悪辣令嬢、媚薬を盛る

宵の月

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夫の心、妻知らず

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 善政で広く知られるドラグル王国の、王太子グラードの執務室は今日も慌ただしかった。入れ替わり立ち替わり書類を手に、各部署の官僚達が決裁を求めてやってくる。

「……なんだ、このふだけた予算案は。舐めているのか? 無駄が多すぎるやり直せ!」
「は、はい!」
「ふむ、孤児院からの嘆願要請か……今年は薪が少なかったのだったな……王宮の薪の余剰はどれだけある?」
「五年分を確保しています」
「そうか、では三年分を無償解放し、優先的に各孤児院にと医療施設に配布しろ」
「それでは王宮の余剰が……」
「五年分もあるのだ。二年分は火急に備え、他は民に分け与えろ。貴族家門から希望があれば、収入の証明を出させるように」
「……はい!」

 弱者に寄り添う即座の返答に、嘆願書を持ち込んだ文官が感激したように瞳を潤ませた。

「次!」
「あ、あの……」

 モジモジと気まずそうに進み出た侍女に、グラードはぴたりと手をとめ咳払いをした。そしてにっこりと侍女に向き直り、優しく話しかける。

「……あー、我が妻のことかな? また我儘でも言ったのだろう。私のアシェラは少々我儘でな、そこが愛らしいのだが……申し訳ない。私がしっかりと叱っておくから、緊張することはない。さあ、何をしでかしたのだ? 遠慮なく言ってみるがいい」

 美貌のグラードに微笑まれ、ぽっと頬を染めた侍女は恥ずかしそうに俯いた。
 
「あ、いえ、妃宮の予算の報告に参りました……」
「………………そうか」

 そっと差し出された予算報告書に、グラードが目を通す。

「……アシェラは最近、やたらとバナナを食べているようだな」
「あ、はい。淑女教育の合間に召し上がられているようです」
「そうか……」

 ちょっとしょんぼりしながらグラードは報告書を受け取ると、侍女はぺこりと頭を下げて下がっていった。その姿を見送ってグラードがため息をこぼす。その様子を補佐官がチラリと盗み見た。

「あ、あの殿下。妃……」

 侍女が下がったのを見計らって声をかけてきた事務官に、グラードがものすごい勢いで立ち上がって振り返った。

「アシェラか! 何をしでかした!?」

 グラードの勢いに事務官が息を飲み、補佐官に視線を縋らせながら用件を告げる。
 
「宮の庭の剪定計画についてなのですが……」
「剪定、計画……?」

 グラードはあからさまに勢いをなくし、ストンと椅子に座り込むと俯いた。

「あ、あの……」

 無言で見守っていた補佐官がため息を吐き、事務官に笑みを向けた。
 
「……気にしなくて大丈夫ですよ。剪定計画書は僕が預かりますので」
「は、はい……お願いします……」

 オロオロしながら事務官は計画書を差し出し、肩を落としたグラードを気にしながら退室する。閉まる扉を未練がましく見つめるグラードに、補佐官は小さく首を振ると書類を執務机に置いた。

「殿下、アシェラ様は本日も淑女教育を熱心に受けておられるそうです」
「……あのアシェラが……」
「はい。あのアシェラ様が。今日でもう二週間になりますね」
「ああ……そう、だな……」

 グラードは深く息をついて、額を覆いながら頷いた。補佐官達は困ったように眉尻を下げる。

「非常に熱心に淑女教育を受けておられるので、近頃はとうとう反省されたのではとの声も上がり始めております。いいことなのでは?」
「そう、だな……その通りだ……」

 アシェラが大人しくなって、もう二週間。婚姻し王宮入りしてからも三日と空けずやらかしては、グラードがすっ飛んでいっていたのが嘘のように静かだ。今日もアシェラは自ら実家である公爵家の伝手で、呼び寄せた教師と私室に籠って熱心に学んでいる。バナナを食べながら。なかなかの消費量だ。
 招かれた伯爵夫人は実績もあり、何よりあのアシェラが勉強している。その噂が広まり元々の評判の悪さのおかげが、ちょっと勉強しただけでついに改心したかもしれないと囁かれ始めている。喜ぶべきことではある。
 
