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~ 第一部 出版記念番外編 ~
フロルの初めての旅行~2
コンコンと軽くドアを叩く音が聞こえれば、ギルはドアの向こうに誰かに鋭く問う。騎士団の中で、この時間にギルを訪れる人間などいないはずだ。
「誰だ?」
「私だよ、ギル。ライルだ」
ドアを開ければ、そこにはライルが口元にうっすらと微笑みを湛えた顔で立っていた。この男がこんな顔をしている時には、かならず腹に一物抱えている時が多い。
「なんでお前がこの時間に来るんだ」
ギルが用心深く尋ねれば、ライルは穏やかに口を開く。
「一緒に夕食でもと思ってね」
「お前が俺を夕食に誘いにくるなんて、天変地異の前触れじゃないのか?」
怪訝そうな視線を向けるギルと、ギルの後に立つフロルを、ライルは美しい青い目でちらりと見て、そっと口を開く。
「自分の部下の管理は上司の勤めだと思うけど? まだ半人前の部下を人任せにする訳にはいかないだろう」
「王城につくまでは、俺がきちんと面倒を見るから問題ないぞ」
明るく爽やかな物言いのギルに、ライルはため息交じりに言う。
「自分の部下と一緒に夕餉を共にしても構わないはずだよね」
そう。フロルは、もともとはライルの部下なのだ。ライルの言い分はしごく全うなはずなのだが、ギルの胸の中に何かが引っかかっていた。この非社交的でソーシャルスキルという物とは全く無縁なこの男の中に、部下と食事を共にするなどと言う発想があるはずがないのだ。それでも、部下と一緒に食事をというライルを断る理由は何もない。
「まあ、そうだな。俺も一緒に夕食をとるが構わないか? ライル」
「ああ、もちろんだ。君が一緒にいてくれたほうがいい」
ライルの目が何かを暗喩するかのように、キラリと光った。
◇
宿の食堂では、すでに魔道師達を含む騎士団の面々が食事を初めていた所だった。食堂に現れたギルとライルを見て、全員が一瞬、さっと立ち上がった。
「みんな、席について、食事を続けてくれ」
「君たち、着席してくれ」
ギルとライルがそれぞれ自分達の部下に伝えれば、全員が静かに席につき、再び食事を始めた。
(今日は、魔道師様がいるから、みんな服を脱がないんだ・・・)
フロルの中には、騎士団の面々が常に服を脱ぐと言う先入観がすっかりと出来上がっている。外営部隊の騎士たちはいつも裸でいる訳はないぞ。フロル。
「ところで、お尻の具合はどうだい?」
思いのほか、ライル様は繊細らしい。フロルが馬に揺られて赤くなったお尻にまで気を使ってくれるようだ。
「あの・・・まあ、なんとか大丈夫です」
「本当に回復魔法を使わなくても平気? 水ぶくれとか出来てるんじゃない?」
(いや、その回復魔法って、お尻に手をかざすんじゃないの?)
そういう疑問を口にできず、フロルは赤くなって、もじもじしながら言う。こんな綺麗な男の人にお尻に手を当てられると考えるだけで赤面ものだ。
「だっ、大丈夫ですっ」
そんなフロルにライル様はふっと口元を緩めて言う。
「ほら、早くスープをお食べ。冷めてしまうよ」
「なんだ。ライル、お前やけにフロルには優しいじゃないか」
ギルがからかうように言えば、ライルは穏やかな顔で言う。
「私はいつも優しいけど?」
「嘘つけ。お前、この前、魔道師見習いに雷をおとしたと聞いたぞ」
スープを口に運びかけたフロルが驚いた様子でびくっとギルをみた。スプーンを落とさなかっただけエライと思う。雷を落とすのは、言葉の上だけだろうか? それとも、魔道師なんだから、本当の雷を落とせるのか。
「おい、フロルの前で変なことを言うなよ」
ライルの眉がそっと顰められた。
「落としたことは本当だろ?」
「・・・ああ、それは本当だが。あいつは、なかなか、いや、かなり物覚えの悪い奴だったから」
渋々と言うライルにフロルは内心、盛大に突っ込みを入れた。
(ほんとうに雷を落としたんかい!)
