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~ 第一部 出版記念番外編 ~
フロルの初めての旅行~3
「やあ、ドレイク。まさか君が来るとは思ってもみなかったよ」
竜からさっそうと降り立ったドレイクをライルが丁寧に出迎えに出ていた。ドレイクの後では、遅れて到着した竜達から、竜騎士が数人、地面に降り立とうとしていた。そんな竜騎士の頂点にいるのがドレイクだ。騎竜団のトップを前にして、魔道師長のライルも、一歩たりとも譲らないほど堂々として、予期せぬ客人を出迎える。
「見え透いたことを。私が来ることは予見していたはずだろ」
ふっと、ドレイクの整った顔に、皮肉めいた表情が浮かんだ。
短く切った黒髪は後にぴったりと撫でつけられ、大きな額と、角張った顔が意志の強そうな彼の性格を如実に示している。ドレイクの体にぴったりとフィットした黒の騎士服は動きやすいように伸張性に長けていて、その下には鍛えられたしなやかな筋肉がうっすらと見え隠れしていた。高い空の低温に耐えうるフライトスーツのようなものだ。長い皮のブーツに腰に刺した短剣。寒さよけのマントは騎竜隊特有の服装だ。
魔道師達は青を好むが、竜騎士達は黒を好む。闇の中を飛行しても敵に見つかりにくいからだ。
ドレイクはすっと背中を伸ばして、真っ正面からライルを見据えた。ドレイクの肩は大きく、騎竜隊特有の体型をしていた。強い風をうけてもびくともしないように、騎竜隊の男達は肩や胸が広く強い。
「騎竜部隊の誰かが来るとは思ってはいたが、まさか、団長の君自らやってくるとはね?」
ライルもやや慇懃無礼に皮肉を込めて言う。そんなライルの様子を気に留める様子もなく、ドレイクは単刀直入に切り出した。
「それで、子竜は元気か? 使役しているのが、まだ年端もいかない女の子だと聞いたが?」
(やはり、フロルと子竜が気になったと見える)
ライルの読みが当ったようだ。この様子では、フロルと子竜を見るまで、この男はここを離れないだろう。
「中で待機しているよ」
ちらりと食堂の中の様子を見たドレイクは、自分がどんなタイミングで来たかを悟った。
「そうか。食事中済まなかったな」
「いや、あらかた終わっていたからいいんだ」
そうして、ライルは宿の応接室へとドレイクを案内した。少しの後、ドアをコンコンとノックする音が聞こえ、リルを抱きかかえたフロルが扉の隙間からそっと顔を出した。後には、ギルが保護者のように付き添っていた。
「ああ、フロル。入りたまえ」
ライルがそう促すと、フロルはリルを抱えたまま、おずおずと応接室の中へと入る。ライル様の隣の一人用の椅子には、見たこともない男の人が座っていた。さっき、一番、大きな竜から降りてきた人だ。
フロルは促されるままに、3人がけのソファーの端にちょこんと座れば、ギル様が中央にどかりと腰をかけた。
「リード殿、久しぶりだな」
ドレイクが低い声で挨拶をすれば、ギルも屈託のない声で言う。
「まさか、貴方がいらっしゃるとは。ドレイク様」
面倒な奴が来たと内心思いながら、驚きを隠せないギルを尻目に、ライルはフロルへと視線を向けた。
「フロル、彼は、騎竜団長のドレイク殿だ。君とリルに会ってみたくて、わざわざ、こちらにこられたそうだよ」
「あの・・・はじめまして」
フロルがちらりと上目遣いに見上げれば、ドレイクは鷹揚に頷いてみせた。深い緑色の鋭い瞳が、フロルをじっと見つめている。ギル様から、何も言うなと釘を刺されているフロルは、大人しくじっとその視線に耐えた。
「ほう。氷竜か。なるほど、これはかなりの希少種だ」
ドレイクが感心したように目を開いて言う。
「それも、かなり大人しいな。雛とは言え、氷竜がこんな風に人間に抱かれていることなどあり得ないのだが」
ちらとフロルの顔を見透かすように見つめるドレイクの深緑の瞳とフロルの若草色の瞳がかち合う。全く表情が読めない目の前の男にフロルは少し心配になった。
「ドレイク様。フロルと子竜を欲しがっても、もう遅いですよ」
ギル様があっけらかんとした様子で言う。そのおおらかな物言いが、場の雰囲気を柔らげる。
「この子竜はこちらで面倒を見なければならないからな。子竜の飛行訓練や、躾けは我々の仕事だ」