「殿下が熱心に指導し続けた日々が、ようやく報われたようですね」
「あ、ああ……」
 
 咲き誇る薔薇の美貌への賞賛と、それにセットで轟く悪評。その悪評が鳴りを顰めるほど、私室で籠って勉学に励むアシェラ。そう、喜ぶべきことなのだ。アシェラが大人しく淑女教育に取り組んでいることは。グラードは懸命に自分に言い聞かせながら頷いた。

(アシェラ……)
 
 瞼に焼きつく愛しい妻の面影を思い浮かべる。そしてアシェラの華奢なデコルテにきらりと光る特製プレート。

(あの時は随分拗ねて、ものすごく可愛かった……)

 思わずニマニマしたグラードは、ハッとして補佐官に顔を上げた。そうだ、アシェラは完全に拗ねていた。もしかしたらそのせいで。

「……あのプレートはやりすぎだったと思うか?」
「ブレートですか?」
「いや……なんでもない……」
 
 もしもプレートのせいで、勉強する気になったのならすべきことだった。思い直したグラードは、再びため息をついて俯いた。

(そうだ。浮気はどうあっても絶対にだめだ……だから必要なことだった……)

 唇を噛み締めたグラードは、止めていた手を動かしながら耳を澄ませた。王宮はとても静かで、今日もアシェラがやらかす様子はない。

「殿下、お疲れでしたらお茶でもお持ちしますか?」
「いや、できるだけ早く終わらせよう」
「……はい」

 無言で書類を引き寄せてしょんぼりと書類に向き直る王太子に、補佐官は困ったように眉根を寄せた。

(悩みの種が落ち着かれたというのに……)

 しょっちゅうやらかしていた王太子妃が、こんなにも大人しくなった。それなのに大人しいほど元気のなくなる王太子。駆けつける必要もなく、仕事も捗るというのにどうして落ち込んでいくのか。
 補佐官たちは心配そうに、顔を見合わせることしかできなかった。

※※※※※
 
 執務を終えたグラードは、夫婦の寝室にそっと滑り込む。
 広い寝台にはすでに妻のアシェラが、安らかな寝息を立てていた。隣に身を滑らせて、グラードはアシェラの寝姿を静かに見つめる。その息を呑むほど美しい姿に、グラードの胸に誇らかな幸福感が広がった。

「お前は今日も美しい……」

 そっと囁きながら寝具に広がる、見事なハチミツ色の髪を梳き撫でる。滑らかな手触りに胸が震えて、手に取ったその髪に口付けた。たったそれだけで、息が詰まるような愛おしさが込み上げてくる。一目で心を掴まれた五年前から、日々募り続ける愛おしさ。

「アシェラ、お前は今日もいい子だったな……」

 起こさないように顰めたグラードの呟きが、寝室の空気にポツンと落ちる。
 本当にとてもいい子だった。丹念に言い聞かせていた妃としての自覚が、ようやく芽生えたのかもしれない。奇跡のような鮮烈なこの美貌に、確かな教養までも加わってしまえばアシェラ以上の妃など、どこを探しても見つからないだろう。
 王宮の者は皆、この変化を歓迎している。守衛の騎士を誘惑して脱走しようとしないし、怪しげな夜会に繰り出す画策もやめた。国庫を空にする勢いでドレスも宝石も買い漁ろうとしないし、放り投げていた淑女教育に取り組み始めた。だから日に二、三度必要だったに、グラードが駆けつけることも無くなった。

「……喜ぶべきだ」
 
 愛らしい寝顔を晒すアシェラに、グラードはそっと手を伸ばした。白い滑らかな陶器の頬を包み込む。大人しく宮に籠り真面目に淑女教育を受け、疲れて眠る妻。グラードは小さくため息を吐き出して、アシェラの頬から手を離した。

