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第四章 白魔導師の日々
収穫祭への序章~2
後半、虫とか小動物の記述が出てきます。苦手な人はスキップ、プリーズ!
◇
リード家のダイニングでは、家族が集まり、美味しそうな料理を前に、食事を始めようとしている所だった。
大きなテーブルの上には、久しぶりに帰郷したギルとその友人(フロル)を迎えるために、ローストされた肉がのっていたし、その横には、新鮮な果物や美味しそうなパンが並べられている。
「お嬢様は、お飲み物は何を召し上がりますか?」
執事がグラスを片手にフロルへ問いかける。
「あ、私はお水をいただけますか?」
「ワインは飲まないのですか?」
ギル様の兄であるエドガーがフロルに聞けば、ギルが代りに答える。
「ああ・・・フロルは、酒はあまり飲み慣れていないんだ」
飲み慣れていない所か、一滴も飲んだことありませんけどね!と、フロルは機嫌よく心の中で呟く。
「そうか。ここの地方の酒は美味いんだけどな」
ギルの兄様のエドガー様もまたイケメンであるのだが、婚約中とのこと。
「ワインが苦手でしたら、リンゴの発泡酒を用意させればよかったわね?」
申し訳なかったわね、と、ギルのお母様がフロルににっこりと笑いかける。こちらに来るのは7才の女の子と聞いていたから、若いお嬢さん向けのお酒を用意していなかったのよ、と申し訳なさそうに言う。
そう、ギルが実家に手紙を送った時、フロルの身長はまだ7才だったのだ。急激な年齢差は、ギル様はうっかり書き間違いと言ったらしい。フロルも、急に背が伸びたこととか、どうして、今まで成長してなかったのか、自分でもわからない。
何かを聞かれても説明することが出来ないのだ。
だから、ギルもその話題には出来るだけ触れないようにしていた。
一度、ギルも詳しい説明をライルから聞いたものの、ライルもいまひとつ要領を得た答えがないようだった。
ただ、ギルが知ったのは、どういう理由かわからないが、ともかくフロルが成長を止めていたことと、推測にしかすぎないのだが、あの神殿で聖剣が見つかったことと何かの関係があるのだろうとは思っていた。
それでも、今は、久しぶりの故郷で、懐かしい家族に囲まれているのだ。ギルもフロルも、難しいことは頭の片隅に追いやり、目の前の団らんを楽しんでいた。
ギルは気ままに思いつくことを話し、周りの家族は騎士団の話を興味深い様子で聞いている。
時折、ギルの弟たちからの視線を感じて、フロルが見返すと、小さな弟のジョエルと目があう。ウィルと年が近いせいか、可愛らしいなと思って、フロルが微笑みかけると恥ずかしそうに視線をテーブルの上に落とす。途中、ギル様が、弟たちに、今日はやけに静かだなと笑っていたのだが。
その上のマルコムは、少しツンケンした様子だったが、フロルはさほど気にしなかった。きっと反抗期なのだろう。
ギル様のお父様も、これまた爽やかなおじさまだったし、小さな妹のリーゼも母親の横で、大人しくテーブルにつき、従者が大きなロースト肉を丁寧に皿にとりわけていた。
フロルは周りの人たちが着ているものと、自分のドレスを見比べる。自分の服がそれほど見劣りがするものではないと知り、ほっとしていた。さすがエリザベス様である。こういう状況も想定して、ドレスをくれたのかもしれない。その場で、フロルが来ている服に言及するものは一人もいなかった。
エリザベス様に感謝である。周りでは、収穫祭の話題へと移っていたが、ふと、ギルの母親がフロルに視線を向けた。
「そうだわ。それから、収穫祭の衣装ね、フロルさんは持ってきたの?」
「衣装って?」
フロルが不思議そうにギルを見れば、ギルが少し苦笑を浮かべた。
「母上、実は、二人とも準備している暇がなくて・・・」
ギルが遠征で聖剣を見つけたせいで、その報告書の作成やら、武勇伝を聞きたがる同僚や従者たちに時間を取られてしまい、帰郷するための準備が全く出来なかったのだ。
「まあ、貴方もそうですけれど、フロルさんだって衣装なしではつまらないでしょう?」
「そうだな。フロルの衣装は母上が見繕ってやってもらえないかな?」
ギルが遠征中に、フロルが渡した聖石によって命を救われたことは、すでにリード家の領主夫妻(ギルの両親)と兄には報告済みだった。
