悪役令嬢はヒロインを虐めている場合ではない

四宮 あか

文字の大きさ
75 / 171
人の恋路を応援している場合ではない

第24話 エレーナ

しおりを挟む
「エレーナですが、彼女が斡旋所で受けた依頼は街にある店の給仕というごくありふれたものだったそうです。勤務態度もまじめで客からの評判もなかなかの気立てのいい女性だったようです」
 気立てのいい女性とか初めて言われたよ、そんなこと。
 ポンコツだの、騙されてるだの、引きが悪いだの……そんなのばっかりだし。

「続けて」
 少し褒められたことで、私の下がっていたテンションが持ち直す。
「はい、勤務態度もまじめで、客うけもいいということで目をつけたようですね。ここからは推測でございますが、特定の人物だけをはめるための依頼を彼女に受けさせることに成功したのだと思いますが。逆にはめられたみたいですね。何をしたのかまではわかりませんでしたが……少なくとも血眼になって捜さないと困るようなことをして姿を消したようです」
 なるほど、私がしばらく姿を消したことがこんなことになるとは。


「とにかく、女が消えてから女の素性をようやく探ったようですが、エレーナという女がいた痕跡として出てきたのはアルバイト斡旋所に登録してから。普通はどこに住んでるとか、生活していた痕跡が何かしら出てくるものですが、それらが一切なかったことから。意図を持ってはめられたのだと確信をもったようですね。とりあえずエレーナという女が魔力を保有している可能性が高いと判断したようで、学園に出入りしてそれらしい容姿の女を探していたようです」
 髪や瞳の色はかえたけれど、顔は変わったわけではない、はち合わせたりしたらヤバかったかも。
 ゾッとしたのと同時に、マリアのことが心配になる。
 はめたつもりはなかったけれど、今回のことで魔法省まで出てきてしまっている。

 ジークから聞いたことを合わせると、少なくともアルバイト斡旋所はこの街の特定保護魔物が何か知っている人物がいたはずなのだ。
 少なくともトップは知らぬ存ぜぬなど通るはずもない。
 スライムは狩りつくされ、現に飲料水への影響が少しずつでている。
 特定保護魔物は当然倒されないように、魔核が持ち込まれたときにどうするかなど対策はとられているはず。
 

 存分に困れ、魔法省にばれてしまえっていう気持ちと。マリアが巻き込まれては厄介ね……という気持ちが均衡する。
 腕を組んで考え込んでしまう。
「とりあえず、私もエレーナという女について調べてみようと思います」
 待って、エレーナについて調べるですって!
「ちょっとまって……」
「大丈夫です」
 調べたら私まで最終的にたどり着いちゃうじゃないの。
 エドガーを止めようとしたけれど、彼は私のやんわりとした制止では止まらなかった。


 先日はごちそうになったのでってことと、代金は払ってあると風をまとい走り去っていく彼に私では追いつけるはずもない。
 それでも、止めようと走ったのだけれどしばらくして、どこに向かえばいいのかわからなくて息が上がった状態で私は椅子もないところでへたり込んでしまった。


 ややこしいことになってきた。
 どうしてこうなった。
 そもそも私は何をしたかったんだっけ?


 婚約が解消になって、新しい婚約者は見つかりそうもなくて。
 学年対抗戦にはアンナもミリーも選ばれて私だけ才能がないと選ばれなかったから、じゃぁ私は今後どうやって生きていくのかを考えてとりあえず前世の記憶があるから街で働いてみようと思っただけだった。
 自分の恋がちっともうまくいかないから、人のおせっかいをやいて。
 本当はもっと前から気がついてた、公爵令嬢が街でバイトして生きていけるはずもないし、人の恋など応援してる場合ではない。
 これからどう生きていくかから目をそらした結果がこれだ。



 私がエレーナだとばれるのはいいとしても、マリアやエドガーが何かに巻き込まれたりしたらとようやく考えが辿り着いた。
 騙されたことは正直はらわたが煮えくりかえる思いだけれど、やり返してる場合ではない。
 さっさと、問題を解決してこれから私は公爵令嬢としてどう生きていくのか考えないと。


「おい、大丈夫か?」
 肩に手を置かれて私は顔を上げた。
「フォルト……」
「乗れ、医務室まで運ぶから」
 全速力で走った私の足はもうガクガクだった、これが今の私だ。
 フォルトの背に乗った。


 ゆっくりとフォルトが歩く。
「フォルト、私が馬鹿でした」
「なんだ突然?」
「ここだけの話にしてくださいますか?」
 フォルトはきっと皆に告げ口しないと思う。


 フォルトに背負われて、私は真実を告白した。
 アンナとミリーだけが選ばれて私だけ選ばれなかったことを少し気にしていたこと。
 婚約を解消したのはいいけれど、次が見つかるあてもなくシオンの言葉がじわじわと自分の中にはいってきたことを。
 皆が頑張っているからこそ、街で私でもできることでお金を稼ごうと軽い気持ちで始めたこと。
 世間知らずで騙されてしまって、違約金が必要となりお金が落ちてないか地面をみて歩いた日があったことを。
 自分ひとりで解決なんかできなくて結局迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思ってることを……。



 領主教育を受けてない私は今後アーヴァインを出ないといけないであろうことを、どうすればいいのか正直なところわからないこと。



「街ですぐに騙され意地を張っておりました。今後公爵令嬢として何をすべきかは迷走状態ですが。今何をすべきかはもうわかっております。魔核を魔法省に返します。アルバイト斡旋所のことも自分で魔法省の方に言います。最初からこうすればよかったのです。さっきの話は他言無用で……」
 懺悔をしたことで私はちょっとだけすっきりとしていた。


 その時だった。
 爆音とともに地面が揺れた。
 思わずフォルトにしがみつく。
「何ごと?」
「わからない。でもかなり揺れた。先ほどの音からして地震というわけではないだろう」
 音はたぶん近くから聞こえたのだと思う。



 庭の噴水が吹っ飛んでいた。
 幸い近くに生徒がいなかったようだけれど、噴水の近くには噴水の中央にあった彫刻が壊れ散らばっているし。
 噴水のあったところには水はなく大きな穴が開いていた。


「危ないから下がってください」
 ローブをみてすぐにわかった。魔法省の職員だ。
 爆音の原因を確認しに来たのだろう。

 門のところに一人だけ糸目の彼が立っていたのは知っていたけれど、ここには爆発から5分と立っていないのに、糸目の彼ではない職員が5人もいた。
 これだけの数の魔法省の職員が学園に紛れ込んでいたことにまず驚いた。


しおりを挟む
感想 582

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。