「喜ばなくては……」
 
 傲慢で高飛車。悪辣でふしだら。悪評高いアシェラが、真面目に学び始めたのだから。
 醜聞のたびに嫉妬にのたうち回り、血を吐くような思いで振る舞いを諌め続けた。その努力が報われようとしている。もう膨れ上がった嫉妬心に絶えきれず、五年間の婚約の解消を決意したあの夜のような思いをしなくてすむ。いっそ死にたいと願ったほど苦しかったのだから。いずれ国母となるアシェラの変化は、喜ぶ以外に選択肢はないはずなのに。

「……なぁ、かわいい俺のアシェラ」

 妻を諌め良き王妃に導くのも、良き王として夫としての当然の務め。覚醒したグラードはよき王であり続けなければならない。唯一と定め選んだ伴侶の言動も、その全てがグラードの責任だ。それすらも覚悟してアシェラを妻に迎えた。だから、

「無理はしなくていいんだぞ?」

 全部俺が余裕で担えるから。アシェラが覚醒させたドラゴンの力で、全部俺が引き受けるから。いつだって俺がそばにいて、ちゃんと目を光らせる。後始末も教育も全て、俺の責任であり権利なのだから。どこで何をしたとしても、俺が駆けつけ叱りつけ正して見せる。アシェラに関わる全てが喜びで、苦になることなど一つもない。だから。

「……少しくらいいいんだぞ?」

 突然いい子になってしまった愛しいアシェラは、深い眠りの底にいて何も応えてはくれない。グラードは諦めたように小さくため息を吐き、疲れて眠る妻の安眠を妨げないように囁いた。
 
「……おやすみ、愛しい俺のアシェラ」
 
 美しい寝顔にそっと口付けを落とすと、もう眠る必要はなくても愛しい伴侶の隣で瞳を閉じる。アシェラが大人しくなってから、触れ合えずにいる日々の中、せめて安らかに眠る妻の気配をすぐそばに感じていたかった。

※※※※※
 
「……っ!! まさかそんな……嘘でしょう……!?」

 衝撃に目を見開いてアシェラは、ぐっと身を乗り出した。向かいに座るのは教師の伯爵夫人……ではなく、伯爵夫人が毎回伴ってくる侍女だ。
 影のように仕える主人に付き従うべき侍女の、地味なお仕着せを着ていても教師を務める女は、どこか退廃的で咽せ返るような色香は隠しきれていない。

「……ふふっ。アシェラ様、この程度で驚いてはいけませんわ。その後はこのようにして挟み込むのです!」
「……本当に?」

 黒子のある扇状的な口元を微笑ませての実演に、アシェラばかりか淑女教育で名を馳せた伯爵夫人も、衝撃に瞳を見開いて身を乗り出した。

「ですが、ステラーチェさん。本当にそんなことが……?」
「まあ、信じられませんか? ですがすごい効果なんですよ? 感覚よりも視覚に意味があるんです。これでこうしている、それが大事なんです。その上でこんなふうに……ね?」
「すごい。そんなことまで!」

 ステラーチェのたわわな胸に挟まれたバナナが、へちょりと圧迫に負けて中身をぶちまけた。にわかには信じられないステラーチェの応用編の実演に、アシェラと伯爵夫人は口元を押さえた。

「ではこのバナナで練習してみましょう。アシェラ様も伯爵夫人も十分資格をお持ちです。大変ご立派ですからね。ですがそれだけではダメです。練習してコツを掴まなれば簡単にはできることではないのです」

 こくこくと頷いたアシェラと伯爵夫人生徒に、ステラーチェ教師はにっこり微笑んだ。

「そうです……そうして……いえ、いきなりそうするのではなく、まずは空間を……いえ……教材を持ち込めればいいのですが、持ち物検査がありますし……バナナでしか……ええ、そうです。そのまま両手で強く押しつぶすように……そうです、お上手ですわ。大丈夫ですよ。もう少し強くしても痛みはありませんから……」

 熱心な生徒達に、教師も指導に熱が入る。の職場に打診がきた時は断りたいと思っていた教師役。断りたくても公爵家からの依頼で、その上の稼ぎの二倍の提示をされてしまった。渋々引き受けたが気難しい貴婦人達は、未知の知識に対して、意欲を持って指導に食いついて来てくれる。