怒ったライル様が本当の稲妻を部下に落としたのか。考えただけでもすごく痛そうだ。黒焦げになっちゃったりしないんだろうか。
「そいつの命は無事だったのか?」
「ああ・・・まあ、多少、怪我をした程度だ。大したことないよ」
「その見習い、心にトラウマを受けて退職したと聞いたが」
「魔道師はお遊びじゃないんだ。出来ない奴はいらないよ」
ライル様は厳しいことを言う。けれども仕事であれば、求められる成果をきちんと出して、責任を果たさなくてはならない。フロルの宿屋だって、お客様が満足してくれなければ、すぐに閑古鳥がなく。甘いことを言っていられないのはどこでも同じだ。田舎の一件宿だってそうなのだ。ましてや、一流の魔道師達がいる王城であれば、なおさらだろう。
フロルがふと背後に感じた視線の先をたどれば、ローブに身を包んだ若手の魔道師達が、おそるおそる伺うような様子でライル様を見ていた。その視線の中には、若干恐怖が含まれてはいるが、尊敬の光がこもっていた。それだけで、彼が魔道師達から絶対の服従と尊敬を受けていることが分かる。
(ライル様って、本当は凄いのかも。だって魔道師長だもんね)
それだけで、フロルはライルの宮廷の立ち位置を知ることが出来た。きっと、彼の魔道師としての力量は凄いのだろう。それでも、最初に出会った時と違って、今のライル様はずっと穏やかで親切で部下思いなのだと、フロルは少し見直したのだった。
「そうだ。フロル。飯は熱いうちに食え。そのほうが旨いぞ」
ぼんやりと考え事をしていたのだが、ギル様の声でフロルははっと我に返った。テーブルにはスープだけではなく、前菜がのっている。果物とハムの前菜だ。ライル様は、白ワインをそっと口に含み、ギル様は豪快に泡の立った黄金色のエールをぐいと飲み干している。
フロルの前には冷たいオレンジジュースがおいてあった。
「冷たいエールは最高だな」
冷たいエールをぐいっとあおって、ギルがほっとした様子でため息をつく。
「騎士団の連中はエールが好きでね。私たちはワイン派なんだよ」
ライルがフロルを見て説明するように言う。魔道師と騎士達は好む飲み物も違うようだ。フロルが食堂を見渡せば、確かに、騎士達はエールを豪快に飲み干し、魔道師達はワインをちびちびを口に運んでいた。
(へえ。仕事で好みの飲み物が違うんだ。騎士様たちが泊る時には、いいエールを仕入れておくように父さんに伝えておこうっと)
テーブルの前に並べられた前菜にナイフとフォークで手をつける。いつも宿屋で食事を提供していたが、こんな風に自分がお客さんになることはなかった。魔道師はマナーに厳しいと、ギル様に言われたことを思い出して、フロルもライル様をお手本にして、見よう見まねで綺麗に食事を食べようとした。
口元についたソースを拭うライル様の所作はとても優雅だ。
(綺麗だな・・・・)
艶のある漆黒の長い髪を後で一つに括ったライル様の瞳は湖のように青く清んでいる。肌は白く、ほっそりとした顔に、魔道師の上品な黒のローブがとてもよく似合っている。
ちらりとライル様の顔を見れば、彼と目があった。じっとフロルの顔をのぞき込むライル様の目は何か言いたげだったがフロルがそれを知るよしもない。
「おい、ライル。自分の部下に惚れるなよな」
「・・・・・」
ギルが渋い顔をして言えば、ライルは意味深な視線をギルに向けただけで、何も言わなかった。
「フロル、どうだ?飯は旨いか?」
ギル様がフロルに爽やかな笑顔を向けた。ライル様が月夜の美しさだとしたら、ギル様はお日様のようだとフロルは思った。暖かくて、明るくて、人を勇気づける人だ。
「すごく美味しいです!」
フロルはちょっと恥ずかしくなって、誤魔化すようにパクパクと食事を口に運ぶ。
給仕がテーブルの上にメインディッシュを置いてくれた。ポロポロ鶏のソテーにトマトのソースが添えられている。鶏のソテーは、ジュウジュウと焼きたての音を出しているし、トマトソースからもいい匂いが立ち上っていて。とても美味しそうだ。
「沢山食べて大きくなれよ」
