七虹精神隔離病院~闇は誰もが持っている!!~

白雪 鈴音

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穏やか(?)な日常

もう一度

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「秋良先生!!」

その日の昼食時、雪成はバスケットを片手に秋良を探していた。
朝の事でちゃんと話しがしたかったからだ。
彼の性格上自分と同じように患者と食べているとは思えない。
屋上や休息室、中庭なども探したが何処にも見当たらない。
行く先々で看護師に見かけたら探していたと伝えて欲しいと言伝を頼み、そのまま中庭で昼食をとる事にした。
花々が輝く花壇の前のベンチに座り、バスケットを開く。
中には青々と新鮮な野菜、トマト、ハムや卵を挟んだサンドイッチが入っていた。
女子力が高いと過去に突っ込んだ看護師の一人は翌日院長室へと呼ばれたらしい。
朝は必ず患者と食べ、昼は院長の作ったお弁当、夜は自由に、といった感じで一日の食事は行われる。
何故このような食事なのかといえば、数年前までは人と同じ食事が取れなかった為である。
というのも当時の雪成は味覚がおかしくなっており、何を食べても土臭いと言っていた。
それを少しづつ改善し、今では病院食と森末の料理を挟めばなんでも食べられるようにまで回復した。
その為夜は好きなものを食べて良いと森末は雪成に言ったのだ。
今日中に秋良とは会うことが出来るのか、影森とは上手く打ち解けることが出来るのだろうかと、思考をクルクル回転させながら、花壇の花を眺め食べていると、ヒヤリと冷たい物が首筋へと当てられた。

「ひゃっ……!!?」

我ながら思う。
自身が出した声の高い事。
当てられた方を見ると、当てられていたのはレモンティーだった。
そして当ててきた人物は先程まで探していた秋良だった。
秋良は雪成の出した声に”うるさい”と文句を言ったが、内心では”可愛い声出してんじゃねぇよ”と叫んでいた。

「あ、秋良先生……?探してたんですよ!どこにいたんですかぁ……?」

今朝のこともあり、なかなか強気に出られない雪成の様子を察したのか、溜息をつきながら秋良は答えた。

「……患者んとこだよ。最近風邪、流行ってんだろ」

そう、秋良の昼休みは殆どが入院している患者へと当てられている。
当然、些細な症状も重度になる前に抑え込んでおけば完治が早い上に死亡率はほぼ0に等しくなる。

「秋良先生が……?」

「なんだよ。意外か?」

「まぁ、はい。」

正直意外だった。
けれど腑に落ちた点もある。
院を出て行くとき、患者は基本的に秋良に礼を言いたい、と何気に秋良の人気は高かった。
いつも不思議に思っていたのだが、遅くそういう細かな気遣いが患者の心をも多少は救っているのだろう。

「それで、話ってなんだ?なるべく早く済ませろ。」

バスケットを置いていた所を開け、隣に座っても大丈夫、とでも言いたげに秋良を見れば秋良はその通りに隣に腰掛ける。

「さっきさ、秋良先生がなんで怒ったのかわからなかった。けど、ある人に助言をもらって……ようやく分かった。秋良先生は影森君の事が心配だったんだね」

先程のレモンティーは二人の間に置かれ、秋良は前のめりに指を組む。
秋良と雪成の間に少し間が生まれる。
秋良もまさか苦手意識を持たれている雪成にこのような事を言われるとは思っても居なかったのだろう。
そんな中、響き渡ったのは昼休み終了を告げるベル。
秋良はそれを聞けばすっと立ち上がり雪成を見下ろして、

「別に。それが俺に出来る最大限だろ。」

そう言えばくるりと背を向けて歩き出した。
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