(それもあと三日で終わりなのね……)

 本来は対立する関係だろう貴婦人達への、奇妙なレッスン。それももうすぐ終わってしまう。ちょっとだけ寂しく思いながら、ステラーチェは熱心な生徒達のためにさらに指導に熱を込めた。

※※※※※

 今日も何事もなく平和だった王宮の回廊を、グラードはため息をつきながらトボトボと歩く。今日もアシェラはもう眠りについているだろう。グラードはできるだけ静かに夫婦の寝室の扉を開けた。

「おかえりなさい、グラード」

 迎えた鈴の音のような声に、驚いて顔を上げる。

「……アシェラ?」

 今日も疲れて眠っていると思っていたアシェラは、スラリと立ち上がり挑戦的な声音を響かせた。

「貴方を待っていたの……」

 立ち上がったアシェラの完璧なシルエットを、窓から差し込む月光が美しく浮かび上がらせる。輝くハチミツ色の髪をさらりと払ったアシェラの表情に、グラードは僅かに眉根を寄せた。愛してやまない美しい妻は、その花のかんばせに自信と奸計を匂わせている。どう見てもやらかす気満々の顔だ。
 薄い夜着姿のアシェラは挑戦的な微笑みを浮かべながら、ゆっくりとグラードに歩み寄ってきた。眼前まで詰めてきたアシェラが、美しい微笑みを浮かべたままグラードの肩を押す。なすがままグラードは、寝台へと両肘をついて倒れ込んだ。嫣然と笑みを浮かべたアシェラは、昂然と顎を逸らしてグラードを見下ろした。

「……ねえ、グラード? はっきりさせましょう? 従うべきはどちらなのかを……」

 呆然とグラードは自信に満ち溢れて輝く、アシェラを美貌を見つめた。

(あぁ、美しい我が愛しき妻アシェラ……やはりお前は……)

 なんて悪い子なのか。全然全く少しも変わらない。とうとう変わったのかと期待を持たせるほど、熱心に勉強をしていたかと思えば、どうやら何かを企んでいたらしい。今この時、いい子の皮を脱ぎ捨てて、ちっちゃくて愛らしい牙を剥き出しにしてきた。本当になんて悪い子なのだろうか。満を持して挑んでくるアシェラに、グラードは口角をゆっくりと釣り上げた。

「俺のかわいいアシェラ……どんな悪さを企んでいるのかと思えば……いいだろう。お前が俺をわからせられるのか、お手並み拝見だ……」

 金色の瞳をとろりと蕩けさせたグラードに、アシェラは高慢にするりと夜着を肌に滑らせた。

「ええ……覚悟なさって……」

 自信満々のアシェラは惜しげもなく美身を晒すと、グラードの足元にそっと跪いた。
 
「ん……っ!!」

 苦しそうに息を詰まらせたアシェラが咳き込む。アシェラは美しい瞳を潤ませて、かなしげにグラードを上目遣いに見上げた。敗北が早い。噴き出しそうなのを必死に堪えながら、しょんぼりとするあまりにも可愛いアシェラを見下ろす。グラードは甘く蕩けた声で、うっとりとアシェラに問いかけた。

「どうした俺のアシェラ? それで終わりか? 降参するか?」

 出方を窺うグラードの股間に、アシェラは無言で視線を落とした。
 棍棒ほどに育ったアルティメットドラゴン。ボコボコと血管が隆起し、禍々しいオーラを放つ魔物。アシェラは魔物とグラードとを交互に見やると、無言の葛藤の末キッと目元に力を漲らせると再び挑むことにしたようだ。
 ドラゴンをガシッと掴むと、そのままぽてりとした赤い唇を穂先に押し当て、ドラゴンの凹凸を舌でねっとりと舐め上げる。思わずグラードは吐息を零し、びくりと反応した妖物がうっかりアシェラの陶器の頬をびたんと打った。

