野良竜を拾ったら、女神として覚醒しそうになりました(涙

中村まり

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第四章 白魔導師の日々

モテ期到来?!~2

竜騎士の注目を浴びながらも、フロルは、自分の手を止めることなく、せっせとシチューを口に運ぶ。

20人ものイケメンの注目を浴びながら、食事を口に運ぶなんて、もう、鋼メンタルの範疇である。しかし、ここで手を止めてはいけないことをフロルはすでに学習済みだ。

なぜなら、手を止めた瞬間。

「ほら、僕のシチューを食べなよ。ほら、あーんして!」

と、竜騎士の一人が必ず匙にのったシチューを差し出してくるからだ。

そのために、竜騎士は、全員、フロルと同じ食べ物を注文する。20人が座れるテーブルで、竜騎士たちが全員、同じ物を注文し、フロルをじっと見つめる光景が、どれだけ異様なものか想像つくだろうか。

「あ、ずるい。お前一人だけ抜けがけして!」

フロルの前にスプーンを差し出した竜騎士と他の竜騎士たちが、ここで必ず揉め始めるのも、いつものことだ。

・・・なのに。それなのに。

ちょっと水が飲みたくなって、やっぱりスプーンを運ぶ手を止めてしまった。

ここから先は、いつものごとく怒涛の展開が繰り広げられる。

「ほら、僕のシチューを食べて」

とスプーンを差し出した竜騎士に他の男たちが憤る。

「なんだよ。俺の『つがい』なんだからいいだろ!」

「誰がお前のつがいだって決めた!」

不満げな声が、テーブルの上に響き渡る。その声の主は、火竜のガビィーの主だ。

そうだ、そうだ、と言う声が響く。

「よし、だったら剣で決めようじゃないか!」

血気盛んなガビィーの主が剣に手をかけて立ち上がる。火竜の持ち主は気が短い人が多い。竜の性格と、その主の性格は、面白いくらいに類似している。

「よし、男に二言はない!」

挑戦を受けた飛竜の竜騎士が、上等だ!と言わんばかりに椅子から立ち上がる。

「おお、お前たち、やれやれー!」

周りの竜騎士も二人の決闘をたきつける。騎士たちは基本、血の気が多いのだ。

「わあ、待って!待って」

フロルが慌てて声をあげる。私闘なんてダメに決まってるだろう。

「ほら!二人とも落ち着いて?ね?」

もう、フロルのシチューは冷めかかっている。熱々のぐつぐつ煮えたシチューは、すでに遠い昔のことになった。

ヒートアップした二人の竜騎士は、立ち上がって、お互いを睨み合ったままだ。

(あああ・・・・!もう、こうなったら、奥の手を使うしかっ!)

横目で冷めていくシチューを残念そうに眺めつつ、フロルも意を決して、椅子から立ち上がった。私闘は、騎士団の中では禁止されているのだ。自分のせいで、この二人が処罰される事態は是非とも避けたい。

こんなことをするのは、本当に嫌で嫌で仕方がないのだが・・・。

さっと、両手でグーを作って、顎の下で合わせる。そして、わざと困ったように眉尻を下げ、さらに、上目遣いで二人をじっと見つめる。

ぶりっ子フロルの誕生だ。

うわあ。

ぶりっ子してる自分、キモイ。

あまりのシュールさに、フロルはひくひくと震えるが、他に方法が思いつかない。

しかし、やるからには徹底的に!

フロルは、腹を括り、ついでに、わざとらしく目をウルウルとさせて、二人を見つめてやった。

こういうのが本当に本当に嫌で仕方がないのだが、これが一番、竜騎士たちに『効く』ことをフロルは知っている。

「ね?お願い。私のために、争わないで? だって、悲しくなっちゃう・・・・」

もう、やけくそで、涙もついでに滲ませてやると、いまにもお互いにつかみかかりそうな二人は、フロルの擬態にすっかり毒気を抜かれてしまったようだ。

そう。これは擬態なのだ。昆虫が葉っぱみたいに見えるアレである。

男たちは気まずそうに、擬態真っ最中のフロルから、視線をはずす。

ふふ、思った通り、まんまと引っかかった。掴みは上々である。

フロルは、無言のまま腹の中でまっ黒な笑みを浮かべた。

「・・・ああ、そう・・・だな。そう言われたら、俺・・・ごめん、フロルちゃん」

もう一人のほうは、真っ赤になって、片手で顔を覆った。

「ぐふっ・・・可愛い。可愛すぎるじゃないか・・」

・・・なんの罰ゲームなんだ。これ。

竜騎士たちに囲まれるようになってから、ふるふると震える子羊のような演技力も随分と身についたような気がする。

そんなぶりっ子フロルを、他の竜騎士たちも、「かわいいなあ・・・」とか呟きながら、うっとりと見つめている。

竜騎士たちの小競り合いを面白がって、他の騎士団の騎士たちにも囲まれている。なんで、衆人環視の中、擬態を振る舞わなくちゃいけないのか。

もうやだこれ。私の羞恥心を返せ。

そして、横目でシチューを見ると・・・・悲しいことに、シチューがすっかり冷め切っている。

その様子を眺めて、フロルは内心で盛大なため息をついた。

(熱々のこのシチューは絶品だったのに・・・)

