【完結】Endless Gate Online

ひじり

文字の大きさ
上 下
1 / 59

【0-1】「とある死神の追憶」

しおりを挟む
 囚人が一人、失命した。
 食欲旺盛な悪魔に囲まれたのが運の尽きだ。

 命の証(あかし)を失い、肉塊と成り果てた囚人の許に群がり始めたかと思えば、四散を赦すことなく手足を引き千切り、頭の上から指の先まで、跡形も残さずに食い散らかしていく。

 意識を失うことが出来れば、或いは多少の救いがあったのかもしれない。
 けれどもその囚人は、自身に群がる悪魔どもの牙や爪によって、拷問にも勝るとも劣らない恐怖と絶望を脳に植え付けられ、嬲り殺されたのだ。

 痛かっただろう、苦しかっただろう、辛かっただろう。

 そしてまた、その囚人は、今から七日後に二度目の死を迎えなければならない。たった今、死のカウントダウンが幕を開けたのだ。

 記憶の引き出しに鍵を掛けていないとすれば、わたしはその囚人の名前を知らないし、言葉を交わしたこともないはずだ。
 つまりは、大切な人を失ったわけではないのだ。

 それなのに、何故、わたしは泣いているのだろうか。

「……っ」

 次なる標的を決めた悪魔どもは、ゆっくりと黒羽を羽ばたかせながら距離を測り、わたしに向けて下卑た笑いを浴びせる。

 鋭く尖った爪には彼の血がこびり付き、肉片が挟まっているに違いない。
 想像するだけでも吐き気を催しそうになるが、喉を通る前に強引に押し戻し、逆流を拒絶する。

 これも全ては意識的なものでしかないけれども、無理やりにでも鼓舞しなければ戦えないし、立ち向かうことも出来ない。

 でも、だからこそ、わたしは自分に言い聞かせる。

「わたしは死なない、……絶対に、死ねない……っ」

 目の前に立ちはだかる現実から目を背けてはならない。
 そんなことをすれば、此処ではあっという間に死することになる。

 全神経を研ぎ澄ませ、敵の動きに集中しなければ、次に殺されるのはわたしだ。こんなところで死んでたまるものか。

「絶対に……生き残ってみせる……」

 黒衣を身に纏ったわたしは、左手を横に伸ばして肩の高さへと上げる。
 直後、鈍い輝きを放つ黒い鎌が何もない空間に形成し、左腕に巻きついていく。

 黒い鎌を視界に映し、悪魔どもは臨戦態勢を整えるが、その姿を視認することなく、わたしは誰にも聞こえないようにそっと呟いた。

「――だから、わたしを恨まないで」



 一秒後、悪魔ども目掛けて、わたしは死神の如く空を駆けていた――…
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

(完結)愛しているから

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:4,700pt お気に入り:261

Hollow Faker ─偽造者─

SF / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:1

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:276pt お気に入り:1,548

9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,660pt お気に入り:2,782

夫は永遠に私を愛さない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:560pt お気に入り:256

処理中です...