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世界最強の魔女は普段はポンコツ
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目の前でリスのように左右の頬を膨らませながら、フランシスが持ってきた高級菓子をバクバクと食べている女はアメリアと言うらしい。
足に噛みつかれたから反射的に蹴り飛ばしてしまったが、そのあと、床に這いつくばったまま「おなかすいた」とさめざめと泣くから、魔女への手土産に持ってきていた菓子をわたした。そうしたら目の前でバリバリと包装紙を破って箱を開けると、床に這いつくばったままむしゃむしゃと食べはじめたのだ。
(すげー女……)
年は十六か七くらいだろうか。
小柄で目が大きく、愛らしい顔立ちをしているが――、さすがに床に這いつくばって菓子を食う女はない。ありえない。
とりあえず名前くらいは聞いておこうと訊ねたら女は「アメリア」と簡潔に答えて、再び菓子を口に詰め込みはじめた。
あっという間に菓子の箱を空にすると、口についた菓子屑を手の甲でぬぐって、アメリアはようやく立ち上がった。
「ふー、おなかがすきすぎて死ぬかと思った。助かったわ。ありがとう。つーかあんた誰?」
礼を言うのか怪訝がるのかどっちかにしろよと思ったけど突っ込むのも面倒になって、フランシスは短く名乗る。王子だとは言わなかった。言ったところでこの女が害になるとは思えなかったが、一応だ。変に騒がれたくない。
「あー、アメリア。腹が膨れたんなら教えてくれないか。ここどこ?」
「ここ? あたしんち」
「……そんくらいはさすがにわかるんだが」
「え? じゃあ何が知りたいの?」
それ以外の答えが存在するのかと首をひねるアメリアに頭が痛くなってくる。
「アメリア、この床に描かれているのは魔方陣だよな」
「そうよ」
「するとこの家は魔女か魔法使いの家か?」
「うん。だからあたしんち」
「……アメリアは魔女なのか?」
「うん」
「ちなみにこの魔方陣はどんな効果が?」
「え? 効果? ……さあ?」
「さあ?」
「考えたことないや。強いて言うなら――、全部?」
「全部⁉」
「わかんない。普段ご飯出すくらいにしか使わないから。つーか、ちょっとそこどいて。ご飯食べたい」
アメリアは答えて、それからフランシスを魔方陣の上からどかせた。
「まだ食うのか⁉」
フランシスは唖然としたが、アメリアは魔方陣の上に座って、ぶつぶつと何かをつぶやき――
「まあいいや。とにかく食べ物! それも大量!」
ものすごく適当なことを最後に言ったかと思うと、パンと両手を叩いた。
アメリアの両手の音に反応するように魔方陣が光り出し、天井まで届きそうなほどの食材の山が現れる。
「いやっほー! これでしばらく持ちそうね!」
食材の山を見てるんるんとスキップしはじめたアメリアを見て、フランシスはふと嫌な予感を覚えた。
「あー、アメリア」
「ん?」
「ブルテン山に住む魔女を知らないか?」
まさか、と思う。
だってブルテン山に住む魔女は、すっごい年を取った醜女という噂で、夜な夜な悪魔と取引をして、若い女の血を浴びる化け物みたいな女――らしい。
もちろんそんなことは信じてはいなかったが、フランシスは、ある程度の覚悟はしてきた。
アメリアは食材の山の中からリンゴを一つ取ってかじりつきながら、
「それあたしー」
かるぅーいノリで、そう答えた。
足に噛みつかれたから反射的に蹴り飛ばしてしまったが、そのあと、床に這いつくばったまま「おなかすいた」とさめざめと泣くから、魔女への手土産に持ってきていた菓子をわたした。そうしたら目の前でバリバリと包装紙を破って箱を開けると、床に這いつくばったままむしゃむしゃと食べはじめたのだ。
(すげー女……)
年は十六か七くらいだろうか。
小柄で目が大きく、愛らしい顔立ちをしているが――、さすがに床に這いつくばって菓子を食う女はない。ありえない。
とりあえず名前くらいは聞いておこうと訊ねたら女は「アメリア」と簡潔に答えて、再び菓子を口に詰め込みはじめた。
あっという間に菓子の箱を空にすると、口についた菓子屑を手の甲でぬぐって、アメリアはようやく立ち上がった。
「ふー、おなかがすきすぎて死ぬかと思った。助かったわ。ありがとう。つーかあんた誰?」
礼を言うのか怪訝がるのかどっちかにしろよと思ったけど突っ込むのも面倒になって、フランシスは短く名乗る。王子だとは言わなかった。言ったところでこの女が害になるとは思えなかったが、一応だ。変に騒がれたくない。
「あー、アメリア。腹が膨れたんなら教えてくれないか。ここどこ?」
「ここ? あたしんち」
「……そんくらいはさすがにわかるんだが」
「え? じゃあ何が知りたいの?」
それ以外の答えが存在するのかと首をひねるアメリアに頭が痛くなってくる。
「アメリア、この床に描かれているのは魔方陣だよな」
「そうよ」
「するとこの家は魔女か魔法使いの家か?」
「うん。だからあたしんち」
「……アメリアは魔女なのか?」
「うん」
「ちなみにこの魔方陣はどんな効果が?」
「え? 効果? ……さあ?」
「さあ?」
「考えたことないや。強いて言うなら――、全部?」
「全部⁉」
「わかんない。普段ご飯出すくらいにしか使わないから。つーか、ちょっとそこどいて。ご飯食べたい」
アメリアは答えて、それからフランシスを魔方陣の上からどかせた。
「まだ食うのか⁉」
フランシスは唖然としたが、アメリアは魔方陣の上に座って、ぶつぶつと何かをつぶやき――
「まあいいや。とにかく食べ物! それも大量!」
ものすごく適当なことを最後に言ったかと思うと、パンと両手を叩いた。
アメリアの両手の音に反応するように魔方陣が光り出し、天井まで届きそうなほどの食材の山が現れる。
「いやっほー! これでしばらく持ちそうね!」
食材の山を見てるんるんとスキップしはじめたアメリアを見て、フランシスはふと嫌な予感を覚えた。
「あー、アメリア」
「ん?」
「ブルテン山に住む魔女を知らないか?」
まさか、と思う。
だってブルテン山に住む魔女は、すっごい年を取った醜女という噂で、夜な夜な悪魔と取引をして、若い女の血を浴びる化け物みたいな女――らしい。
もちろんそんなことは信じてはいなかったが、フランシスは、ある程度の覚悟はしてきた。
アメリアは食材の山の中からリンゴを一つ取ってかじりつきながら、
「それあたしー」
かるぅーいノリで、そう答えた。
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