温度だって、味のうちだ。熱いものは、熱いうちに食べてこそ美味しいのに・・・。

その時、フロルの背後から、冷たく響く声が聞こえた。

「おい。お前たち、フロルと何をしている?」

力強く響くその声。すぐにその声の持ち主が誰だか察して、フロルは、ぱっと後を振り返る。

そこには、フロルの大好きなギル様の姿があった。ここしばらくは遠征に出ていたので、ギル様の姿を見るのは久しぶりだ。

フロルの顔に、花が綻ぶような満面の笑みが浮んだ。

それが竜騎士たちにとっては面白くなかったのだろう。

「リード騎馬隊長。我々のことは放っておいてください」

竜騎士は、構うなと言わんばかり顔で、ぶっきらぼうにギルに言う。

「そうですよ。竜騎士の内輪のことなので、リード様には関係のないことです」

若手の竜騎士たちが気色ばった。

「ほう。じゃあ、フロルは関係ないな」

ギルは一歩も引く気はないようだ。

にやりと好戦的にギルが笑う。その表情があまりにもかっこよかったので、フロルは、うっとりとギル様を眺める。

「フロル・・・こっちに来い。俺たちと一緒に飯を食おう」

竜騎士たちには申し訳ないのだが、騎馬隊の騎士達と食事をしたほうがはるかに気楽だ。騎馬隊おじさまたちとは、もうすっかりお馴染みの仲だ。

ギル様の部下たちは、がつがつと自分の食事をかき込むのに夢中で、食事中のフロルの様子をじっと見つめるようなことは決してない。

「久しぶりに王宮に戻ってきたら、こんなことになってて驚いたがな?」

ほっとしつつ、ギル様について行こうと、フロルが椅子から立ち上がると、竜騎士の一人がギルに挑戦的な言葉を投げかけた。

「リード様、我々はフロルちゃんとの食事を楽しんでいる所なのです。外野は黙っていてください」

「俺は少し、フロルと仕事のことで話があってな」

確信犯的に、ギルがにやりと笑う。

「あ、そうそう。エスペランサのことでしたよね!」

フロルも焦りながら、ギル様の話に辻褄つじつまを合わせる。

「あ、あのあの、皆様、楽しかったです!じゃあ、私はこれで・・・」

緊張した場の空気を察したフロルは、さっと立ち上がる。出来るだけ、はやくこの場を離れたほうがいい。何かのトラブルに巻き込まれそうだ。

「待て! 彼女は、俺の『つがい』だ。このまま、貴方につれて行かせる訳にはいきません」

『つがい』を他の男に取られるほど、屈辱的なことはない、と、竜騎士たち20人が一斉に立ち上がる。ギルと竜騎士の間に、強い緊張が走った。

「ほう・・・じゃあ、どうするつもりだ」

ギルの口の端が、好戦的に皮肉交じりにつり上がる。

竜騎士の挑戦など、大したことじゃないように、思っているようだ。

騎士団の序列では、隊長のギルのほうが、一介の若手竜騎士よりは立場が上だ。上のものに楯突くことは、どの騎士団の中でも絶対に許されないことだ。

もし、そうであれば、それは私闘を意味することになる。

フロルを自分の背の後に隠して、ギルは大きく腕組みをした。

「騎馬隊を舐めんなよ!」

「そうだそうだ!」

ふと気がつけば、後のほうから、外警部隊の面々が口々に叫んでいた。

竜騎士と騎馬隊のもめ事が聞こえたのだろう。野次馬の数が一層膨れあがった。当然、騎士たちの食堂なので、周りにいるのは、他の部隊の騎士たちだが。

「ギ、ギル様、もう行きましょう。あの・・・みんな、今日はどうもありがとう」

フロルがギルの手を引くが、ギルは微動だにしない。そうして、にっこりとフロルに笑いかけた。

「俺にまかせとけ。心配するな」

ギルは、青い瞳で小憎たらしいほど色気たっぷりにウィンクした。その笑顔がまた素晴らしく、フロルは、思わずウットリと眺めてしまった。

(ああ、危なかった。一瞬、見とれて魂が抜けそうになった)

そんな状況で、竜騎士の一人がギルに向って、鋭い言葉を投げつけた。

「じゃあ、剣で決着をつけるか?」

気色ばんだ顔の男にギルは余裕の笑みを見せた。

「・・・この俺に勝てるとでも思ってるのか?」

ふふ、と含み笑いを浮かべたギル様の動じない態度と凄みがかっこよすぎる。これじゃ、きゃんきゃん吠える犬と、ライオンくらいの差があるんじゃないだろうか。

それでも、ギル様が私闘に巻き込まれたら、彼も処罰されてしまう。

睨み合う竜騎士と騎馬隊の間で、フロルはハラハラしながら、成り行きを見守っていた。






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