当然、フロルはギルの命の恩人ということになる。
それだけでなく、フロルがあの王宮魔道師長ライルに遣えている白魔道師(見習い)であることや、竜を連れていることから、フロルがただの庶民の娘であると考えるものは誰一人いない。
ギルの命を救ってもらったこともあって、そんな事情を知らない二人の弟を除き、リード家では、フロルを丁重にもてなそうと善意に満ちあふれていたのである。ギルに彼女との関係を聞けば、『友人』だと言う。
ただの『友人』にしては、このお嬢さんは可愛らしすぎるのだけれども、と、ギルの母は思う。
ギルの母であるイレーヌは、自分のテーブルの向かいで、丁寧な所作で食事をしている息子の『友人』を見つめた。アルブス聖人に師事していることもあるし、お行儀や作法は、宮廷女官長のエリザベスが心を砕いているのだろう。今、フロルが来ているドレスも質素ではあるが上質のものだったし、フロルの立ち居振る舞いだけを見れば、その辺の貴族令嬢と遜色ない。
少し話してみたが、鷹揚で明るい性格のようだ。こんな性格だから、ライル魔道師長や他の面々から、可愛がられているのだろうと、母は思う。女官長のエリザベスは、気軽に他人にものを与えるような性格ではない。そのエリザベスから何枚も衣装をもらっていると言うことは、この子がとてもよい気性の持ち主なのだろうと推測した。
フロルは今もイレーヌの目の前で、気取ることなく旺盛な食欲で、食事を遠慮なく平らげていく。そんな姿にも好感が持てた。
「そうね。・・・明日にでも、収穫祭の衣装を買いに行きましょうか。フロルさん」
ギルのお母様がにっこりと微笑むので、フロルは嬉しくなって、もちろんです!っと大きく頷く。少し衣装を買い足す必要もあるのだ。少なくとも、ギル様のお屋敷で気分よく過ごすためには、衣装にもそれなりに気を遣う必要はあると少ない経験の中からそう判断する。
宿屋の子であるフロルは、田舎の宿という限られた経験しかなかったが、それでもそこに泊まりにくる客を沢山見ていた。その場に合った服装と言うのをある程度は理解しているのだ。
そうして、お母様と次の日に買い物に出かける約束をして、夕食はつつがなく終わった。
緊張したのは最初だけで、後はとても楽しく夕食を楽しめた。みんな親切だったし、ごはん(食事)もとても美味しかった。
フロルは自分の部屋に戻ると、とても幸せな気持ちでベッドに腰掛ける。お貴族様の部屋の調度品はどれもが素敵で、うっとりとした様子でそれを眺めていた。
少し食べ過ぎたようだったので、少し喉の乾きを感じて、水差しから水を飲もうとして、コップに水をつごうとした時のことだ。
「あ? なんだこれ?」
水差しの中から出てきたのは、緑色の小さなカエルだった。カエルは、水差しの縁に両手をのせて、つぶらな瞳でフロルをじっと見つめていたのだ。
「カエルかあ。カエルなんて見るの久しぶり」
懐かしいなあ、とフロルは呟いて、カエルをつまんで手の平に乗せた。ダーマ亭の周りには、こういうカエルはわんかさいる。
「それにしても、どうしてこんな所に紛れこんじゃったのかな? まあ、いいや。外に返してあげるからね?」
水差しの水を棄てて、再度、その中へカエルを戻す。フロルは扉をあけて廊下へと出た。偶然に廊下の角にいたマルコムとすれ違うと、マルコムは何か言いたげな顔をして自分を見つめた。
「ああ、これ?」
フロルは視線にすぐさま気づく。
「かわいいでしょう? なんでか水差しの中にいたから、庭に返してやろうと思って」
カエルを手の平にのせて、マルコムに見せてやると、なんだか引き攣った顔をする。その後では、確か、ジョエルと言ったか、ウィルと年の近い男の子がマルコムの背から顔を覗かせていた。
「ああ、ごめんなさい。カエル苦手だった?」
フロルが心配そうにマルコムの顔を覗き込むと、マルコムが嫌そうに顔をしかめた。それほどカエルが嫌いだったのだろうか? ちょっと申し訳なく思って、手の中のカエルを空の水差しの中へと戻す。
「いや、俺、カエルくらいどうってことないけど」
マルコムは、カエルごときにびびったと思われるのが癪に触った。そもそも、そのカエルはマルコムが水差しの中にそっと忍ばせたものだからだ。
なんで? どうして?
