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【2-5】「夜森の庭」
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夜森と名が付くように、ダンジョン内は暗闇が支配している。
魔王軍の陣地も空が暗かったが、こちらも負けてはいない。人工的な光は皆無で、木々の隙間から差し込む日の光が唯一の道しるべと言えるだろう。
「真っ暗で何も見えねえぞ」
「そう言うと思ったわ」
予めオレの台詞を予期していたのか、ロアは夜森の中で左手首を軽く振ってみせる。
「うわっ」
突如、ロアの指先に向けて光が集束する。空から見え隠れする太陽を集めるかのように、眩い輝きを放ち始めた。
「ロアッ、どうなってんだ」
「光の集めただけよ」
と言い、少しばかし得意げにオレの顔に見る。
驚くさまがおかしかったのか、心なしかロアは嬉しそうに見えた。
「属性や種族に関係なく習得可能な初歩の魔法だから、サンタもすぐに覚えるわ」
もう一度、左の手首を振る。
指先に集まった光を前に飛ばし、魔法によって生み出された幻想的な灯りが夜森に道しるべを作り出していく。
「……綺麗だな」
「えっ、……あ、ええ、……そう、ね」
淡い光を放つ夜森の道にオレは見惚れていた。
こんなにも綺麗で現実離れした景色は、此処でしかお目に掛かれない。仮想世界を満喫するプレイヤーならではの特権だ。
ロアと二人で光に包まれた道を進んでいく。
そして、すぐにレッカスたちの姿を見つけた。
「ヨシルカ」
「おう、アンノル! やっと来たか」
怒り気味の口調のロアを気にすることもなく、レッカスは片手を上げて反応する。
他のメンバーも、すぐそばにいるようだ。
「お前らが到着するのを待ちきれなかったんでよ、ちょいとMOBを狩ってたぜ」
そう言って、レッカスは顎で隣を指す。その先には、頭部を切断されて今にもエフェクトが消滅しそうなMOBが倒れていた。
「そいつ、レッカスたちが倒したのか?」
「勿論だ。パーティー組んでるからサンタにも経験値が入ってるはずだぜ」
まだ一度も戦闘をこなしていないが、とりあえずステータス画面を確認してみる。
すると、レッカスの言うとおりに僅かだが経験値が溜まっていた。
「レベルはまだ上がってねえだろうけどよ、んなもん俺たちとパーティーを組めば時間の問題だ。此処で一時間ぐらいぶっ続けでMOBを狩り続けりゃ、魔王討伐クエストが開始するまでにはレベル10にはなってるはずだぜ」
レベルは、上がれば上がるほど次のレベルに上がるための必要経験値が高くなっていく。
だが、最初の段階では、レベルの高いプレイヤーと共に効率のいい経験値の稼ぎ方をしていれば、あっという間にレベルが上がっていく。
これはVRMMOに限らず、他のゲームでも同じことが言えるだろう。
ロアやレッカスがパーティーを組んでくれたおかげで、オレは楽にレベルを上げることができそうだ。
「サンタ、お前さんのステータス画面見せてみろよ。あと二回か三回ほど戦闘すればレベルが上がるんじゃねえの」
オレの隣に並んでいたロアを押しのけ、レッカスが顔を覗かせる。
一瞬、ロアの表情が引きつったのは、見て見ぬふりをしておこう。それが安全だ。
「経験値が5ポイント加算されてるな、次のレベルアップまで、あと……」
レッカスの声が止まった。
横を見ると、口を開けたまま固まっている。
「どうした、レッカス?」
「あ、……いや、っていうかなんだこれ? バグってんのか?」
眉根を寄せるレッカスは、ステータス画面を指さし問いかける。
逆隣りに移動したロアが、オレと共にステータス画面に視線を落とす。そして、
「数値が……無くなってる……」
ぼそりと、ロアが呟いた。
