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第3章
第6話 舞踏会にて
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沢山の着飾った貴族達が二人を見守る中、ジュリアとロベルトの二人は手を取り合って踊っていた。王族の勧めで婚姻を結んだ貴族だけに与えられる栄誉だ。王族の前で踊れば、この貴族は王族の庇護を受けている、と認識されるのだ。
ジュリアが身につけていた美しいドレスは、光沢のある青と白の絹糸で織られた絢爛豪華なものだし、ロベルトの上はも、ジュリアの色に合わせた光沢のある上品なグレーだ。彼のクラバットの胸元には、クレスト伯爵家が誇る大粒のサファイヤが金で縁取りされたもの。
二人は、濃紺、純白、そして、金色という色で統一していた。
「お似合いのカップルね・・・・」
周囲の貴族令嬢達も二人の踊りを息を呑んで見つめている。ロベルト様も、こんな風に正装をすれば、貴公子としては申し分ない風貌だ。
「クレスト様はなんて素敵なのかしら」
彼の貴公子然とした甘いマスクにうっとりと見とれる貴族令嬢もいたし、彼の美しい妻を惚けたように見つめる男もいた。
「なんと美しい女性なのだ」
「チェルトベリー子爵令嬢がかように嫋やかな女性であったとは」
子爵令嬢なら、それより格上の自分たちであれば、縁談など簡単に結べたのに。クレスト伯爵を出し抜くことも出来たのに、と悔しそうな視線を向けるものもいた。
二人の登場は、貴族達にとってはセンセーショナルな格好の話題だろう。得に、クレスト伯爵夫人が身につけていたドレスは、しばらくは社交界で一番の話題になるのに違いないと、令嬢達は心の内で思った。
そんな視線に臆することもなくジュリアは正々堂々としていた。むさ苦しい男ばかりの中の紅一点は嫌でも人の目を引く。そんな視線にはとっくの昔に慣れっこだった。
ジュリアは、目の前で、優雅な所作で踊っているロベルト様を見た。こうしてみると、彼だって、かなりイケメンなのだ。上品で育ちがいいことは一目でわかる。
ロベルト様と目が合うと、彼は濃紺の瞳を細めて、にっこりと笑う。見るからに好青年だな、とジュリアは思った。こんな様子だと、彼に群がる令嬢は沢山いそうだ。
─ それも明日までのことだ。
明日になれば、女王陛下がこの結婚を無効と宣言してくださる。なんて皮肉なことだろう。夫婦として表舞台に立った翌日に他人にもどるなんて。そんな思いとは裏腹に、宮廷楽士達は美しい調を奏で続け、美しく飾り付けられた舞踏会の会場の中では、給仕が銀の盆の上に、琥珀色の発泡酒をなみなみと注いだ酒を振る舞い続けている。
今夜は、花火も打ち上げられると言う。
ロベルト様が高く掲げた手の内で、ジュリアをくるりとターンさせた。美しいドレスの裾がふんわりと揺れる。その度に、周りの貴族達が、ほう、と感嘆のため息をつく。
優雅で美しいターンをすっときめて、ジュリアは、再び、ロベルト様の手をとってステップを踏み出す。この一連の動きを止めずに流れるように動くのはとても難しいのだ。
実は似たような動きが剣技でもあるのだ。それが、ジュリアの踊りを優雅でありながらも、堂々とした風貌に見せるのだ。
踊りながらも、ジュリアは、公爵邸を離れる前に、ジョルジュと交わした言葉が思い出していた。
「あなたは舞踏会にはいらっしゃらないのですか?」
彼は、苦笑いをふっと漏らした。
「ガルバーニ家のものは、そういう表舞台には立たないものなのです。私は特に・・・そうですね」
「・・・そうですか」
ジュリアは少しがっかりして俯いた。彼に、美しく装った自分を見てもらいたかったのだ。彼が仕立ててくれたドレスを着て鋳るところを。
そんなジュリアの気持ちを察してくれたのだろうか。ジョルジュは、優しげな眼差しでジュリアを見つめながら、こういったのだ。