ギル様が、フロルの頭をわしわしと撫でてくれる。時折、ライル様が優しげな視線を向けてくれるし、ギル様は自分をまるで子犬であるかのように扱う。フロルはとっても幸せな気分になって、鶏をナイフで切って、一口食べれば、香ばしい鶏の肉汁とトマトの香りが口いっぱいにじんわりと広がる。
(ん~美味しい!しあわせー)
嬉しそうなフロルの目に、一瞬、ぴくりとライル様の肩が神経質そうに震えたのが見えた。
「・・・やっぱり来たか」
ライルが諦めたようにため息をつき、しぶしぶと立ち上がった瞬間、窓の上から大きな影が降りたってきたのが見えた。その瞬間、何かを察した魔道師達も同じように全員がさっと立ち上がった。
「お前達は席について食事を続けてくれ」
ライルは部下に静かに命じる。何事かとフロルが思っていると、ギル様が渋々と口を開いた。
「騎竜部隊か。フロルの話をさっそく聞きつけたと見える」
窓の外を見れば、狭い宿屋の庭に大きな竜が数体、今、まさに着陸しようとしていた。竜は大きく羽ばたきながら着地し、鋭い爪を地面に食い込ませれば、地面の上では茶色の砂埃が大きく舞った。
フロルが今まで見たこともないくらい、とても大きな竜だった。その上には、男達が竜に騎乗していた。
「騎竜隊の隊長のドレイクだ。フロル、俺たちが上手くやるからお前は何も言うなよ」
ギル様の声には珍しく苛立ちの音色が含まれていた。あまりその人とはいい関係を築いている訳ではなさそうだ。
大きな竜の上から、一人、マントと黒装束に身を包んだ長身の男性がひらりと飛び降り、こちらへと向って来ているのが見えた。
「誰だ?」
「私だよ、ギル。ライルだ」
ドアを開ければ、そこにはライルが口元にうっすらと微笑みを湛えた顔で立っていた。この男がこんな顔をしている時には、かならず腹に一物抱えている時が多い。
「なんでお前がこの時間に来るんだ」
ギルが用心深く尋ねれば、ライルは穏やかに口を開く。
「一緒に夕食でもと思ってね」
「お前が俺を夕食に誘いにくるなんて、天変地異の前触れじゃないのか?」
怪訝そうな視線を向けるギルと、ギルの後に立つフロルを、ライルは美しい青い目でちらりと見て、そっと口を開く。
「自分の部下の管理は上司の勤めだと思うけど? まだ半人前の部下を人任せにする訳にはいかないだろう」
「王城につくまでは、俺がきちんと面倒を見るから問題ないぞ」
明るく爽やかな物言いのギルに、ライルはため息交じりに言う。
「自分の部下と一緒に夕餉を共にしても構わないはずだよね」
そう。フロルは、もともとはライルの部下なのだ。ライルの言い分はしごく全うなはずなのだが、ギルの胸の中に何かが引っかかっていた。この非社交的でソーシャルスキルという物とは全く無縁なこの男の中に、部下と食事を共にするなどと言う発想があるはずがないのだ。それでも、部下と一緒に食事をというライルを断る理由は何もない。
「まあ、そうだな。俺も一緒に夕食をとるが構わないか? ライル」
「ああ、もちろんだ。君が一緒にいてくれたほうがいい」
ライルの目が何かを暗喩するかのように、キラリと光った。
◇
宿の食堂では、すでに魔道師達を含む騎士団の面々が食事を初めていた所だった。食堂に現れたギルとライルを見て、全員が一瞬、さっと立ち上がった。
「みんな、席について、食事を続けてくれ」
「君たち、着席してくれ」
ギルとライルがそれぞれ自分達の部下に伝えれば、全員が静かに席につき、再び食事を始めた。
(今日は、魔道師様がいるから、みんな服を脱がないんだ・・・)
フロルの中には、騎士団の面々が常に服を脱ぐと言う先入観がすっかりと出来上がっている。外営部隊の騎士たちはいつも裸でいる訳はないぞ。フロル。
「ところで、お尻の具合はどうだい?」
思いのほか、ライル様は繊細らしい。フロルが馬に揺られて赤くなったお尻にまで気を使ってくれるようだ。
「あの・・・まあ、なんとか大丈夫です」
「本当に回復魔法を使わなくても平気? 水ぶくれとか出来てるんじゃない?」
(いや、その回復魔法って、お尻に手をかざすんじゃないの?)