「…………なっ!!」
 
 ドラゴンに打たれたアシェラは倒れ込み、打たれた頬に手のひらで押さえてわなわなと震えた。アルティメットしていたせいで攻撃力が高かったらしい。細い肩が震えだす。

「あー……アシェラ、大丈夫か……?」

 気遣わしげな声で問うグラードに、頬を抑えて押し黙っていたアシェラがグッと瞳を怒らせた。

「……てよ……!! 縮めてよ! 今すぐ!! こんなの何にもできないじゃない!! せっかく勉強したのに!!」
「勉強……?」

 ドラゴンの思わぬ反撃にブチギレ出したアシェラに、グラードが眉を顰める。

「私がどれだけ真面目に勉強したと思ってるの!! 口でするやり方も、おっぱいに挟む方法も覚えたのに!」
「……なんだと?」

 グラードの声が不穏に低まり、金色の瞳を眇めたことにも気づかずアシェラは憤然と憤りを吐き出した。

「「ワンナイト」のナンバーワンよ! 直伝なのよ! それなのに貴方のドラゴンがすぐにアルティメットするせいで、何もできないじゃない!! 縮めてよ!! 今すぐ!! 縮めてよ!!」
「こらっ! アシェラ、叩くな!」

 禍々しいオーラを放つ股間の魔物を、アシェラが怒りの形相でペシペシと叩く。グラードはアシェラの手首を掴み取り、宥めるように頬を撫でた。
 
「ワンナイトとは王都の高級娼館のことか? どうやって……ああ、淑女教育か……」

 グラードの問いにアシェラは、怒りに瞳を潤ませながら頷いた。

「ふむ。王宮で選んだ教師ではなく、お前の実家経由で呼んだのはそのためか」
「……伯爵夫人は夫の浮気に悩んでいたのよ。だから夫人を持ちかけて、ワンナイトのナンバーワンを侍女として連れて来させたの! どれだけ苦労したと思っているの!」
「夫人を隠れ蓑に王都一の高級娼婦を、毎回侍女として随行させていたのか……?」

 何をしているのかとため息をついたグラードに、アシェラは憤然と頷いた。
 
「そうまでしないと勝てないじゃない!! グラードがズルするなら、私だってそれくらいは許されるはずよ!」
「俺はズルなどしていないだろ?」
「これがズルじゃないなら、なんだってズルじゃないわ!!」
「こら、叩くな、アシェラ。いつもアシェラを気持ち良くしてくれてる大事なモノだろう?」

 ふんとそっぽをむくアシェラに、グラードは目を細めた。
 どうやらここ二週間の間、本当に勉強はしていたらしい。閨の。アシェラはどうにか閨での主導権を取り戻す、手管を手に入れたかったようだ。

「いつも俺にぐずぐずにされているのが、そんなに悔しかったのか? あんなに喜んでいるのに……」
「貴方のうるさい口を塞いでやるためよ」
 
 ああ、それでなんとか勝ちたくて、あんなにバナナを消費して一生懸命練習したのか。かわいい。どうせ勝てないのに。

「そうだな、俺はアシェラがいい子になるまでしっかり指導するつもりだからな」

 嫌そうに顔を顰めたアシェラは、しょんぼりと肩を落とした。

「伯爵夫人はうまくいったのに……」

 夫の愛人問題に思い悩んでいた伯爵夫人は、ステラーチェの指導を受けてあっさりと夫を陥落させたらしい。今では愛人そっちのけで跪いて、夫人の赦しと夜を懇願されていると感謝の手紙が届いた。それなのに。
 アシェラは完全に失念していた。アシェラの倒すべき相手はバナナではなく、禍々しいオーラを放つ棍棒サイズの凶悪なドラゴンであることを。敗因はアルティメットドラゴン。

