架空戦国伝

第７章 天下分け目の大決戦編

14.国米の戦い（６）

鳥居景綱が率いる軍勢を始めとした援軍の攻撃により、志太連合軍はその被害を受け始めていた。
特に祐宗の軍勢に対しての攻撃は激しく、祐藤が下した退却命令を遂行する事が困難となっていた。

そんな矢先に、幕府軍から再び狼煙が上がり始めた。
鮮やかな黄色の狼煙がもくもくと立ち上っている。

祐藤
「何じゃあの狼煙の色は。全く、趣味が悪くて笑えてくるわい。」

祐藤は、幕府軍が上げた黄色の狼煙を見て失笑していた。
空の青に鮮やかな黄色の煙が立ち上る様子は、祐藤の目には滑稽なものに見えていた。

しかし、その余裕そうな祐藤の様子はすぐに一転するのである。
狼煙が上がってしばらくして何やら祐藤の軍勢の周りが騒ぎ始めていた。

祐藤
「何じゃ何じゃ、これは一体何の騒ぎであるか？」

祐藤はその騒々しさに少し慌てた様子であった。
その直後である。
無数の矢が祐藤の軍勢を目掛けて降り注いだのである。

祐藤
「むっ、この攻撃は…まさか…あやつか…」

祐藤は、矢が放たれた方向を向いてそう呟いていた。

その攻撃は祐藤の軍勢の後方、すなわち大月長包の軍勢から仕掛けられたものである事をすぐに理解した。
長包は祐藤の軍勢をじっと見つめていた。

祐藤
「長包よ、一体これはどういうつもりじゃ！答えよ！」

祐藤は長包を睨みつけてそう叫んでいた。

長包
「我ら大月家が生き残る為にはこうするしか無かったのでございます。祐藤殿、御覚悟願います！」

長包は祐藤に対して大声をあげてそう答えていた。

一方その頃、幕府軍の陣では継晴が不気味な笑みを浮かべていた。

継晴
「ほっほっほっ。祐藤殿は家臣と思っておった人間に裏切られてどのようなお気持ちであるかな？」

継晴は意地悪そうな口調であった。

義成
「いやはや、長包殿を我らの策略によってこちら側に引き入れた甲斐がございますな。」

義成は満足気な表情を浮かべていた。

さかのぼる事三か月前、義成は桐丘島の長包の元を訪れていた。
そこで長包に対して幕府に従うつもりは無いか、などと問いかけた。

これに対して長包は、当家が志太家を裏切る事など有り得ない。
など、志太家に対する忠誠を貫き通す姿勢を崩さなかったという。
しかし、義成はそれでも諦めずに来る日も来る日も長包に対して説得を繰り返した。

そんなある日、義成が長包に対して一つの話題を持ちかけた事で事態は急転する。
その話題とは次のようなものである。

もし、志太家が幕府を開く事になれば、前将軍職に就いていた三浦家は邪魔な存在として滅亡させられるであろう。
そうすれば三浦家の縁戚である大月家も例外では無いであろう。
三浦家とその身内の者たちを完全に粛清する事で三浦幕府を完全に消滅させようと祐藤は企んでいる。

志太家による幕府を開く為に尽くすと言う事は、結果的には長包自らが大月家を滅亡に追いやる事を意味する。
そうならない為にも、大月家を脅かす悪しき芽を今のうちに摘んでおくべきでは無いのであろうか。

こうした説得力のある義成の弁舌により、長包の気持ちは揺れ動かされた。

そしてさらに、大月家が幕府に従って志太家を滅ぼす事が出来た暁には、長包を副将軍に任命する事を考えていると伝えた。
副将軍として認められれば大月家は安泰し、大いに栄えるであろう。
結果、これらの事が決め手となり、長包は志太家に対して反旗を翻す機会を伺うようになったという。

そうして迎えた国米での戦い前の軍議。
長包は、今回の戦いで大月家からの出陣を自ら志願した。
祐藤はそれを承諾し、改めて出陣の命令を長包に下した。
こうして大月家は国米の地への出陣する事となった。

この時、祐藤は縁戚である三浦家との直接の戦にならぬように本陣の後方守備を任せたのである。
これは、三浦家と大月家の身内同士による戦いをさせたくなかったが故の祐藤の配慮であったと言われている。
そして、皮肉にも祐藤のこうした配慮によって後に志太軍は結果的に窮地に立たされてしまう事など知る由も無かった。

やがて幕府軍からの黄色い狼煙が上がった。
これは、大月軍による志太軍への攻撃の合図だ。
こうして長包の軍勢は、祐藤のいる本陣を目掛けて総攻撃を仕掛けたのである。

長包
「大月家は三浦将軍家と共に生きる故、志太家には滅んでいただく他に無しかと。」

長包は迷いの無い様子でそう言っていた。