野良竜を拾ったら、女神として覚醒しそうになりました(涙

中村まり

文字サイズ
特大
102 / 127
第二部 フロルの神殿生活

ライルの動揺~2

あれは一体なんなのだ・・・

今、ライルは珍しく動揺している。動揺しまくっていると言ってもいい。

今まで大概のものは見て来たし、面妖な魔道具やら魔術で起きる現象など、宮廷魔導士長である自分は見慣れているはずだ。

それなのに、だ。

今、ライルの目の前にいるのは、真っ黒で奇妙な生き物だった。ふわふわの綿毛に包まれて、まんまるとした姿のくせに手足だけはひょろっと長い。

その生き物は、祭壇の下でお菓子をがつがつとかじっている。菓子に食いついているその生き物は、菓子に夢中になるあまりに菓子くずを回りにまき散らしているのに、巫女達には全然見えていないようだ。

「あ・・・」

ライルは絶句して立ちすくんでいたが、毛玉は菓子を手に、ちらりとライルに一瞬だけ視線を向けたものの、すぐにまた菓子に夢中になっている。

(魔物だろうか? それとも・・・)

今まで見て来たどのカテゴリーにも属していないソレは、ライルの脳内のどのカテゴリーにも属していない。

怪訝な顔をして立ちすくんでいると、巫女が不思議そうに声をかけてきた。

「あの…魔道師長様、どうかなされまして?」

「いや、あれは、一体なんなのかな?」

巫女に聞いても、巫女はきょとんとした顔で言う。

「あれとは・・・一体、なんのことでございましょう?」

── なぜ、私にだけ見える?

それとも幻覚だろうか。書類仕事で根をつめすぎたのがいけなかったのだろうか。

ライルの動揺が深まるなか、またさらに変なものを見つけてしまった。祭壇の蝋燭の後ろ、礼拝のための椅子の影。

白やら黒やらの毛玉が、あちこちでお菓子を手に嬉しそうにかじりついているではないか。

気づけば気づくほど、その数が増えているような気がする。

「魔道師長様、女神様にお会いになられるのでは・・・・」

相変わらず、毛玉に気が付いていない巫女が不思議そうに言う。

「あ、ああ。そうだったね」

魔道師としてのプライドが、巫女の目の前で動揺する自分をさらすのを許さなかった。

ライルはとりあえず平静を装いつつ、踵を返そうとすると、自分の足元にも白の毛玉が座っていて、菓子に夢中になってかじりついているのが見える。

幻覚だろうか。

「ああ、私も疲れているのかな・・・」

「はい?なんでございましょう」

「いや、独り言だ。気にしないでくれ」

そそくさと礼拝堂を出ると、ライルは壁にもたれて大きく深呼吸をする。そして、今見たものについて、再度思考を巡らせる。

あの生き物(?)は明らかに魔物ではない。纏っているエネルギーがそもそも違うのだ。
じゃあ、あれは一体なんなんだと、壁にもたれて腕を組んで悩んでいると、ライルの足元を何かがつんつんとつつく。