「なんで私のは……」
 
 バナナじゃないのか。悔しそうにボロボロと涙をこぼすアシェラの頭を、グラードは宥めるように撫でた。

「……俺のかわいいアシェラ。お前は俺のモノを口に入れたり、その胸で挟み込もうと思っていたのか?」

 ぐずっと鼻を鳴らしたアシェラが、しょんぼりしながらこくりと頷いた。グラードはグッと奥歯を噛み締めた。可愛すぎる。この時ばかりは己がバナナじゃないことが悔やまれるほどに。
 本当に一生懸命学んだのだろう。王宮中が改心したのかと思い始めるほど懸命に。真剣に頑張ったからこそ、失望は大きいようだ。ボロボロと涙をこぼすアシェラを、グラードは優しく撫でて慰める。

「……アシェラ、もう一度頑張ってみるか? 俺も頑張って縮まるように努力するから」

 されてみたいし。協力を申し出たグラードを涙で潤んだ瞳で見上げ、アシェラは涙を拭って頷いた。再びドラゴンと向かい合ったアシェラに、グラードは必死に息を止めた。小さくなれと祈りながら。
 アシェラが豊かなたわわな胸を両手で外に押し開き、グッと上体を寄せてドラゴンを挟もうと胸を中央に寄せる。バナナになら間違いなく勝利していただろうアシェラの胸は、残念ながらドラゴン相手には歯が立たなかった。

「挟めない……」

 震える声で呟いたアシェラに、思わずドラゴンがズクリと反応する。さらに膨らんだドラゴンに、アシェラは一瞬息を飲み泣き出した。

「嘘つき! 全然小さくしてくれないじゃない……! 騙して馬鹿にしてるんでしょ!!」

 泣き出したアシェラの腕を引っ張り上げ、引き寄せると抱き込んで慌てて宥める。

「違う、アシェラ。アシェラが可愛すぎるんだ。本当にわざとじゃない。だから泣くな。悪かった。な?」
「どうしてくれるのよ! せっかく、せっかく覚えたのに……!」
「ごめんな、アシェラ……泣かないでくれ。挟めなくて残念だったな? 頑張ったのにな? 俺も本当にできることならどうにか縮めたいんだ。でもアシェラが可愛すぎるから。ごめんな、俺のかわいいアシェラ……」

 あちこちに唇を落としながら、グラードはシクシクするアシェラを慰める。本当にできることなら縮めたい。正直残念に思う気持ちはアシェラより、グラードの方が上だと思う。腕に抱き込んだ妻が、可愛すぎてどうにかなりそうだ。

「……なぁ、アシェラ。習ったのはそれだけか?」

 グラードの問いに、アシェラは顔を上げた。他にも何かあってくれ。祈るようなグラードの金の瞳を見つめながら、アシェラは懸命に学んだ授業の内容を思い返す。

「口でして……おっぱいで挟んで……それから……」

 言い差したアシェラが言葉を止め、ゆっくりと目を見開いた。その口元がゆっくりと笑みに釣り上がる。

「……アシェラ?」

 言葉を切ったアシェラを覗き込もうとしたグラードは、爛々とした瞳の輝きを取り戻したアシェラに肩を押されて寝台に倒れ込んだ。グラードが見上げたアシェラは、再び高慢な笑みを取り戻している。

「……私がこの程度で負けを認めると?」

 よかった。まだ何かあった。ドラゴンに折れかけていたアシェラが、起死回生の一手を思い出してくれたらしい。グラードは胸を撫で下ろす心地で、勝ち誇るアシェラを見上げた。
 元気を取り戻したアシェラは、グラードの顔の横についていた右手を、グラードの腹筋をなぞりながら移動させていく。そのまま下がっていった手が、今度はアシェラの下半身に移動して淫らに動き始めた。

「なっ……!」
 
 思わずごくりと唾を飲み込んだグラードの視界が、近づいてきたアシェラに覆われる。重なった唇の甘さに夢中で舌を絡ませながら、覆われた視界の先の光景の想像に、またどくりとドラゴンが膨らみを増す。

「ん……ふっ……あぁ……」

 アシェラが自分を慰めながら上げる声に、グラードはぞくぞくと背筋を震わせた。弾む呼吸に唇が離れる。ドラゴンには敗北した豊かな胸を、たゆたゆと揺らしながら身をくねらせ光景に、グラードの脳が沸騰する。アシェラがグラードの腹の上に跨り、自分でソコを捏ね回している。クチュクチュと卑猥な音を奏でる光景を見せつけられて、グラードは喉を鳴らしながら思わず伸ばした手が押さえつけられた。

