カオルとカオリ

廣瀬純七

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どっちが大変?

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放課後の教室。もう誰もいない、夕陽が差し込む静かな時間。

机に頬杖をついた香織が、窓の外に目をやりながらぽつりとつぶやいた。

「ねえ、薫。私が“薫”を演じるのと、薫が“私”を演じるのって……どっちが大変だった?」

薫の声が、頭の中で静かに返ってくる。

『うーん……そりゃあ……』

一瞬、考え込むような沈黙。

そして、ふっと笑うような声で言った。

『どっちも大変だよ』

香織はくすっと笑って振り返った。

「正直ね、男子のふりするのって意外と難しいなって思ったの。歩き方、声のトーン、あと“間の取り方”とか、全然違うんだもん」

『そうかもな。俺も、香織を演じてた時は……ちょっとでも違和感が出ないように、すごく神経使ったよ。笑い方ひとつでも、「あ、今の違う」って咲良に見抜かれそうで』

「うん、わかる~! 咲良、そういうとこ鋭いからね」

香織は自分の手のひらを見つめながら、少しだけ真面目な声になる。

「でもさ……ちょっと嬉しかったんだ。薫が私をちゃんと理解しようとしてくれてたこと。私、そんなにわかりやすい性格じゃないと思ってたから」

薫の声も、少しだけ柔らかくなった。

『香織が俺を演じてくれた時も、そう思ったよ。自分でも気づいてなかった“らしさ”みたいなものを、香織がちゃんと見てくれてたっていうか……だから、ありがとうな』

「ううん、こっちこそ。なんか、二人でお互いを演じ合ったことで……もっとちゃんと、"自分のこと"も見えた気がするんだよね」

教室の隅に差し込んだオレンジ色の光が、ふたりの沈黙をやさしく包み込む。

香織がもう一度、冗談めかして言った。

「じゃあ次は、舞台で入れ替わり劇でもやってみる? 本格的に!」

『それ……もう日常で人生レベルでやってるからな』

「たしかに!」

ふたりの笑い声が、放課後の教室に小さく響いた。

そしてその音は、静かな夕暮れの風とともに、誰もいない廊下へと溶けていった。

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