ライルは下を見下ろして、仰天した。白の毛玉が自分のブローチを両手に乗せて差し出しいるではないか。

「?!」

彼は驚いてそれを凝視していると、ほら、と言わんばかりに、毛玉は無言で自分に向かって、ブローチを差し出してきた。

礼拝堂でうっかり落としてしまったのだろう。

それがなんであれ、落とし物を拾ってくれたのだ。ライルは気難しいが、酷い性格の持ち主ではない。

ありがとう、と言いながら、ライルが恐る恐るそのブローチを受け取ると、毛玉はにっこりと笑ってすっと消えていった。

毛玉の正体がわからないけれども、神殿にいるからには悪いものではないのだろう。

ライルがブローチを手にそう判断していると、フロルが真正面からやってきた。大神官との打ち合わせが終ったようだった。

「ライル様、こんな所でどうしたんです?」

フロルがちょっと驚いた様子でライルに言う。

「ああ、フロル、ちょっと頼みたいことがあったから、気分転換に神殿まで来たんだよ」

「そうなんですか。こちらまで出向いていただいてすみません」

ちょっと申し訳なさそうなフロルにライルは柔らかく笑いかける。

「気分転換もかねて散歩の途中だったから別に構わないよ」

「新しい大神官と対面したって聞いたけど?もう神官との面談は終わったのかい?」

「はい。いい感じの人でしたよ」

「そう。じゃあ、ここではなんだから、私の執務室で話そう」

大神官がどんな人物かとか、ライルには全く興味がないのだ。どんな人物であれ、彼が関わることはないからだ。

「ええ。じゃあ、行きましょう。ライル様」

そうして、二人が魔導士塔へと足を向けた瞬間、背後から声をかけられた。

「フロル、ちょっと待って」

そう声をかけたのはジェイド・パーセルだった。少し話忘れたことがあったので、フロルを呼び留めにきたのだ。

フロルとライルの二人は数歩進みかけて、その声の主を振り返った。その瞬間、ジェイドはライルを認めて、凍り付いたように立ち止まった。彼の顔には驚愕の色が浮かんでいる。

「アンリ・・?!」

フロルは驚いたようにライルとジェイドの顔を代わる代わる見つめた。アンリとはどういうことか?

そんなジェイドに対して、ライルの顔には今までないほど冷たい表情が浮かぶ。いつものクールなライルの10倍くらい冷たい顔だ。能面のような、表情を全くなくしてしまったライルに、ジェイドが駆け寄った。

「アンリ、アンリじゃないか!ああ、よく生きて。父上がこれを知ったらきっと・・・」

感極まって、ライルの腕をつかもうとするジェイドを、ライルはぴしゃりと手ではねつけた。

「・・・誰だか知らないが、人違いだ」

「そんなことない。アンリに決まってるじゃないか」

そんなジェイドにライルは冷たい一瞥を向け、彼に背を向けてさっさと立ち去ろうとする。



「ちょっと待ってくれ。少し話をさせてくれないか?」

「うるさい」

ジェイドとライルの間に氷の壁が立ちふさがる。ライルが魔術を用いて、氷の壁を発動したのだ。

そして、ライルはふとジェイドに視線を向けて口を開く。

「人間違いは迷惑だ。二度とかかわらないでくれ」

その声は冷たく、鋭く刺すような響きがあった。彼の剣幕に押されて、ジェイドは驚いて氷の壁の向こうで立ち尽くしていた。

「・・・フロル、行こう」

フロルは二人の間で何事かとおろおろしていたが、黙ってライルの後をついていった。

二人の後ろでは、氷の壁越しにジェイドが成す術もなく、二人の背中を見つめていた。



後でもうちょっと手直しするかもしれません(^^;)
感想 959

あなたにおすすめの小説

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました 表紙

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
恋愛 完結 短編
文字数:15,184
初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました 表紙

初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました

夫婦となって初めて迎えた夜、セレンティアは夫リオールから「俺には、愛する人がいる」と告げられる。 彼が初夜を済ませた理由は、三年後に白い結婚として婚姻無効を申し立てられないようにするためだった。 けれどリオールは知らなかった。セレンティアの祝福《一日回帰》が、自分自身の身体にも使えることを。 セレンティアは自分の身体の時間を一日前へ戻し、三年間、侯爵家の妻として務めを果たすことを決める。 夫に愛されるためではない。三年後、白い結婚としてこの家を出ていくために。
恋愛 完結 短編
文字数:12,593
【完結】私の出産日に初恋の人を選んだ夫、あなたを彼女に返品します 表紙