「んぁ……はぁ……あ……ダメ、です……見せつけるのも……だ、大事だって……んんっ……」
「あぁ……アシェラ、いいのか? 自分でいじるのがイヤらしく腰を揺らすほどいいのか?」
「あん……いい……気持ちいい……」

 グラードは今回ばかりはアシェラの人選を褒めてやりたくなった。
 恍惚と頤を逸らして喘ぐ美しい妻の淫らな痴態に、グラードの脳がグラグラ揺れる。溶け始めた理性に金の瞳が輝きを増して、瞳孔が縦に切れ上がっていく。龍の気配にアシェラの喘ぎが甲高く翻った。
 龍専用の女の身体がドラゴンを求めて疼き出し、アシェラの見せつける手淫から余裕が消えていく。なりふり構わず絶頂を目指す動きに、グラードは唇を舐めた。

「いくんだろ? アシェラ、俺にイキ顔を見せろ」
「あ、あ、あ、いくの……いくの、グラード! ああっ! いく! ああ、ああーーーー!」

 肢体を弓形に反らせて絶頂したアシェラに、言いようのないほど興奮を覚えた。余韻にゆるやかに腰を揺らしながら、グチュグチュと音を立てて下腹部を弄り続けるアシェラを力づくで引き寄せる。
 奪うように口付けながら、アシェラのとろりと蜜を垂らすソコに、限界まで怒張したドラゴンを擦り付けた。
 絶頂したソコに隆起した魔物に刺激され、アシェラが泣きそうな声を上げる。このまま抱き潰してやりたい衝動を、なんとか必死に堪えて、グラードは龍の気配を濃くしながら爛々と瞳を光らせた。

「アシェラ、それで終わりか? 俺をわからせてくれるんだろ? ほら、早くわからせてくれ」

 揺れる胸の尖った頂きをつねり上げると、アシェラが震える喘ぎをこぼした。
 
「ふぅ……んぁ……あぁ……」

 グラードの促しにアシェラは、絶頂の余韻に震える足を叱咤して身を起こす。花芯をずりずりと擦り続けるアルティメットをガシッと掴み取ると、こぼした蜜で滑るそれをアシェラの秘裂にあてがった。快楽に蕩け切った美貌が、グラードに一瞬勝ち誇った笑みを浮かべる。そしてアシェラはそのまま一気に、秘裂に当てがった穂先に腰を落とした。

「あああぁぁぁーーー!!」
「ぐっ! あぁ……アシェラ……!!」

 ねっとりとグラードのドラゴンに、アシェラの潤んで熱を持つ媚肉が絡みつく。引き絞るようにうねる肉襞の責め苛むような快楽に、グラードは歯を食いしばった。
 たまらずグラードは一気にドラゴンを奥まで受け入れ、絶頂したアシェラの細い腰を掴み下から突き上げる。まとわりつく媚肉を擦りたてる愉悦に、グラードの脳が悦楽に溶け始める。

「ああ……ああ……」
「どうした、アシェラ? 腰を振れ、俺を楽しませろ」

 完全に縦になった瞳孔の龍の瞳で、突き上げるたびに艶やかに痴態を晒すアシェラを視姦する。たゆたゆと揺れる胸と緩やかにゆらめく細腰。快楽にトロトロに蕩けた美貌。
 視界に映るアシェラの媚態に息を荒げながら、細腰を掴んで容赦なく突き上げる。最愛の女の中が与えてくる快楽に腹筋を震わせながら、久しぶりに味わう愛しい妻の身体を犯した。