言葉通り、オレのステータス画面には、他のプレイヤーにはあるはずのレベルアップまでに必要な経験値が表示されていなかった。それどころか、レベル自体が存在していない。
「これって、つまりオレは……レベルアップできないってことなのか?」
「……そう、かもね」
これは、此処にいる誰もが未経験の出来事だ。
曖昧な返事しかできるはずがない。
ロアは勿論、レッカスや、他のメンバーにも、レベルアップするための数値が表示されている。だがオレには、それが存在しない。ひょっとすると、オレは一生このままなのか。
「なあ、此処に来た意味あるのか」
堪らず、ロアに問い訊ねた。しかしながらその答えを知っているのは、恐らくはゲームマスターしかいないだろう。
「分からないわ。……でも、経験値が貯まっているのは確かよ」
「……まあ、そうだな」
先ほどレッカスがMOBを倒した際、パーティーのメンバーであるオレにも経験値が加算されていた。レベルが上がることはなくとも、経験値を貯めることは可能ということだ。
「とりあえず、今は考えるのを止めよう。EGOでの戦い方を覚えるのが先だ」
頭を悩ませていても答えが出てくると決まっているわけではない。
あと数時間後には魔王討伐クエストが開始し、魔王軍全てのプレイヤーの命を懸けて、勇者軍の挑戦を受けなければならない。
もたもたしていては時間が幾らあっても足りない。
「そうと決まれば狩りまくろうぜぃ」
ブンッと首を横に振り、勢いをつけて飛翔する。
空を飛ぶことが可能なレッカスは夜森の暗さなど関係ないようだ。木々の天辺(てっぺん)まで上昇し、暗闇に埋もれた夜森を見渡していく。
「あっちに一匹、そっちにも二匹、……お、そこにも一匹発見だ。んでもって、こっちには行くんじゃねえぞ、七人で固まってやがる。お前らしっかりと距離を保ちやがれー」
「サンタ、行くわよ」
MOBの位置を把握し、ロアは夜森の中を歩き始めた。
各々、レッカスに示された地点へと足を向け、狩りの開始だ。
魔王軍の陣地も空が暗かったが、こちらも負けてはいない。人工的な光は皆無で、木々の隙間から差し込む日の光が唯一の道しるべと言えるだろう。
「真っ暗で何も見えねえぞ」
「そう言うと思ったわ」
予めオレの台詞を予期していたのか、ロアは夜森の中で左手首を軽く振ってみせる。
「うわっ」
突如、ロアの指先に向けて光が集束する。空から見え隠れする太陽を集めるかのように、眩い輝きを放ち始めた。
「ロアッ、どうなってんだ」
「光の集めただけよ」
と言い、少しばかし得意げにオレの顔に見る。
驚くさまがおかしかったのか、心なしかロアは嬉しそうに見えた。
「属性や種族に関係なく習得可能な初歩の魔法だから、サンタもすぐに覚えるわ」
もう一度、左の手首を振る。
指先に集まった光を前に飛ばし、魔法によって生み出された幻想的な灯りが夜森に道しるべを作り出していく。
「……綺麗だな」
「えっ、……あ、ええ、……そう、ね」
淡い光を放つ夜森の道にオレは見惚れていた。
こんなにも綺麗で現実離れした景色は、此処でしかお目に掛かれない。仮想世界を満喫するプレイヤーならではの特権だ。
ロアと二人で光に包まれた道を進んでいく。
そして、すぐにレッカスたちの姿を見つけた。
「ヨシルカ」
「おう、アンノル! やっと来たか」
怒り気味の口調のロアを気にすることもなく、レッカスは片手を上げて反応する。
他のメンバーも、すぐそばにいるようだ。
「お前らが到着するのを待ちきれなかったんでよ、ちょいとMOBを狩ってたぜ」
そう言って、レッカスは顎で隣を指す。その先には、頭部を切断されて今にもエフェクトが消滅しそうなMOBが倒れていた。
「そいつ、レッカスたちが倒したのか?」
「勿論だ。パーティー組んでるからサンタにも経験値が入ってるはずだぜ」
