カオルとカオリ

廣瀬純七

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三人の未来

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月曜日の放課後、校舎裏のベンチ。春の陽射しの残る柔らかな風が吹き抜ける中、香織は、制服の袖をくるくると巻きながら、目を輝かせて咲良に話しかけていた。

「ねえねえ、昨日の“薫のデート”、どうだった?」

咲良はジュースを一口飲みながら、くすっと笑う。

「なんで私に聞くのよ。演じてたのはそっちでしょ?」

香織はうれしそうに足をぶらぶらさせながら、机に両肘をついて言った。

「いやー、めちゃくちゃ楽しかったよ! 最初ちょっとドキドキしてたけど、途中から“俺、香織じゃない。薫だ”って思い込んだら不思議と自然に振る舞えてさ!」

咲良が茶化すように言った。

「うん、なんかね、駅で会った瞬間から雰囲気違ったよ。“男の子の顔”してた。ちょっとキュンとしたし」

「え、マジで? やったー!」
香織はパァっと顔を輝かせ、手のひらでぱちんと自分の頬を叩いた。

「でもさ、咲良が映画館で私の腕をぎゅっと掴んだ時、本当に心臓バクバクだったんだから!」

「えー、それこっちのセリフだよ。いつもの香織じゃなくて、どこか落ち着いてて頼れる感じでさ……“薫”だったもん」

香織はちょっと照れながら、机に突っ伏して顔を隠した。

「ねえ……私、ちょっと自信ついたかも。演技っていうより、なんか本当に“人の気持ちになってみる”ってことが少しわかった気がするんだよね」

咲良は頷いた。

「たしかに、私も香織と過ごして、薫のことをもう少し理解できた気がする。香織が“薫を演じる”ことで、薫が普段どう人と接してるのかとか、どう感じてるのか、すごく伝わってきた」

香織は、少し間を置いてから、真剣な顔で言った。

「咲良……ありがとうね。付き合ってくれて。私ね、昨日の夜、ふと思ったの。“三人で、これからどんな風に生きていくのか”って、まだまだ先が楽しみだなって」

「うん、私もそう思ってた」

沈みかけた夕日が、二人の横顔をやさしく染めていく。

「じゃあ次は、“香織”と“薫”が同時に存在する舞台でもやってみる? 私たちで本当に“ドラマ第2章”つくっちゃう?」

香織はにっと笑って、立ち上がりながら言った。

「よし、それ、採用! 台本は私が書くから、覚悟してね!」

咲良も立ち上がり、香織の隣に並ぶ。

「じゃあ私、演出ね。タイトルは……“香織は薫で、薫は香織だった!?”とか?」

「なにそれ、韓ドラみたい! でも……悪くないかも!」

「おいおい、お前たち俺の体で遊ぶなよ!」

三人の笑い声が夕暮れに響き、放課後の静かな風景の中で、未来への物語がまたひとつ、始まろうとしていた。

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