクラスメイトたちは驚いた。普段、特に目立たない存在だった「隆司」が突然、爆発的なスピードで走り出し、華麗にドリブルを始めたのだ。まるでプロの選手のようなステップで相手を次々と抜き去り、ゴール前に迫る。
「おい、なんだよあれ! 隆司、急にどうしちゃったんだ!?」
男子生徒たちは口をポカンと開けながら、そのプレーを見守っていた。だが、美咲にとっては当たり前のことだった。彼女の体ではなくても、サッカーのテクニックはしっかりと活かされていた。
「これが本当のサッカーよ!」
美咲は最後にシュートを放つと、ボールは見事にゴールネットを揺らした。完璧なフォームと力強いシュートだった。
「ナイスゴール! すげえ!」
クラスメイトたちは驚嘆し、拍手を送った。普段は大人しい隆司が、こんなにサッカーが上手いとは誰も想像していなかった。
***
その後も、美咲はフィールドで大活躍を続けた。パスの正確さ、ドリブルのキレ、そして判断力すべてが一級品だった。彼女はまるで男子の中に混じっても引けを取らないどころか、むしろ圧倒的な存在感を示していた。
授業が終わった後、クラスの中で「今日は隆司がすごかったな!」という話題で持ちきりだった。
「お前、なんでそんなにサッカーが上手いんだよ? 今まで隠してたのか?」
「え、いや…なんとなく、今日は調子が良かっただけかも」
美咲は笑いながらごまかそうとしたが、そこに体育教師が近づいてきた。彼の表情は真剣そのものだった。
「隆司、ちょっと話があるんだが、いいか?」
「え…はい?」
「実は、今日のプレーを見て思ったんだが、君、相当な才能がある。うちの学校のサッカー部に興味はないか? もしよければ、今からでも部に入って、ぜひ試合に出てほしいと思ってるんだ」
美咲は一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。自分が男子サッカー部に誘われるというのは、少し面白い状況だった。
「えっと…考えてみます」
教師は嬉しそうに頷いた。
「是非、前向きに検討してくれ。君のような選手が入ってくれれば、チームもかなり強くなるはずだからな」
***
その日の放課後、美咲は家に帰り、入れ替わったままの弟・隆司に今日の出来事を話した。
「聞いてよ、隆司。今日の体育の授業でサッカーをやったんだけど、私、男子サッカー部にスカウトされたの!」
「えっ!? マジで!?」
隆司は驚きの声を上げた。自分の体がそんなことになるとは思っていなかったのだ。
「でも、私が入っても意味ないし、どうしようかしらね。あなたが戻ったら、きっと練習についていくのも大変だろうし…」
隆司は頭を抱えたが、同時に姉の実力に改めて感心していた。
「姉ちゃん、本当にサッカー上手いんだな…。でも、俺がサッカー部に入るってことになったら、大変だぞ」
美咲は肩をすくめながら笑った。
「まぁ、入れ替わりが解決するまでのことよ。でも、もしまた入れ替わったら、サッカー部で活躍できるかもしれないわね」
隆司は苦笑しながらも、姉が体を借りてサッカーで大活躍したことを少し誇らしく感じた。
「まぁ…とりあえず、今はどうなるかわからないけど、次に入れ替わった時に考えようか」
こうして、美咲がサッカー部にスカウトされた日が終わった。二人は次に何が起こるのか、少しだけ期待と不安を抱えながら、それぞれの生活に戻っていった。
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