「ああ。そうだね。竜のことは君たちが一番よくわかっているからね。それにしても、王城に着いてからでいいのに、わざわざ君が自らやってくるとはご丁寧なことだ」
ライル様も神経質に眉を顰めて、予期せぬ客人を歓迎していない様子をありありと顔に浮かべると、ドレイクはふっと笑って言う。
「氷竜がいると聞いて、いてもたってもいられなくてな。伝説に近い希少種だからな。それで、この子竜にはもう名をつけたのか?」
「はい。リルって言います」
「・・・そうか。使役契約は完了していると言う訳か」
何かがおかしいと、ドレイクの第六感は告げる。使役契約を完了したと言うのに、契約の魔力が微塵も感じられないからだ。それでも、そんな懸念はドレイクは口に出さず、何気ない様子を装いながら会話を進めた。
「それで、しばらくは、エスペランサの世話をすると聞いたが?」
「俺の馬は、フロルでなければダメなんだ」
騎馬隊の隊長のリードも彼女を手放したくないらしいと、ドレイクはちらと思った。リードの様子はまるで保護者のようだ。あのリードがこんなにも手をかけるとは驚きだ。何しろ、この男は戦場ではエスペランサと共に鬼神のように激しく戦うと言うのに。
そんなドレイクにライルは追い被さるように説明を続ける。
「ああ、馬だけでなく、殿下の魔獣の世話もしてもらう。私の部下としてね?」
「竜を使役しているのであれば、俺の部下になるのではないか?」
「フロルの適正がまだ竜騎士に向いていると判明した訳ではないからね。彼女の魔力の特性が判別するまでは私の下にいてもらう」
「ほう・・・・」
ドレイクが片眉をぴくりと上げ、驚いたようにフロルを見つめた。
「・・・魔力持ちか」
「まあね。まだこれから詳しく判定させてもらうけどね」
「国で一番の魔力を持つお前なら、そんなこと朝飯前だろうに」
「少し複雑なな状況なんだよ」
ライルが静かに言えば、ドレイクは無言でフロルをちらと見やった。
「子竜をこちらによこしてくれ」
フロルは大人しく抱いていたリルを言われた通りに差し出した。リルは、つぶらな瞳で何事かとフロルの顔を見つめる。
「大丈夫だから。大人しく、このおじさんに抱かれてみて」
おじさん、と言われた瞬間、ドレイクがぴくりと身じろぎした。
「ふふ。おじさんと言われますね。ドレイク様」
ギルが朗らかに笑う。泣く子も黙る騎竜団長のドレイクを、「おじさん」と呼んだ人間は、後にも先にもフロルが初めてだろう。
「・・・俺はおじさんではない」
少しむっとしたドレイク様が拗ねたように言う。
「きゅん・・・・」
リルは小さな声で不安げに鳴いたが、ドレイクに大人しく抱かれ、つぶらな瞳で、大人達の顔を代わる代わるながめていた。
「なるほど。殿下が欲しがる訳だ」
ドレイクはリルをフロルに返しながら、ちらりと笑った。そして、ライルを見やり、もう一言付け足した。
「それにライルもだ」
用事が済んだと見えて、ドレイクはすっとソファーから立ち上がった。
「子竜の世話が出来る環境を整えておく」
「わざわざご苦労だったね。ドレイク殿」
ライルも、これで終わったとため息をつきながら立ち上がる。
「私はドレイクを送っていくから、君たちはもう下がっていいよ。ご苦労様」
(ああ、終わったー)
緊張が解けてほっとしたフロルは、ギルに連れられて下の階へと向う。まだデザートを食べ終えてなかったのだ。
「デザートを食べに行くぞ。フロル。楽しみにしてたろ?」
「はいっ」
「・・・では、ドレイク様。ごきげんよう。また明日には王城でお会いしましょう」
「ああ。食事中に失礼して済まなかったな。リード殿」
「いいえ。かまいません」
嬉しそうにギルについていくフロルを見送り、ライルとドレイクは宿の建物から出て、屋外の竜に向って、ゆっくりと歩みを進めた。数メートル先には、数匹の騎竜と、ドレイクの護衛の竜騎士が待機している。
ライルの声はまだ竜騎士に届くには遠い。絶妙な距離であることを確かめ、ライルは、ドレイクに口を開いた。
「それで・・・・」
ライルの声はいつになく固い。
「あの娘は、フロルは、貴方の番いでしたか?」
ドレイクは、ぴたりと足を止め、何も言わずに激しい感情のこもった視線でライルを見つめた。
◇