マルコムの胸の中は疑問符でいっぱいになる。どうして、この女はカエルが平気なのか? 女なら、悲鳴をあげて逃げ回っていいはずなのに。
それどころか、フロルはカエルを手の平にのっけて可愛いね?と微笑んでいる。そもそも、カエルを手にして、微笑むほうがおかしいのだ。
「そうだ。この子、君にあげよっか?」
だって、子供はカエルとか好きだもんねえ、と無邪気に目を細めるフロルにマルコムは絶句した。餌はハエとか食べるからね、といらぬアドバイスもしてくる。
「いいよ。いらねぇよ。そんなもん」
フロルは、こんなにかわいいのに、と少し残念そうな顔をしながら、カエルを庭に返すために歩き去った。ギル兄様の『友人』が廊下の角に消えるのを見計らって、ジョエルがぼそっと口を開いた。
「にいさま、全然、効果なしだったね?」
「くっそ。見てろよ。カエルがダメなら他にも色々あるだろ」
ジョエルは少しがっかりした反面、フロルが全然怖がっていないことにほっとしていた。どういう訳か、あの優しそうなお姉さんが悲鳴を上げるのは、あまり見ても楽しくないだろうと思ったのだ。
「そっか。他にも、コオロギとかいるもんねぇ」
マルコム兄様が悔しがっていたので、ジョエルは如才ない言葉を使った。ヒキガエルとか、イボガエルとか、恐ろしげなものを兄様が言い出す前に、無難な虫を言っておいた。
イボガエルより、コオロギのほうが、まだマシかなと、子供ながらにも、心の片隅で考えていたのだ。
◇
長くなったので、一度切ります。次話は早めに投稿します!
◇
リード家のダイニングでは、家族が集まり、美味しそうな料理を前に、食事を始めようとしている所だった。
大きなテーブルの上には、久しぶりに帰郷したギルとその友人(フロル)を迎えるために、ローストされた肉がのっていたし、その横には、新鮮な果物や美味しそうなパンが並べられている。
「お嬢様は、お飲み物は何を召し上がりますか?」
執事がグラスを片手にフロルへ問いかける。
「あ、私はお水をいただけますか?」
「ワインは飲まないのですか?」
ギル様の兄であるエドガーがフロルに聞けば、ギルが代りに答える。
「ああ・・・フロルは、酒はあまり飲み慣れていないんだ」
飲み慣れていない所か、一滴も飲んだことありませんけどね!と、フロルは機嫌よく心の中で呟く。
「そうか。ここの地方の酒は美味いんだけどな」
ギルの兄様のエドガー様もまたイケメンであるのだが、婚約中とのこと。
「ワインが苦手でしたら、リンゴの発泡酒を用意させればよかったわね?」
申し訳なかったわね、と、ギルのお母様がフロルににっこりと笑いかける。こちらに来るのは7才の女の子と聞いていたから、若いお嬢さん向けのお酒を用意していなかったのよ、と申し訳なさそうに言う。
そう、ギルが実家に手紙を送った時、フロルの身長はまだ7才だったのだ。急激な年齢差は、ギル様はうっかり書き間違いと言ったらしい。フロルも、急に背が伸びたこととか、どうして、今まで成長してなかったのか、自分でもわからない。
何かを聞かれても説明することが出来ないのだ。
だから、ギルもその話題には出来るだけ触れないようにしていた。
一度、ギルも詳しい説明をライルから聞いたものの、ライルもいまひとつ要領を得た答えがないようだった。
ただ、ギルが知ったのは、どういう理由かわからないが、ともかくフロルが成長を止めていたことと、推測にしかすぎないのだが、あの神殿で聖剣が見つかったことと何かの関係があるのだろうとは思っていた。
それでも、今は、久しぶりの故郷で、懐かしい家族に囲まれているのだ。ギルもフロルも、難しいことは頭の片隅に追いやり、目の前の団らんを楽しんでいた。
ギルは気ままに思いつくことを話し、周りの家族は騎士団の話を興味深い様子で聞いている。
