悪役令嬢はヒロインを虐めている場合ではない

四宮 あか

文字の大きさ
81 / 171
人の恋路を応援している場合ではない

第30話 骨折

しおりを挟む
 嫌だと言わんばかりにジークは顔をそらした。
 人が嫌がる姿というのは何とも言えない色気がある。
 よこしまな気持ちでこんなことをしてはいけないとわかってはいるけれど、ついついやってしまう。

 しかし、今回のジークは魔力切れしていない。
 そのため、大量の魔力がこれ以上ここを触るなと言わんばかりに押し返してくる。
 魔力量の差は歴然だ、でもこのおいしい状況でこのまますんなりと諦めるのもおしい。
 押し返してくるジークの魔力に逆らわず、魔力にまとわりつき彼の嫌な部分を目指す。
 私こんな風に人様の魔力の表面を探るように奥へ奥へとやるようなことができるようになっている。魔力の扱い方が確実にレベルアップしているわとポジティブな気持ちで彼の嫌がるところにしっかりと魔力を流す。

 しかし、お楽しみの終わりはすぐにやってきた。
 カッとジークの目が開かれて首に触れていた私の手をはがされたからだ。
 はがされてしまっては、さすがに魔力で悪戯はできない。
「レーナ、この起こし方は二度としないでくれ。もう一度言う、もう二度としないでくれ」
 冷たく告げてジークは身体をゆっくりを起こす。
「ゾワッとするから……」
「ゾワッとするのですか、なるほど。魔力を流し込んで抵抗がある個所に念入りに魔力を流すとゾワッとすると……」
 一つ大きな勉強になった。


「さて、ジーク様。起きてすぐのところ申し訳ありませんが。ちゃちゃっと登って助けを呼んできてくださいますか?」
 4~5mはあるけれどジークなら登れるだろう、私の部屋まで登れたくらいなのだから。
 サクッとジーク登っていただき救助を呼んでもらって脱出して終わりねと思っていたのだけれどジークは首を横に振った。
 とっかかりの少ない寮よりかは足場は不安定そうだけれど登れそうなのにまさかの登れないだと……。
 予想外の答えに、どうせジークが登って助けを呼んでもらって終わりと思って悠長にしていたのに急に焦りが出てくる。

「まさか、落ちた際にどこか痛めたのですか?」
 私の問いにジークはうなずいた。
「息が苦しい、痛みは今のところあまりないがろっ骨が折れているかもしれない」
 そうだよ、アレだけの高さからがれきと一緒に落ちたのだ。
 無傷の私のほうがイレギュラーなのだ。
「君は怪我……はなさそうだね。ならよかったよ」
 パンパンと埃を掃いながらジークは立ちあがった。


「立ちあがってもよろしいのですか?」
「普通に動く分にはなんとかね。それにしてもひどい臭いだ」
 怪訝そうにジークは鼻をハンカチで覆った。
 私のほうはすでになれてしまったようで臭いは特に感じない。
 私達も月の下に二人きりと文にしてみると、エドガーとマリアよりロマンチックなのに、そこに『でも臭い』が加わるだけで台無しである。


「そういえば、爆発した学園の噴水をさらに爆破して水路をむき出しにした際も変な臭いがしてましたわ」
「さらに爆破……っていったい何をやってたんだい?」
 呆れた顔で質問されてしまった。
「スライムの魔核がもしかしたら必要になるかもしれないと、フォルトとシオンが水路に入るために、私が責任をとるのでとアンナに爆破してもらったのです」
「なるほど」


 その後『おーい』や『誰かー』と私が叫んでみたけれど誰も来ない。
「時間もあるだろうが、大規模に崩れているから二次災害に巻き込まれないために人が近づけないようにしてあるのだろう」
 そういえば、学園の噴水の周りも人が近づかないように簡易な柵がしてあったわ。
 これだけ大規模に崩れているのだもの、人も近付かないか……。
「では、叫んでいても当分人は来ないと?」
「おそらくね、壊れたところを治すにしても順番があるから、スラムよりの平民街にとりかかるのはずっと先になるだろう。水路内を歩いて出口を探したほうが早そうだ。幸い、水路は2層になっていたようだからこちらに流れてるのは綺麗な水だ」
「2層?」
「汚水と浄化された水が混ざらないような仕組みとでも言えばいいかな。私達が今いる水路の下にも汚い水を流している別の水路があると言えばわかるだろうか」
 なるほどである。きれいな水の中に汚い水を流すわけにはいかないというわけか。
「ではこの臭いは」
「おそらく、2層のほうで何かあったのかもしれない。普段は分かれている1層と2層が何かが起こってつながり臭いが漏れてるのかもしれない。噴水や水場が爆発したのも中の圧が高まった結果だろうが、これだけ複数個所爆発したのだから大丈夫だろう」
 ジークが手をこちらに差し出すから私はその手に自分の手を重ねた。
 水路内は、魔法省の職員がまだ入っているのか灯りがともっていた。
 

 私とジークは水路の出口を探して歩きだした。
 手を繋いでくれたのはもしかしたら怖がらせまいとする彼の配慮なのかもしれない。




しおりを挟む
感想 582

あなたにおすすめの小説

公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました

歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と 罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、 エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」 辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。 商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。 元夫が「戻ってこい」と泣きつくが—— 「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。 他小説サイトにも投稿しています。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。