番外編小話はあと一回で終了です。その後は、本編に戻ります☆
竜からさっそうと降り立ったドレイクをライルが丁寧に出迎えに出ていた。ドレイクの後では、遅れて到着した竜達から、竜騎士が数人、地面に降り立とうとしていた。そんな竜騎士の頂点にいるのがドレイクだ。騎竜団のトップを前にして、魔道師長のライルも、一歩たりとも譲らないほど堂々として、予期せぬ客人を出迎える。
「見え透いたことを。私が来ることは予見していたはずだろ」
ふっと、ドレイクの整った顔に、皮肉めいた表情が浮かんだ。
短く切った黒髪は後にぴったりと撫でつけられ、大きな額と、角張った顔が意志の強そうな彼の性格を如実に示している。ドレイクの体にぴったりとフィットした黒の騎士服は動きやすいように伸張性に長けていて、その下には鍛えられたしなやかな筋肉がうっすらと見え隠れしていた。高い空の低温に耐えうるフライトスーツのようなものだ。長い皮のブーツに腰に刺した短剣。寒さよけのマントは騎竜隊特有の服装だ。
魔道師達は青を好むが、竜騎士達は黒を好む。闇の中を飛行しても敵に見つかりにくいからだ。
ドレイクはすっと背中を伸ばして、真っ正面からライルを見据えた。ドレイクの肩は大きく、騎竜隊特有の体型をしていた。強い風をうけてもびくともしないように、騎竜隊の男達は肩や胸が広く強い。
「騎竜部隊の誰かが来るとは思ってはいたが、まさか、団長の君自らやってくるとはね?」
ライルもやや慇懃無礼に皮肉を込めて言う。そんなライルの様子を気に留める様子もなく、ドレイクは単刀直入に切り出した。
「それで、子竜は元気か? 使役しているのが、まだ年端もいかない女の子だと聞いたが?」
(やはり、フロルと子竜が気になったと見える)
ライルの読みが当ったようだ。この様子では、フロルと子竜を見るまで、この男はここを離れないだろう。
「中で待機しているよ」
ちらりと食堂の中の様子を見たドレイクは、自分がどんなタイミングで来たかを悟った。
「そうか。食事中済まなかったな」
「いや、あらかた終わっていたからいいんだ」
そうして、ライルは宿の応接室へとドレイクを案内した。少しの後、ドアをコンコンとノックする音が聞こえ、リルを抱きかかえたフロルが扉の隙間からそっと顔を出した。後には、ギルが保護者のように付き添っていた。
「ああ、フロル。入りたまえ」
ライルがそう促すと、フロルはリルを抱えたまま、おずおずと応接室の中へと入る。ライル様の隣の一人用の椅子には、見たこともない男の人が座っていた。さっき、一番、大きな竜から降りてきた人だ。
フロルは促されるままに、3人がけのソファーの端にちょこんと座れば、ギル様が中央にどかりと腰をかけた。
「リード殿、久しぶりだな」
ドレイクが低い声で挨拶をすれば、ギルも屈託のない声で言う。
「まさか、貴方がいらっしゃるとは。ドレイク様」
面倒な奴が来たと内心思いながら、驚きを隠せないギルを尻目に、ライルはフロルへと視線を向けた。
「フロル、彼は、騎竜団長のドレイク殿だ。君とリルに会ってみたくて、わざわざ、こちらにこられたそうだよ」
「あの・・・はじめまして」
フロルがちらりと上目遣いに見上げれば、ドレイクは鷹揚に頷いてみせた。深い緑色の鋭い瞳が、フロルをじっと見つめている。ギル様から、何も言うなと釘を刺されているフロルは、大人しくじっとその視線に耐えた。
「ほう。氷竜か。なるほど、これはかなりの希少種だ」
ドレイクが感心したように目を開いて言う。
「それも、かなり大人しいな。雛とは言え、氷竜がこんな風に人間に抱かれていることなどあり得ないのだが」
ちらとフロルの顔を見透かすように見つめるドレイクの深緑の瞳とフロルの若草色の瞳がかち合う。全く表情が読めない目の前の男にフロルは少し心配になった。
「ドレイク様。フロルと子竜を欲しがっても、もう遅いですよ」
ギル様があっけらかんとした様子で言う。そのおおらかな物言いが、場の雰囲気を柔らげる。
「この子竜はこちらで面倒を見なければならないからな。子竜の飛行訓練や、躾けは我々の仕事だ」
「ああ。そうだね。竜のことは君たちが一番よくわかっているからね。それにしても、王城に着いてからでいいのに、わざわざ君が自らやってくるとはご丁寧なことだ」