─ 貴女が舞踏会で踊っている様を、かならず、どこかから眺めていますよ。
と。
そう、今、この瞬間、ジョルジュが舞踏会の会場のどこかから自分を見守っていてくれているのだ。ジュリアは、どこからか見つめている愛しい将来の夫のために、視線の動かし方から指の動き一つにまで慎重に注意を払った。
そんな二人に冷めた視線を向ける男がいた。
「見事な踊りだな」
玉座から二人を見下ろしていた王太子エリゼルが皮肉交じりの口調で呟やき、クリスタルのグラスに形のよい唇をつけ、強い酒を一口含んでから、周りを見渡した。
貴族達は、二人の踊りに見入っている。悔しそうな顔をしている男もいれば、惚けたような視線を向けている男もいた。
逃した魚が大きかったような顔をしているな。と、ぼんやりと思った。あいつらも、このように美しい令嬢がいたとは微塵も想像できなかったのに違いない。
それでも、生身のクレスト伯爵夫人を見てからと言うもの、彼の胸の内には、何かが間違っているのだと強く訴えかける何かがあった。
チェルトベリー子爵令嬢はこんな娘ではないはずだ。目の前で優雅に踊っている夫人は、話に聞いていた人物よりも、ずっと美しい。領地では見事な手段で財政難を立てなおし、疫病も抑圧した。どう考えても、一流の頭脳の持ち主のように見える。それは、どこからどう見ても『子爵』という器ではない。
今、目の前で、夫と手を携えて踊っている夫人は、華麗にステップを踏み出している。ガルバーニ公爵から上がってきていた報告では、女としての資質はゼロに近かったはず。とすれば、かなりの練習をしたことだろう。とエリゼルは思った。
「ただの子爵令嬢があそこまで踊れるとは、クレスト伯爵夫人はかなりの努力家のようですね」
側近が、エリゼルの耳元でそっと耳打ちをする。
エリゼルは感嘆のため息をついた。彼女は美しい、それだけでなく、かなりの努力家だ。そんな彼女に惹かれてしまうのは男としての性なのだろうか。
─ 曲が終わった。
わっと、周囲からは拍手がわき起こった。遜色ないほど、素晴らしい踊りだった。
「素晴らしい。私からも直々に結婚を祝わせてもらうよ」
パンパンと手を叩き、皆が見つめる前で、エリゼルは、金色の巻き毛に、エメラルドのような深い緑色の瞳に花嫁を讃える光を湛えて、そう言った。
踊りを終えたロベルトが丁寧な礼を取り、片膝をついて、彼に答える。その隣には伯爵夫人が両膝を落とし、実に優雅な姿勢で佇んでいた。これで臣下としての義務は果たせた、とロベルトはほっとした。ドレスや財政の問題も片付いた。この舞踏会さえ終われば、妻と二人でのんびりできるだろう。彼女と二人で遅くなったけれども、蜜月旅行に出かけよう。そうして、今までに二人の間に横たわった溝をゆっくり埋めていくつもりだった。
本当の夫婦になるのはこれからだ。と、ロベルトは思った。
「お褒めの言葉ありがとうございます。王太子様」
ロベルトが丁寧な口調で礼を述べ、隣の妻も、優雅な姿勢でさらに礼を深める。その姿は白鳥のように美しいとロベルトは思った。
「そう・・・それで、提案なのだが・・・・」
口元に妖艶な笑みを浮かべた王太子が、ロベルトに言う。
「それは、どのような・・・・」
怪訝な顔をした臣下の前でエリゼルは口を開いた。こういう顔をする時の王太子は、腹に何か隠し持っていることが多い。ぎくりとした様子で彼の意図を問うロベルトに王太子は言った。
「私にも、その結婚のおこぼれを預からせてはもらえないか? 美しい花嫁とメヌエットを一曲踊らせていただいてもかまわないかな? クレスト伯爵」
エリゼル様が妻と踊る? 宮廷のしきたりや慣習を破るそれに、ロベルトは嫌な予感すらした。しかし、自分は臣下。主の要求を無碍に断る訳にもいかない。しかも、貴族達が全員見守る中であってはなおさらだ。
一瞬、躊躇したロベルトだったが、意を決して、それに答えた。
「王太子様のお誘い、光栄にございます。妻の名誉にもなりましょう」
(ええっ?それは予定にないけどっ?)