【完結】私の出産日に初恋の人を選んだ夫、あなたを彼女に返品します

「子供っぽい嫉妬はやめろ」私が命懸けで出産した日、夫のヴィンセント侯爵は初恋の人の所へ行ってしまった。理由を説明して欲しいと言うと、子供っぽい嫉妬をやめろと厳しい声で言われてしまう。しかも初恋の相手がいきなりやってきて「侯爵様は昔から私を命懸けで助けてくれるんです」と悪びれもせずに言い放った。妻よりも初恋相手を優先する夫は必要ないので私は夫を初恋相手へ返品した。すると生まれてから一度も人に頭を下げたことのないヴィンセントが、ボロボロになって私に頭を下げてきて⋯⋯。
恋愛 連載中 長編
文字数:94,149
病弱な旦那さまの身代わりに嫁ぎましたが、治してしまいましたわ 表紙

病弱な旦那さまの身代わりに嫁ぎましたが、治してしまいましたわ

 「余命ひと月」と噂される公爵ジョフロワの「縁起直し」として、伯爵家の三女ロザリーは、実家から厄介払いのように嫁がされる。姉たちは「三女は薬草園育ちの田舎者。ちょうどいいわ」と笑う。  ロザリーは言い返さない。ただ、公爵の屋敷に入って三日で、気づく。公爵の病は、毒ではなく、屋敷じゅうに焚かれている「香」だと。  「余命ひと月? では、ひと月、お世話させていただきますわ」  香を止め、窓を開け、薬草園育ちの手で、朝の粥を煮る。公爵は、ひと月で、目を覚ます。「あなたが来て、初めて朝の匂いがした」。  実家は「病弱な三女を、縁起直しに嫁がせた」と嘘の届けを出していた。回復した公爵の妻となった娘を、慌てて取り戻そうとするが、公爵がその届けを王の使者に見せるだけで、実家は自分の嘘で面目を失う。  香を焚いていた執事は「公爵を早く逝かせて、跡目を」と白状し、公爵は追放ではなく、辺境の薬草園で働かせる。  疎まれた長所が、正しく愛される場所で花開く。縁起直しの嫁入り×薬草×自己肯定の令嬢ファンタジー、全8話。
恋愛 連載中 短編
文字数:5,338
飛べないと捨てられたので、竜ごと出て行きます 表紙

飛べないと捨てられたので、竜ごと出て行きます

「お前は竜に乗れもしない、ただの妻だろう」 竜騎士団長の夫はそう言って、飛べる従騎士の娘を選びましたわ。 ええ、わたくしは飛べません。十二年、地上におりました。 夜明け前に三十一頭の寝息を数え、歯を磨き、爪の砂を取り、冬に毛布を掛け、契約を編んで。——この国でただひとりの「調律者」として。 竜は、人を乗せない生き物ですのよ。竜自身が「乗せてもいい」と決めない限り。そして竜が誰の言葉で頷いてきたか、あの方は十二年、一度もお考えにならなかった。 離縁されて、わたくしは竜舎を出ました。 三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。 怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。 そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
恋愛 完結 短編
文字数:16,065
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~ 表紙

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
恋愛 完結 長編
文字数:53,978
推しの旦那様に心の声が筒抜けでした!?〜バレた瞬間、毎回キスで黙らされます〜 表紙

推しの旦那様に心の声が筒抜けでした!?〜バレた瞬間、毎回キスで黙らされます〜

推しに似ているという理由で政略結婚した相手は、冷酷と噂の公爵様。 ――のはずが。 (無理、顔が良すぎるんだけど!?尊い!!) 心の声が、なぜか全部本人に聞こえていた。 必死に取り繕うも時すでに遅し。 暴走する脳内実況を止めるたび、旦那様はなぜか――キスしてくる。 「黙らせるのにちょうどいい」 いや全然よくないです!!むしろ悪化してます!! 無表情公爵様 × 心の声だだ漏れ令嬢 甘くて騒がしい新婚生活、開幕。
恋愛 完結 短編
文字数:16,468
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件 表紙

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。
恋愛 完結 短編
文字数:57,033