ライル様も神経質に眉を顰めて、予期せぬ客人を歓迎していない様子をありありと顔に浮かべると、ドレイクはふっと笑って言う。
「氷竜がいると聞いて、いてもたってもいられなくてな。伝説に近い希少種だからな。それで、この子竜にはもう名をつけたのか?」
「はい。リルって言います」
「・・・そうか。使役契約は完了していると言う訳か」
何かがおかしいと、ドレイクの第六感は告げる。使役契約を完了したと言うのに、契約の魔力が微塵も感じられないからだ。それでも、そんな懸念はドレイクは口に出さず、何気ない様子を装いながら会話を進めた。
「それで、しばらくは、エスペランサの世話をすると聞いたが?」
「俺の馬は、フロルでなければダメなんだ」
騎馬隊の隊長のリードも彼女を手放したくないらしいと、ドレイクはちらと思った。リードの様子はまるで保護者のようだ。あのリードがこんなにも手をかけるとは驚きだ。何しろ、この男は戦場ではエスペランサと共に鬼神のように激しく戦うと言うのに。
そんなドレイクにライルは追い被さるように説明を続ける。
「ああ、馬だけでなく、殿下の魔獣の世話もしてもらう。私の部下としてね?」
「竜を使役しているのであれば、俺の部下になるのではないか?」
「フロルの適正がまだ竜騎士に向いていると判明した訳ではないからね。彼女の魔力の特性が判別するまでは私の下にいてもらう」
「ほう・・・・」
ドレイクが片眉をぴくりと上げ、驚いたようにフロルを見つめた。
「・・・魔力持ちか」
「まあね。まだこれから詳しく判定させてもらうけどね」
「国で一番の魔力を持つお前なら、そんなこと朝飯前だろうに」
「少し複雑なな状況なんだよ」
ライルが静かに言えば、ドレイクは無言でフロルをちらと見やった。
「子竜をこちらによこしてくれ」
フロルは大人しく抱いていたリルを言われた通りに差し出した。リルは、つぶらな瞳で何事かとフロルの顔を見つめる。
「大丈夫だから。大人しく、このおじさんに抱かれてみて」
おじさん、と言われた瞬間、ドレイクがぴくりと身じろぎした。
「ふふ。おじさんと言われますね。ドレイク様」
ギルが朗らかに笑う。泣く子も黙る騎竜団長のドレイクを、「おじさん」と呼んだ人間は、後にも先にもフロルが初めてだろう。
「・・・俺はおじさんではない」
少しむっとしたドレイク様が拗ねたように言う。
「きゅん・・・・」
リルは小さな声で不安げに鳴いたが、ドレイクに大人しく抱かれ、つぶらな瞳で、大人達の顔を代わる代わるながめていた。
「なるほど。殿下が欲しがる訳だ」
ドレイクはリルをフロルに返しながら、ちらりと笑った。そして、ライルを見やり、もう一言付け足した。
「それにライルもだ」
用事が済んだと見えて、ドレイクはすっとソファーから立ち上がった。
「子竜の世話が出来る環境を整えておく」
「わざわざご苦労だったね。ドレイク殿」
ライルも、これで終わったとため息をつきながら立ち上がる。
「私はドレイクを送っていくから、君たちはもう下がっていいよ。ご苦労様」
(ああ、終わったー)
緊張が解けてほっとしたフロルは、ギルに連れられて下の階へと向う。まだデザートを食べ終えてなかったのだ。
「デザートを食べに行くぞ。フロル。楽しみにしてたろ?」
「はいっ」
「・・・では、ドレイク様。ごきげんよう。また明日には王城でお会いしましょう」
「ああ。食事中に失礼して済まなかったな。リード殿」
「いいえ。かまいません」
嬉しそうにギルについていくフロルを見送り、ライルとドレイクは宿の建物から出て、屋外の竜に向って、ゆっくりと歩みを進めた。数メートル先には、数匹の騎竜と、ドレイクの護衛の竜騎士が待機している。
ライルの声はまだ竜騎士に届くには遠い。絶妙な距離であることを確かめ、ライルは、ドレイクに口を開いた。
「それで・・・・」
ライルの声はいつになく固い。
「あの娘は、フロルは、貴方の番いでしたか?」
ドレイクは、ぴたりと足を止め、何も言わずに激しい感情のこもった視線でライルを見つめた。
◇
番外編小話はあと一回で終了です。その後は、本編に戻ります☆
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