まだ一度も戦闘をこなしていないが、とりあえずステータス画面を確認してみる。
すると、レッカスの言うとおりに僅かだが経験値が溜まっていた。
「レベルはまだ上がってねえだろうけどよ、んなもん俺たちとパーティーを組めば時間の問題だ。此処で一時間ぐらいぶっ続けでMOBを狩り続けりゃ、魔王討伐クエストが開始するまでにはレベル10にはなってるはずだぜ」
レベルは、上がれば上がるほど次のレベルに上がるための必要経験値が高くなっていく。
だが、最初の段階では、レベルの高いプレイヤーと共に効率のいい経験値の稼ぎ方をしていれば、あっという間にレベルが上がっていく。
これはVRMMOに限らず、他のゲームでも同じことが言えるだろう。
ロアやレッカスがパーティーを組んでくれたおかげで、オレは楽にレベルを上げることができそうだ。
「サンタ、お前さんのステータス画面見せてみろよ。あと二回か三回ほど戦闘すればレベルが上がるんじゃねえの」
オレの隣に並んでいたロアを押しのけ、レッカスが顔を覗かせる。
一瞬、ロアの表情が引きつったのは、見て見ぬふりをしておこう。それが安全だ。
「経験値が5ポイント加算されてるな、次のレベルアップまで、あと……」
レッカスの声が止まった。
横を見ると、口を開けたまま固まっている。
「どうした、レッカス?」
「あ、……いや、っていうかなんだこれ? バグってんのか?」
眉根を寄せるレッカスは、ステータス画面を指さし問いかける。
逆隣りに移動したロアが、オレと共にステータス画面に視線を落とす。そして、
「数値が……無くなってる……」
ぼそりと、ロアが呟いた。
言葉通り、オレのステータス画面には、他のプレイヤーにはあるはずのレベルアップまでに必要な経験値が表示されていなかった。それどころか、レベル自体が存在していない。
「これって、つまりオレは……レベルアップできないってことなのか?」
「……そう、かもね」
これは、此処にいる誰もが未経験の出来事だ。
曖昧な返事しかできるはずがない。
ロアは勿論、レッカスや、他のメンバーにも、レベルアップするための数値が表示されている。だがオレには、それが存在しない。ひょっとすると、オレは一生このままなのか。
「なあ、此処に来た意味あるのか」
堪らず、ロアに問い訊ねた。しかしながらその答えを知っているのは、恐らくはゲームマスターしかいないだろう。
「分からないわ。……でも、経験値が貯まっているのは確かよ」
「……まあ、そうだな」
先ほどレッカスがMOBを倒した際、パーティーのメンバーであるオレにも経験値が加算されていた。レベルが上がることはなくとも、経験値を貯めることは可能ということだ。
「とりあえず、今は考えるのを止めよう。EGOでの戦い方を覚えるのが先だ」
頭を悩ませていても答えが出てくると決まっているわけではない。
あと数時間後には魔王討伐クエストが開始し、魔王軍全てのプレイヤーの命を懸けて、勇者軍の挑戦を受けなければならない。
もたもたしていては時間が幾らあっても足りない。
「そうと決まれば狩りまくろうぜぃ」
ブンッと首を横に振り、勢いをつけて飛翔する。
空を飛ぶことが可能なレッカスは夜森の暗さなど関係ないようだ。木々の天辺(てっぺん)まで上昇し、暗闇に埋もれた夜森を見渡していく。
「あっちに一匹、そっちにも二匹、……お、そこにも一匹発見だ。んでもって、こっちには行くんじゃねえぞ、七人で固まってやがる。お前らしっかりと距離を保ちやがれー」
「サンタ、行くわよ」
MOBの位置を把握し、ロアは夜森の中を歩き始めた。
各々、レッカスに示された地点へと足を向け、狩りの開始だ。
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