「ああ、いい……アシェラ……俺の愛しい妻……」
「やぁ……グラード……いってる……もう、いってるのぉ……」

 極めた中が痙攣を繰り返す膣壁を抉りながら、夢中になって絶頂の頂から降りられないままのアシェラに穿つ。圧倒的な快楽に腰を止める術はなかった。

「あぁ……アシェラ……アシェラ……俺の妻……俺だけの女……」

 今自分の上で揺れる眩暈がするほど美しい女の、その全てが自分のものだ。宝石の瞳も、果実の唇も、陶器の肌も、黄金の髪の毛一本すらも。
 自分を覚醒させた唯一無二の生涯の伴侶。グラード専用に作り替えた肢体が与えてくる、至上の愉悦に慄きながらグラードも限界を迎えた。
 最奥に叩きつけるようにぶちまけた灼熱に、アシェラが一際甲高く啼いて、咥え込んだドラゴンを健気に引き絞る。

「ああ……愛してる、アシェラ……」

 快楽に蕩けたまま余韻に震えて言葉も出ないアシェラに、脳と理性が溶け切ったグラードはただ際限なく募る愛しさに泣きたくなった。もう抵抗すらもできないほどトロトロのアシェラを引き寄せると、繋がったままのドラゴンが再びアルティメットをし始める。

「俺だけのかわいいアシェラ……」

 グラードは甘い囁きをこぼしながら、久しぶりに味わう愛しい妻を心ゆくまで堪能した。
  
※※※※※

 一般的なバナナには有効らしい手管も、ドラゴン相手には通用しない。理由はデカすぎるから。
 今回も敗北を認めざる得なくなったアシェラは、ドラゴン用の手管を求めてようやく王家の閨教育を受けることにした。そこで知った事実にブチ切れ、アシェラは指南書を叩きつけて怒鳴った。
 
「……寝なさいよ!!」

 一晩中やり倒した挙句に、お仕置きまでこなすグラード。ヘロヘロのアシェラを他所に、いそいそと執務に戻る体力の理由を知り、アシェラは怒りのあまり叩きつけた指南書を踏みつけた。
 覚醒すると思考力、身体能力が上がる上に、睡眠の必要までなくなるとか。なんだそれ、聞いてない。

「こら、アシェラ、悪い子だな。指南書を踏みつけたらダメだろう?」

 指南書に盛大に八つ当たりしていたアシェラは、低く穏やかに響く美声に恐る恐る振り返った。

「グラード……あ、私はちゃんと妃教育を……だからお仕置きは……」

 そろそろと後ずさるアシェラの腰を捕まえて、グラードは金色の瞳を優しく和ませた。

「そうだな。勉強してえらいぞ。いい子だな、アシェラ」

 ホッと表情を緩ませたアシェラに、グラードの胸に愛おしさが込み上げる。捕まえた腰を引き寄せて、滑らかな白い頬を指先でなぞった。

「でもな、アシェラ。俺たちは夫婦だ」

 機嫌よくそう言ったグラードに、アシェラは警戒を滲ませながら慎重に頷いた。グラードはアシェラを見つめたまま、金色の瞳をとろりと蕩けさせる。

「だからな、いつでも愛し合っていいんだ。別にお仕置きじゃなく、お前がいい子でも悪い子でも。愛し合いたいと思うときに、好きなだけしていいんだ」

 驚愕に瞳を見開いたアシェラに、グラードは喉奥でくつくつと笑った。悪さの頻度が高くてお仕置きばかりされているアシェラは、そのせいで悪さしなければ大丈夫だと思い込んでいる。いい子でも悪い子でも、やられるのに。夫婦なのだから。
 衝撃の事実にフリーズしたアシェラに、グラードはそっと顔を近づけた。そして美しい妻の美貌に心の中で誓った。もう夜、寝てても起こそう、と。
 自分が迎えた美しい伴侶は、余計な体力を残したらダメな女だ。本当にろくなことしない。毎日毎晩、隅々まで丁寧に可愛がって、ヘロヘロにしておかなければいけない、とても手間のかかる女なのだ。

「愛してるよ、俺のかわいいアシェラ。俺が生涯大切にかわいがってやるからな……」

 呆然とする熟れた果実の甘い唇に、唇を重ね合わせながらグラードは、唯一無二の手のかかる愛しい宝物を抱き寄せた。


 
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