ジュリアは、思いがけない成り行きに内心どぎまぎしていた。メヌエットは確かに公爵邸で教えてもらっているし、きちんと踊れる自信もある。しかし、それは、いきなり宮廷で衆人環視の中で踊れるかどうかは別の話だ。
内心で焦りまくっているが、顔に出すわけにはいかない。教えられた通り、何がおきても、どんなに動揺しても、顔に出してはいけないのだそうだ。
(くっ・・・なんて不便な)
ジョルジュが、表舞台に立たない理由がよくわかった。ジュリアもあまり好きにはなれなさそうだと思った。王太子様のお誘いを断る、という選択肢はない。
「ではお相手してくださいますかな? クレスト伯爵夫人?」
女性のように美しい容姿にジュリアは一瞬、動揺したものの、敵に対峙するかのように、目の前で優雅な姿勢ですっと手をさしのべている男を冷静に観察した。
─ この男には『隙』というものが全く見当たらない。
美しい微笑みの裏に、油断のならないしたたかさを感じる。あまり側にいたいタイプの人間ではないな、と、ちらと思った。
「はい。光栄に存じます。王太子様」
仕方なくしおらしく言ってみるものの、内心は怒り心頭だった。
(なんて面倒くさいことを提案してくれちゃってるのよ!)
本当は、一曲踊ったらさっさと退散するつもりであったのに、王族に逆らう訳にはいかない。
「では、音楽を!」
従者が声高く、楽士に命令すると、美しい音色が奏でられ始めた。
「では、クレスト伯爵夫人、お手を・・・」
エリゼルがジュリアに手をさしのべ、上目遣いに自分を見つめる宝石のような男の手を、仕方なくそっと取った。絹の手袋から感じる彼の体温は暖かいはずなのに、ジュリアには、それが血の通った人間の手のようなぬくもりを感じることができなかった。
わざわざ自分をダンスに誘うなんて、一体、何が目的なのか?
ジュリアは、音楽に合わせてステップを踏み始めた。周囲のものたちが息をつめて自分たちを見守っていた。
ジュリアが身につけていた美しいドレスは、光沢のある青と白の絹糸で織られた絢爛豪華なものだし、ロベルトの上はも、ジュリアの色に合わせた光沢のある上品なグレーだ。彼のクラバットの胸元には、クレスト伯爵家が誇る大粒のサファイヤが金で縁取りされたもの。
二人は、濃紺、純白、そして、金色という色で統一していた。
「お似合いのカップルね・・・・」
周囲の貴族令嬢達も二人の踊りを息を呑んで見つめている。ロベルト様も、こんな風に正装をすれば、貴公子としては申し分ない風貌だ。
「クレスト様はなんて素敵なのかしら」
彼の貴公子然とした甘いマスクにうっとりと見とれる貴族令嬢もいたし、彼の美しい妻を惚けたように見つめる男もいた。
「なんと美しい女性なのだ」
「チェルトベリー子爵令嬢がかように嫋やかな女性であったとは」
子爵令嬢なら、それより格上の自分たちであれば、縁談など簡単に結べたのに。クレスト伯爵を出し抜くことも出来たのに、と悔しそうな視線を向けるものもいた。
二人の登場は、貴族達にとってはセンセーショナルな格好の話題だろう。得に、クレスト伯爵夫人が身につけていたドレスは、しばらくは社交界で一番の話題になるのに違いないと、令嬢達は心の内で思った。
そんな視線に臆することもなくジュリアは正々堂々としていた。むさ苦しい男ばかりの中の紅一点は嫌でも人の目を引く。そんな視線にはとっくの昔に慣れっこだった。
ジュリアは、目の前で、優雅な所作で踊っているロベルト様を見た。こうしてみると、彼だって、かなりイケメンなのだ。上品で育ちがいいことは一目でわかる。
ロベルト様と目が合うと、彼は濃紺の瞳を細めて、にっこりと笑う。見るからに好青年だな、とジュリアは思った。こんな様子だと、彼に群がる令嬢は沢山いそうだ。
─ それも明日までのことだ。