そういう疑問を口にできず、フロルは赤くなって、もじもじしながら言う。こんな綺麗な男の人にお尻に手を当てられると考えるだけで赤面ものだ。
「だっ、大丈夫ですっ」
そんなフロルにライル様はふっと口元を緩めて言う。
「ほら、早くスープをお食べ。冷めてしまうよ」
「なんだ。ライル、お前やけにフロルには優しいじゃないか」
ギルがからかうように言えば、ライルは穏やかな顔で言う。
「私はいつも優しいけど?」
「嘘つけ。お前、この前、魔道師見習いに雷をおとしたと聞いたぞ」
スープを口に運びかけたフロルが驚いた様子でびくっとギルをみた。スプーンを落とさなかっただけエライと思う。雷を落とすのは、言葉の上だけだろうか? それとも、魔道師なんだから、本当の雷を落とせるのか。
「おい、フロルの前で変なことを言うなよ」
ライルの眉がそっと顰められた。
「落としたことは本当だろ?」
「・・・ああ、それは本当だが。あいつは、なかなか、いや、かなり物覚えの悪い奴だったから」
渋々と言うライルにフロルは内心、盛大に突っ込みを入れた。
(ほんとうに雷を落としたんかい!)
怒ったライル様が本当の稲妻を部下に落としたのか。考えただけでもすごく痛そうだ。黒焦げになっちゃったりしないんだろうか。
「そいつの命は無事だったのか?」
「ああ・・・まあ、多少、怪我をした程度だ。大したことないよ」
「その見習い、心にトラウマを受けて退職したと聞いたが」
「魔道師はお遊びじゃないんだ。出来ない奴はいらないよ」
ライル様は厳しいことを言う。けれども仕事であれば、求められる成果をきちんと出して、責任を果たさなくてはならない。フロルの宿屋だって、お客様が満足してくれなければ、すぐに閑古鳥がなく。甘いことを言っていられないのはどこでも同じだ。田舎の一件宿だってそうなのだ。ましてや、一流の魔道師達がいる王城であれば、なおさらだろう。
フロルがふと背後に感じた視線の先をたどれば、ローブに身を包んだ若手の魔道師達が、おそるおそる伺うような様子でライル様を見ていた。その視線の中には、若干恐怖が含まれてはいるが、尊敬の光がこもっていた。それだけで、彼が魔道師達から絶対の服従と尊敬を受けていることが分かる。
(ライル様って、本当は凄いのかも。だって魔道師長だもんね)
それだけで、フロルはライルの宮廷の立ち位置を知ることが出来た。きっと、彼の魔道師としての力量は凄いのだろう。それでも、最初に出会った時と違って、今のライル様はずっと穏やかで親切で部下思いなのだと、フロルは少し見直したのだった。
「そうだ。フロル。飯は熱いうちに食え。そのほうが旨いぞ」
ぼんやりと考え事をしていたのだが、ギル様の声でフロルははっと我に返った。テーブルにはスープだけではなく、前菜がのっている。果物とハムの前菜だ。ライル様は、白ワインをそっと口に含み、ギル様は豪快に泡の立った黄金色のエールをぐいと飲み干している。
フロルの前には冷たいオレンジジュースがおいてあった。
「冷たいエールは最高だな」
冷たいエールをぐいっとあおって、ギルがほっとした様子でため息をつく。
「騎士団の連中はエールが好きでね。私たちはワイン派なんだよ」
ライルがフロルを見て説明するように言う。魔道師と騎士達は好む飲み物も違うようだ。フロルが食堂を見渡せば、確かに、騎士達はエールを豪快に飲み干し、魔道師達はワインをちびちびを口に運んでいた。