時折、ギルの弟たちからの視線を感じて、フロルが見返すと、小さな弟のジョエルと目があう。ウィルと年が近いせいか、可愛らしいなと思って、フロルが微笑みかけると恥ずかしそうに視線をテーブルの上に落とす。途中、ギル様が、弟たちに、今日はやけに静かだなと笑っていたのだが。
その上のマルコムは、少しツンケンした様子だったが、フロルはさほど気にしなかった。きっと反抗期なのだろう。
ギル様のお父様も、これまた爽やかなおじさまだったし、小さな妹のリーゼも母親の横で、大人しくテーブルにつき、従者が大きなロースト肉を丁寧に皿にとりわけていた。
フロルは周りの人たちが着ているものと、自分のドレスを見比べる。自分の服がそれほど見劣りがするものではないと知り、ほっとしていた。さすがエリザベス様である。こういう状況も想定して、ドレスをくれたのかもしれない。その場で、フロルが来ている服に言及するものは一人もいなかった。
エリザベス様に感謝である。周りでは、収穫祭の話題へと移っていたが、ふと、ギルの母親がフロルに視線を向けた。
「そうだわ。それから、収穫祭の衣装ね、フロルさんは持ってきたの?」
「衣装って?」
フロルが不思議そうにギルを見れば、ギルが少し苦笑を浮かべた。
「母上、実は、二人とも準備している暇がなくて・・・」
ギルが遠征で聖剣を見つけたせいで、その報告書の作成やら、武勇伝を聞きたがる同僚や従者たちに時間を取られてしまい、帰郷するための準備が全く出来なかったのだ。
「まあ、貴方もそうですけれど、フロルさんだって衣装なしではつまらないでしょう?」
「そうだな。フロルの衣装は母上が見繕ってやってもらえないかな?」
ギルが遠征中に、フロルが渡した聖石によって命を救われたことは、すでにリード家の領主夫妻(ギルの両親)と兄には報告済みだった。
当然、フロルはギルの命の恩人ということになる。
それだけでなく、フロルがあの王宮魔道師長ライルに遣えている白魔道師(見習い)であることや、竜を連れていることから、フロルがただの庶民の娘であると考えるものは誰一人いない。
ギルの命を救ってもらったこともあって、そんな事情を知らない二人の弟を除き、リード家では、フロルを丁重にもてなそうと善意に満ちあふれていたのである。ギルに彼女との関係を聞けば、『友人』だと言う。
ただの『友人』にしては、このお嬢さんは可愛らしすぎるのだけれども、と、ギルの母は思う。
ギルの母であるイレーヌは、自分のテーブルの向かいで、丁寧な所作で食事をしている息子の『友人』を見つめた。アルブス聖人に師事していることもあるし、お行儀や作法は、宮廷女官長のエリザベスが心を砕いているのだろう。今、フロルが来ているドレスも質素ではあるが上質のものだったし、フロルの立ち居振る舞いだけを見れば、その辺の貴族令嬢と遜色ない。
少し話してみたが、鷹揚で明るい性格のようだ。こんな性格だから、ライル魔道師長や他の面々から、可愛がられているのだろうと、母は思う。女官長のエリザベスは、気軽に他人にものを与えるような性格ではない。そのエリザベスから何枚も衣装をもらっていると言うことは、この子がとてもよい気性の持ち主なのだろうと推測した。
フロルは今もイレーヌの目の前で、気取ることなく旺盛な食欲で、食事を遠慮なく平らげていく。そんな姿にも好感が持てた。
「そうね。・・・明日にでも、収穫祭の衣装を買いに行きましょうか。フロルさん」
ギルのお母様がにっこりと微笑むので、フロルは嬉しくなって、もちろんです!っと大きく頷く。少し衣装を買い足す必要もあるのだ。少なくとも、ギル様のお屋敷で気分よく過ごすためには、衣装にもそれなりに気を遣う必要はあると少ない経験の中からそう判断する。
宿屋の子であるフロルは、田舎の宿という限られた経験しかなかったが、それでもそこに泊まりにくる客を沢山見ていた。その場に合った服装と言うのをある程度は理解しているのだ。