明日になれば、女王陛下がこの結婚を無効と宣言してくださる。なんて皮肉なことだろう。夫婦として表舞台に立った翌日に他人にもどるなんて。そんな思いとは裏腹に、宮廷楽士達は美しい調を奏で続け、美しく飾り付けられた舞踏会の会場の中では、給仕が銀の盆の上に、琥珀色の発泡酒をなみなみと注いだ酒を振る舞い続けている。
今夜は、花火も打ち上げられると言う。
ロベルト様が高く掲げた手の内で、ジュリアをくるりとターンさせた。美しいドレスの裾がふんわりと揺れる。その度に、周りの貴族達が、ほう、と感嘆のため息をつく。
優雅で美しいターンをすっときめて、ジュリアは、再び、ロベルト様の手をとってステップを踏み出す。この一連の動きを止めずに流れるように動くのはとても難しいのだ。
実は似たような動きが剣技でもあるのだ。それが、ジュリアの踊りを優雅でありながらも、堂々とした風貌に見せるのだ。
踊りながらも、ジュリアは、公爵邸を離れる前に、ジョルジュと交わした言葉が思い出していた。
「あなたは舞踏会にはいらっしゃらないのですか?」
彼は、苦笑いをふっと漏らした。
「ガルバーニ家のものは、そういう表舞台には立たないものなのです。私は特に・・・そうですね」
「・・・そうですか」
ジュリアは少しがっかりして俯いた。彼に、美しく装った自分を見てもらいたかったのだ。彼が仕立ててくれたドレスを着て鋳るところを。
そんなジュリアの気持ちを察してくれたのだろうか。ジョルジュは、優しげな眼差しでジュリアを見つめながら、こういったのだ。
─ 貴女が舞踏会で踊っている様を、かならず、どこかから眺めていますよ。
と。
そう、今、この瞬間、ジョルジュが舞踏会の会場のどこかから自分を見守っていてくれているのだ。ジュリアは、どこからか見つめている愛しい将来の夫のために、視線の動かし方から指の動き一つにまで慎重に注意を払った。
そんな二人に冷めた視線を向ける男がいた。
「見事な踊りだな」
玉座から二人を見下ろしていた王太子エリゼルが皮肉交じりの口調で呟やき、クリスタルのグラスに形のよい唇をつけ、強い酒を一口含んでから、周りを見渡した。
貴族達は、二人の踊りに見入っている。悔しそうな顔をしている男もいれば、惚けたような視線を向けている男もいた。
逃した魚が大きかったような顔をしているな。と、ぼんやりと思った。あいつらも、このように美しい令嬢がいたとは微塵も想像できなかったのに違いない。
それでも、生身のクレスト伯爵夫人を見てからと言うもの、彼の胸の内には、何かが間違っているのだと強く訴えかける何かがあった。
チェルトベリー子爵令嬢はこんな娘ではないはずだ。目の前で優雅に踊っている夫人は、話に聞いていた人物よりも、ずっと美しい。領地では見事な手段で財政難を立てなおし、疫病も抑圧した。どう考えても、一流の頭脳の持ち主のように見える。それは、どこからどう見ても『子爵』という器ではない。
今、目の前で、夫と手を携えて踊っている夫人は、華麗にステップを踏み出している。ガルバーニ公爵から上がってきていた報告では、女としての資質はゼロに近かったはず。とすれば、かなりの練習をしたことだろう。とエリゼルは思った。
「ただの子爵令嬢があそこまで踊れるとは、クレスト伯爵夫人はかなりの努力家のようですね」
側近が、エリゼルの耳元でそっと耳打ちをする。
エリゼルは感嘆のため息をついた。彼女は美しい、それだけでなく、かなりの努力家だ。そんな彼女に惹かれてしまうのは男としての性なのだろうか。
─ 曲が終わった。
わっと、周囲からは拍手がわき起こった。遜色ないほど、素晴らしい踊りだった。
「素晴らしい。私からも直々に結婚を祝わせてもらうよ」
パンパンと手を叩き、皆が見つめる前で、エリゼルは、金色の巻き毛に、エメラルドのような深い緑色の瞳に花嫁を讃える光を湛えて、そう言った。
