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【0-1】「とある死神の追憶」
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囚人が一人、失命した。
食欲旺盛な悪魔に囲まれたのが運の尽きだ。
命の証(あかし)を失い、肉塊と成り果てた囚人の許に群がり始めたかと思えば、四散を赦すことなく手足を引き千切り、頭の上から指の先まで、跡形も残さずに食い散らかしていく。
意識を失うことが出来れば、或いは多少の救いがあったのかもしれない。
けれどもその囚人は、自身に群がる悪魔どもの牙や爪によって、拷問にも勝るとも劣らない恐怖と絶望を脳に植え付けられ、嬲り殺されたのだ。
痛かっただろう、苦しかっただろう、辛かっただろう。
そしてまた、その囚人は、今から七日後に二度目の死を迎えなければならない。たった今、死のカウントダウンが幕を開けたのだ。
記憶の引き出しに鍵を掛けていないとすれば、わたしはその囚人の名前を知らないし、言葉を交わしたこともないはずだ。
つまりは、大切な人を失ったわけではないのだ。
それなのに、何故、わたしは泣いているのだろうか。
「……っ」
次なる標的を決めた悪魔どもは、ゆっくりと黒羽を羽ばたかせながら距離を測り、わたしに向けて下卑た笑いを浴びせる。
鋭く尖った爪には彼の血がこびり付き、肉片が挟まっているに違いない。
想像するだけでも吐き気を催しそうになるが、喉を通る前に強引に押し戻し、逆流を拒絶する。
これも全ては意識的なものでしかないけれども、無理やりにでも鼓舞しなければ戦えないし、立ち向かうことも出来ない。
でも、だからこそ、わたしは自分に言い聞かせる。
「わたしは死なない、……絶対に、死ねない……っ」
目の前に立ちはだかる現実から目を背けてはならない。
そんなことをすれば、此処ではあっという間に死することになる。
全神経を研ぎ澄ませ、敵の動きに集中しなければ、次に殺されるのはわたしだ。こんなところで死んでたまるものか。
「絶対に……生き残ってみせる……」
黒衣を身に纏ったわたしは、左手を横に伸ばして肩の高さへと上げる。
直後、鈍い輝きを放つ黒い鎌が何もない空間に形成し、左腕に巻きついていく。
黒い鎌を視界に映し、悪魔どもは臨戦態勢を整えるが、その姿を視認することなく、わたしは誰にも聞こえないようにそっと呟いた。
「――だから、わたしを恨まないで」
一秒後、悪魔ども目掛けて、わたしは死神の如く空を駆けていた――…
食欲旺盛な悪魔に囲まれたのが運の尽きだ。
命の証(あかし)を失い、肉塊と成り果てた囚人の許に群がり始めたかと思えば、四散を赦すことなく手足を引き千切り、頭の上から指の先まで、跡形も残さずに食い散らかしていく。
意識を失うことが出来れば、或いは多少の救いがあったのかもしれない。
けれどもその囚人は、自身に群がる悪魔どもの牙や爪によって、拷問にも勝るとも劣らない恐怖と絶望を脳に植え付けられ、嬲り殺されたのだ。
痛かっただろう、苦しかっただろう、辛かっただろう。
そしてまた、その囚人は、今から七日後に二度目の死を迎えなければならない。たった今、死のカウントダウンが幕を開けたのだ。
記憶の引き出しに鍵を掛けていないとすれば、わたしはその囚人の名前を知らないし、言葉を交わしたこともないはずだ。
つまりは、大切な人を失ったわけではないのだ。
それなのに、何故、わたしは泣いているのだろうか。
「……っ」
次なる標的を決めた悪魔どもは、ゆっくりと黒羽を羽ばたかせながら距離を測り、わたしに向けて下卑た笑いを浴びせる。
鋭く尖った爪には彼の血がこびり付き、肉片が挟まっているに違いない。
想像するだけでも吐き気を催しそうになるが、喉を通る前に強引に押し戻し、逆流を拒絶する。
これも全ては意識的なものでしかないけれども、無理やりにでも鼓舞しなければ戦えないし、立ち向かうことも出来ない。
でも、だからこそ、わたしは自分に言い聞かせる。
「わたしは死なない、……絶対に、死ねない……っ」
目の前に立ちはだかる現実から目を背けてはならない。
そんなことをすれば、此処ではあっという間に死することになる。
全神経を研ぎ澄ませ、敵の動きに集中しなければ、次に殺されるのはわたしだ。こんなところで死んでたまるものか。
「絶対に……生き残ってみせる……」
黒衣を身に纏ったわたしは、左手を横に伸ばして肩の高さへと上げる。
直後、鈍い輝きを放つ黒い鎌が何もない空間に形成し、左腕に巻きついていく。
黒い鎌を視界に映し、悪魔どもは臨戦態勢を整えるが、その姿を視認することなく、わたしは誰にも聞こえないようにそっと呟いた。
「――だから、わたしを恨まないで」
一秒後、悪魔ども目掛けて、わたしは死神の如く空を駆けていた――…
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