星月の蝶

兎猫

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1章 奇跡の魔法

9話 双子の愛情

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 ミディリシェルは魔法禁止に対して悲しそうにはしていたが、大人しく言うことを聞いた。

 フォルが転移魔法を使っても、自分も魔法を使いたいという顔はしていたが使ってはいない。

「当主様のとこに案内するよ」
「当主様ってギューにぃ?オルにぃとセイにぃはこっちにはいないんでしょ?」
「……様」
「にゃ?」
「会ったら分かるよ」

 二人はフォルと共に当主様の部屋へ向かった。

「ただいま戻りました」
「もどりまちたぁ」
「エレ、少しで良いから黙ってて。後で好きな事させてあげるから」

 フォルが笑を堪えて言う。ミディリシェルは両手で口を押さえて黙った。

「……報告はこの二人に聞いてください。僕はまだ仕事があるので」

 フォルは無表情で言って部屋から出ていった。

 ミディリシェルにはその姿が別人のように見えた。

「あっちが素の姿なのかな」
「両方素ではないだろう。人にも自分にも素を出さない性格なんだ」
「みゅ。報告ってはなんなの?」
「後で直接聞き行くから気にしなくて良い」
「御子ってなんなの?」

 御子の説明はされていない。それがなんなのかなど知らなかった。

「御子は簡単に言うと特殊な能力を持つ者の事だ。御子に選ばれた者は黄金蝶を選ぶ。本来であれば選定の為の場を用意させるのだが、もう決まっているだろう」
「うん」
「二人ともフォルを呼んできてもらえないか?」
「うん」

 ミディリシェルはゼノンと二人で当主の部屋を出た。

 フォルの居場所は当然知らない。

 部屋から出てから時間は経っていないが、もう近くにいないだろう。

 まずはどこにいるのか探すため、聞き込みを行おうとしていた。

「ギューにぃ」
「よぉ、十何年かぶりだなぁ。元気にしてたか?」
「うん。ギューにぃはフォルどこいるか知ってる?」
「ゼロとエレ、フォルを探すの頼まれた」
「そうか。なら一緒に行こう」
「にゅ」
「みゅ」

 二人はフォルの居場所を知っていそうなフォルの兄ギュレーヴォと遭遇した。

     *******

 案内をしてもらい、フォルの部屋へ着いた。

「さっきこの辺りで見たんだがなぁ」
「いない」
「お仕事かも」
「仕事?あとは夜だけって言ってたが?」
「どっかの誰かが押し付けてきたの忘れたんですか?」
「あっ、フォルいた」

 フォルが見つかり、ミディリシェルが抱きつきいた。

「押し付けた?弟に仕事押し付けるわけ」
「書類仕事は面倒だから代わりにやって欲しいとか言ってたの誰でしたっけ?弟に仕事押し付けて自分は遊んでんですか?」

 笑顔を崩さないのが逆に恐怖心を増している。ミディリシェルは、フォルに抱きついたまま恐怖で震えていた。

「遊んでるわけじゃないが、それは悪かったなぁ。というか、屋敷の中でくらい気楽にやったらどうなんだぁ」

 関わってはいけない。声を出さない方が良い。本能的にそう判断して、共有でゼノンに「こっちきて」と頼んだ。

「上がもっとしっかりしていればそうしていたかもしれませんね。下に仕事押し付けて、数百年帰って来なかったのですから手土産の一つくらいありますよね?」

 ミディリシェルの隣にゼノンが来る。

「次の仕事の情報で良いか?」
「禁呪の情報なら当主様から聞きました」
「龍族の王がその周辺で目撃」

 短剣がギュレーヴォに向かって飛んでいった。

 ギュレーヴォの真横を通過して短剣は壁に刺さった。

「おい、兄に向かって」
「エレ、部屋に入って」
「お父様がいたの?どこ?エレ達も行きたい」

 龍族の王はミディリシェルとゼノンの父。その龍族の王の目撃となれば反応せずにはいられなかった。

「見間違いじゃないかな。あんなとこにいるわけないから」
「そんなの行ってみないと分かんない」
「探し行きたい」
「それはできないよ。君らはあの二人には会う事ができない。だから、ごめん。探そうとしないで」
「……」
「……」

 ミディリシェルとゼノンは互いの顔を見合わせた。

「ゼロ、ゼロはエレがいれば良いだよね」
「エレ、エレはゼロがいれば良いんだ」
「ゼロはエレの事愛してるんだよね。ゼロが前に教えてくれたの。愛は追いかけて捕まえたくなるものって」
「エレもゼロを愛してるんだ。いつも追いかけっこしてるから」
「してるの。だから、ゼロはエレだけがいてくれれば良いの」
「エレもゼロだけがいてくれれば良いの」

 共有は側に来てもらったあとに切った。無意識にしているのだろう。

 互いの寂しい。会いたいという感情。その感情が大きい事に気づいていた。

 それを感じさせないように、互いに自分が側にいれば寂しくないと確認しあった。

 フォルを困らせないためにも、ゼノン(ミディ)がいるだけで良いのだと互いに言い聞かせた。

「フォル、ゼロは大丈夫だよ。エレがいるから」
「エレも大丈夫だ。ゼロがいるから」

 二人は笑顔で答えた。
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