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湖には魔物がすんでいる!?

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 時間は少し遡る。

 ヴィクトールは王都からほしい情報が戻ってくると、外出してくるとスノウに告げた。

 スノウはやや不満そうな顔をしたが、サバンナと一緒に刺繍をする約束をしていたようで、夕方には戻ると告げるとあっさりと頷いた。

 王都からオルフェリウスの手紙を足に括りつけて戻って来た白鳩のクックは、ヴィクトールたちが寝室に使わせてもらっている二階の部屋の窓際で熱心に毛繕いをしている。

(到着は……、今日の昼すぎくらいか)

 ヴィクトールは窓の外に広がる青空を見やった。空のてっぺんに向かって登りはじめた太陽が白く輝いている。

 ヴィクトールは荷物に紛れ込ませていた拳銃に弾を装填そうてんし、懐に忍ばせるとハワード家の別荘を出た。

 目的地に向かう前に、ヴィクトールはまず、フラニール町に立ち寄った。マーシュ・ラッカー刑事に用があったのだ。

 しかし、派出所にたどり着いてみると中から賑やかな声が聞こえてくる。

 何事だろうと中を覗き込んでみると、そこに知った顔があって目を丸くした。

(なるほど……、警部も駆り出されてきたわけだ)

 大方、今回の事件の解決に乗り出さなければ、警察の威信に関わるとかそういう理由であろうが、マーシュ・ラッカーの報告を受けて、警察本部も動いたのだろう。

 遅かれ早かれ警察も動くと踏んでいたが――、今回、ヴィクトールがオルフェリウスに連絡を取ったことで、ズゴッド伯爵という領主の手前、慎重にならざるを得なかったはずの警察も急がざるを得なかったというところか。

 オルフェリウスからも警察へ叱責が飛んでいるだろうことを想像して、ヴィクトールは少しだけルドルフ警部に同情した。

 人柄というのか、ルドルフ警部は警察に上がってくる面倒な事件を押し付けられること多い、少々気の毒な警部なのだ。

 しばらくマーシュとルドルフが言い合うのを見ていたヴィクトールだったが、待っていてもなかなか終わりそうにないと踏むと、適当なところで声をかけることにした。

「すみません」

 ヴィクトールが声をかけると、まず振り返ったマーシュがヴィクトールに気づいて「あ!」と声をあげる。

 続いて「くそ忙しいときに誰だよ――」と振り向いたルドルフが目を丸くした。

帽子屋マッドハッター!」

「お久しぶりですね、警部。ガラクタ盗難事件以来でしょうか?」

「……おい、ガラクタって大声で言うなよ。ガラクタだけども」

 ヴィクトールは苦笑した。

 数か月前、ヴィクトールはルドルフが担当していた事件の手助けをしたのだ。その事件が何というか――、警察署長が収集していた骨董品――何一つ本物のないガラクタの山――が盗難されたという奇妙な事件で、八方ふさがりで頭を抱えていたルドルフに、とある過去の事件の捜査資料の閲覧と交換条件で協力したのである。

 もちろん、過去の捜査資料を外部の人間に見せるのはご法度で――、このことは、ルドルフに決して口外しないようにと釘を刺されていた。

 そのため、ルドルフはヴィクトールの顔を見るたびに、「漏らしてねえだろうな」と不安そうな目を向ける。

「どうしてお前がここにいるんだ!」

「どうしてって、おや、陛下から聞いていませんか?」

「……まさか、『とある情報筋』っていうのは」

「なるほど、そこは言葉を濁されたんですね」

「お前なのか……」

 ルドルフががっくりと肩を落とす。

 その姿を見て、ヴィクトールは飄々と笑った。

「うーん、その反応はなかなか傷つきますよ」

「どの口が言うんだ。で、今度はどんな報酬を要求したんだ。金か、情報か!? 言っておくが、今回俺は何一つ提供しねぇ――」

「大丈夫ですよ。あなた方からは何一つ要求しません」

「『あなた方からは』?」

 ヴィクトールはにっと口の端を持ち上げる。

「今回の交換条件はこうです。――この事件に関して、僕が何をしようと黙認すること」

「――おい」

 何か不穏な空気を察したらしいルドルフの眉間に皺が寄る。

「これは陛下と交わした交換条件です」

「………」

 ルドルフが苦いものでも食べたような顔をする。
 ヴィクトールは苦笑して、マーシュに向きなおった。

「マーシュさん、お願いがってきたのですが」

 突然水を向けられたマーシュは、おろおろとルドルフとヴィクトールを交互に見比べる。

 ルドルフが「ちっ」と舌打ちして、聞いてやれと手を振ると、マーシュはホッとしたようにヴィクトールを見上げた。

「お願いとは、なんでしょうか?」

 ヴィクトールは服の上から、ジャケットの内ポケットに隠し持っている拳銃をおさえると、顔から笑みを消した。

「隣町にある領主――ズゴッド伯爵の邸に案内してください」
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