(へえ。仕事で好みの飲み物が違うんだ。騎士様たちが泊る時には、いいエールを仕入れておくように父さんに伝えておこうっと)
テーブルの前に並べられた前菜にナイフとフォークで手をつける。いつも宿屋で食事を提供していたが、こんな風に自分がお客さんになることはなかった。魔道師はマナーに厳しいと、ギル様に言われたことを思い出して、フロルもライル様をお手本にして、見よう見まねで綺麗に食事を食べようとした。
口元についたソースを拭うライル様の所作はとても優雅だ。
(綺麗だな・・・・)
艶のある漆黒の長い髪を後で一つに括ったライル様の瞳は湖のように青く清んでいる。肌は白く、ほっそりとした顔に、魔道師の上品な黒のローブがとてもよく似合っている。
ちらりとライル様の顔を見れば、彼と目があった。じっとフロルの顔をのぞき込むライル様の目は何か言いたげだったがフロルがそれを知るよしもない。
「おい、ライル。自分の部下に惚れるなよな」
「・・・・・」
ギルが渋い顔をして言えば、ライルは意味深な視線をギルに向けただけで、何も言わなかった。
「フロル、どうだ?飯は旨いか?」
ギル様がフロルに爽やかな笑顔を向けた。ライル様が月夜の美しさだとしたら、ギル様はお日様のようだとフロルは思った。暖かくて、明るくて、人を勇気づける人だ。
「すごく美味しいです!」
フロルはちょっと恥ずかしくなって、誤魔化すようにパクパクと食事を口に運ぶ。
給仕がテーブルの上にメインディッシュを置いてくれた。ポロポロ鶏のソテーにトマトのソースが添えられている。鶏のソテーは、ジュウジュウと焼きたての音を出しているし、トマトソースからもいい匂いが立ち上っていて。とても美味しそうだ。
「沢山食べて大きくなれよ」
ギル様が、フロルの頭をわしわしと撫でてくれる。時折、ライル様が優しげな視線を向けてくれるし、ギル様は自分をまるで子犬であるかのように扱う。フロルはとっても幸せな気分になって、鶏をナイフで切って、一口食べれば、香ばしい鶏の肉汁とトマトの香りが口いっぱいにじんわりと広がる。
(ん~美味しい!しあわせー)
嬉しそうなフロルの目に、一瞬、ぴくりとライル様の肩が神経質そうに震えたのが見えた。
「・・・やっぱり来たか」
ライルが諦めたようにため息をつき、しぶしぶと立ち上がった瞬間、窓の上から大きな影が降りたってきたのが見えた。その瞬間、何かを察した魔道師達も同じように全員がさっと立ち上がった。
「お前達は席について食事を続けてくれ」
ライルは部下に静かに命じる。何事かとフロルが思っていると、ギル様が渋々と口を開いた。
「騎竜部隊か。フロルの話をさっそく聞きつけたと見える」
窓の外を見れば、狭い宿屋の庭に大きな竜が数体、今、まさに着陸しようとしていた。竜は大きく羽ばたきながら着地し、鋭い爪を地面に食い込ませれば、地面の上では茶色の砂埃が大きく舞った。
フロルが今まで見たこともないくらい、とても大きな竜だった。その上には、男達が竜に騎乗していた。
「騎竜隊の隊長のドレイクだ。フロル、俺たちが上手くやるからお前は何も言うなよ」
ギル様の声には珍しく苛立ちの音色が含まれていた。あまりその人とはいい関係を築いている訳ではなさそうだ。
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