カオルとカオリ

廣瀬純七

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命名 結音(ゆのん)

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産後の慌ただしさも少し落ち着き、病室にはやわらかな陽が差し込んでいた。

香織はベッドに座り、腕に抱いた赤ちゃんの小さな寝息を感じながら、そっと微笑んだ。
その隣には悟志が椅子に腰かけていて、優しいまなざしでふたりを見守っている。

「ねえ……もうすぐ出生届、出さなきゃなんだって」

「うん、そろそろ名前、決めなきゃね」

香織の声に、悟志がうなずき、そして心の中からもう一人——薫が静かに話しかけてくる。

《あの子の顔を見てると、なんかね……全部が報われた気がする》

香織は心の中でそっと笑った。

「わたしね……“優しい名前”がいいと思うの。あの子がどんな性格になっても、どんな人生を歩んでも……心の根っこに“優しさ”があるような」

「それ、すごくいいと思う。俺も同じ気持ちだった」

悟志がそう言って、香織の手をそっと握る。

香織は赤ちゃんの小さな指をそっと撫でながら、口にした。

「……“結”って字はどうかな。人と人を結ぶ、“結ぶ”の“結”。」

《いい名前だね。君と悟志を繋いだのもこの子だし、僕にとっても……香織と繋いでくれた命だ》

「“ゆい”って読むのも、“ゆう”って読むのも素敵だよね」
「うん。“結菜”とか、“結月”とか……“結音”っていうのもいいな」

三人の心が、まるで自然に重なっていく。

香織が赤ちゃんの頬をそっと撫でながら言った。

「“結音(ゆのん)”……どう? 音に結ばれた命。わたしたち三人の声が届いたみたいな気がするんだ」

悟志がうなずき、そして優しく囁いた。

「“結音”……すごくきれいな名前だ。きっとこの子にぴったりだよ」

《僕も賛成。……ありがとう、香織。こんなにあたたかい名前を選んでくれて》

香織は少し涙ぐんだ目で、赤ちゃんに話しかける。

「結音……ようこそ。わたしたちのところに来てくれて、本当にありがとうね」

生まれたばかりの小さな命は、眠ったまま微かに笑ったように見えた。

まるで、自分の名前を気に入ってくれたかのように——。

そしてその日、病室の窓の外に、淡い春の風がふわりと吹き抜けた。

それはきっと、未来からの祝福だった。

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