踊りを終えたロベルトが丁寧な礼を取り、片膝をついて、彼に答える。その隣には伯爵夫人が両膝を落とし、実に優雅な姿勢で佇んでいた。これで臣下としての義務は果たせた、とロベルトはほっとした。ドレスや財政の問題も片付いた。この舞踏会さえ終われば、妻と二人でのんびりできるだろう。彼女と二人で遅くなったけれども、蜜月旅行に出かけよう。そうして、今までに二人の間に横たわった溝をゆっくり埋めていくつもりだった。
本当の夫婦になるのはこれからだ。と、ロベルトは思った。
「お褒めの言葉ありがとうございます。王太子様」
ロベルトが丁寧な口調で礼を述べ、隣の妻も、優雅な姿勢でさらに礼を深める。その姿は白鳥のように美しいとロベルトは思った。
「そう・・・それで、提案なのだが・・・・」
口元に妖艶な笑みを浮かべた王太子が、ロベルトに言う。
「それは、どのような・・・・」
怪訝な顔をした臣下の前でエリゼルは口を開いた。こういう顔をする時の王太子は、腹に何か隠し持っていることが多い。ぎくりとした様子で彼の意図を問うロベルトに王太子は言った。
「私にも、その結婚のおこぼれを預からせてはもらえないか? 美しい花嫁とメヌエットを一曲踊らせていただいてもかまわないかな? クレスト伯爵」
エリゼル様が妻と踊る? 宮廷のしきたりや慣習を破るそれに、ロベルトは嫌な予感すらした。しかし、自分は臣下。主の要求を無碍に断る訳にもいかない。しかも、貴族達が全員見守る中であってはなおさらだ。
一瞬、躊躇したロベルトだったが、意を決して、それに答えた。
「王太子様のお誘い、光栄にございます。妻の名誉にもなりましょう」
(ええっ?それは予定にないけどっ?)
ジュリアは、思いがけない成り行きに内心どぎまぎしていた。メヌエットは確かに公爵邸で教えてもらっているし、きちんと踊れる自信もある。しかし、それは、いきなり宮廷で衆人環視の中で踊れるかどうかは別の話だ。
内心で焦りまくっているが、顔に出すわけにはいかない。教えられた通り、何がおきても、どんなに動揺しても、顔に出してはいけないのだそうだ。
(くっ・・・なんて不便な)
ジョルジュが、表舞台に立たない理由がよくわかった。ジュリアもあまり好きにはなれなさそうだと思った。王太子様のお誘いを断る、という選択肢はない。
「ではお相手してくださいますかな? クレスト伯爵夫人?」
女性のように美しい容姿にジュリアは一瞬、動揺したものの、敵に対峙するかのように、目の前で優雅な姿勢ですっと手をさしのべている男を冷静に観察した。
─ この男には『隙』というものが全く見当たらない。
美しい微笑みの裏に、油断のならないしたたかさを感じる。あまり側にいたいタイプの人間ではないな、と、ちらと思った。
「はい。光栄に存じます。王太子様」
仕方なくしおらしく言ってみるものの、内心は怒り心頭だった。
(なんて面倒くさいことを提案してくれちゃってるのよ!)
本当は、一曲踊ったらさっさと退散するつもりであったのに、王族に逆らう訳にはいかない。
「では、音楽を!」
従者が声高く、楽士に命令すると、美しい音色が奏でられ始めた。
「では、クレスト伯爵夫人、お手を・・・」
エリゼルがジュリアに手をさしのべ、上目遣いに自分を見つめる宝石のような男の手を、仕方なくそっと取った。絹の手袋から感じる彼の体温は暖かいはずなのに、ジュリアには、それが血の通った人間の手のようなぬくもりを感じることができなかった。
わざわざ自分をダンスに誘うなんて、一体、何が目的なのか?
ジュリアは、音楽に合わせてステップを踏み始めた。周囲のものたちが息をつめて自分たちを見守っていた。
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