そうして、お母様と次の日に買い物に出かける約束をして、夕食はつつがなく終わった。
緊張したのは最初だけで、後はとても楽しく夕食を楽しめた。みんな親切だったし、ごはん(食事)もとても美味しかった。
フロルは自分の部屋に戻ると、とても幸せな気持ちでベッドに腰掛ける。お貴族様の部屋の調度品はどれもが素敵で、うっとりとした様子でそれを眺めていた。
少し食べ過ぎたようだったので、少し喉の乾きを感じて、水差しから水を飲もうとして、コップに水をつごうとした時のことだ。
「あ? なんだこれ?」
水差しの中から出てきたのは、緑色の小さなカエルだった。カエルは、水差しの縁に両手をのせて、つぶらな瞳でフロルをじっと見つめていたのだ。
「カエルかあ。カエルなんて見るの久しぶり」
懐かしいなあ、とフロルは呟いて、カエルをつまんで手の平に乗せた。ダーマ亭の周りには、こういうカエルはわんかさいる。
「それにしても、どうしてこんな所に紛れこんじゃったのかな? まあ、いいや。外に返してあげるからね?」
水差しの水を棄てて、再度、その中へカエルを戻す。フロルは扉をあけて廊下へと出た。偶然に廊下の角にいたマルコムとすれ違うと、マルコムは何か言いたげな顔をして自分を見つめた。
「ああ、これ?」
フロルは視線にすぐさま気づく。
「かわいいでしょう? なんでか水差しの中にいたから、庭に返してやろうと思って」
カエルを手の平にのせて、マルコムに見せてやると、なんだか引き攣った顔をする。その後では、確か、ジョエルと言ったか、ウィルと年の近い男の子がマルコムの背から顔を覗かせていた。
「ああ、ごめんなさい。カエル苦手だった?」
フロルが心配そうにマルコムの顔を覗き込むと、マルコムが嫌そうに顔をしかめた。それほどカエルが嫌いだったのだろうか? ちょっと申し訳なく思って、手の中のカエルを空の水差しの中へと戻す。
「いや、俺、カエルくらいどうってことないけど」
マルコムは、カエルごときにびびったと思われるのが癪に触った。そもそも、そのカエルはマルコムが水差しの中にそっと忍ばせたものだからだ。
なんで? どうして?
マルコムの胸の中は疑問符でいっぱいになる。どうして、この女はカエルが平気なのか? 女なら、悲鳴をあげて逃げ回っていいはずなのに。
それどころか、フロルはカエルを手の平にのっけて可愛いね?と微笑んでいる。そもそも、カエルを手にして、微笑むほうがおかしいのだ。
「そうだ。この子、君にあげよっか?」
だって、子供はカエルとか好きだもんねえ、と無邪気に目を細めるフロルにマルコムは絶句した。餌はハエとか食べるからね、といらぬアドバイスもしてくる。
「いいよ。いらねぇよ。そんなもん」
フロルは、こんなにかわいいのに、と少し残念そうな顔をしながら、カエルを庭に返すために歩き去った。ギル兄様の『友人』が廊下の角に消えるのを見計らって、ジョエルがぼそっと口を開いた。
「にいさま、全然、効果なしだったね?」
「くっそ。見てろよ。カエルがダメなら他にも色々あるだろ」
ジョエルは少しがっかりした反面、フロルが全然怖がっていないことにほっとしていた。どういう訳か、あの優しそうなお姉さんが悲鳴を上げるのは、あまり見ても楽しくないだろうと思ったのだ。
「そっか。他にも、コオロギとかいるもんねぇ」
マルコム兄様が悔しがっていたので、ジョエルは如才ない言葉を使った。ヒキガエルとか、イボガエルとか、恐ろしげなものを兄様が言い出す前に、無難な虫を言っておいた。
イボガエルより、コオロギのほうが、まだマシかなと、子供ながらにも、心の片隅で考えていたのだ。
◇
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